【インタビュー】奈緒 角川春樹が最後のメガホン! 映画『みをつくし料理帖』で悲しき太夫を熱演

 大坂(大阪)で生まれ育った2人の少女の絆が、思い出の味に導かれ、江戸で再び巡り合う。髙田郁による感動の時代小説「みをつくし料理帖」が待望の映画化。同作を“生涯最後の映画監督作”とした角川春樹監督のもと、美しくも悲しき太夫を演じたのはNHK連続テレビ小説『半分、青い。』やドラマ『あなたの番です』などで話題の女優・奈緒!
撮影・蔦野裕/ヘアメイク・竹下あゆみ/スタイリスト・岡本純子/ワンピース4万9000円(税別)プレインピープル(プレインピープル青山 03-6419-0978)

幼き日に見た夢とあこがれ



「映画が大好きなんです。女優になりたいと思っていたときも、映画館で映画を見ながら、いつかこの大きなスクリーンの向こう側へ行ってみたいと夢を思い描いていました」と振り返る女優・奈緒。その夢をかなえ、今さらに活躍目覚ましい彼女の最新作『みをつくし料理帖』がいよいよ公開。奈緒が演じるのは、松本穂香が演じる主人公・澪の幼なじみであり、後に吉原で頂点を極める花魁、あさひ太夫となる野江。以前から太夫という役を演じてみたかったという。

「小学生のころ、太夫の悲恋を描いた読み切りのコミックを読んだことがあったんです。それまで読んでいたキラキラした少女漫画とはまた違う、大人の女性の恋に胸が切なくなるという感覚に初めて触れた瞬間でした。なぜ恋のお話なのに涙が出るんだろうと思い、物語の世界観も今の平和な時代を生きている自分からすればファンタジーの世界のようで、そのなかで生きる太夫の切なさに強く胸を打たれました。その後、学生になって宮木あや子さんの『花宵道中』などの時代小説も読むようになり、こんなふうに強く生きた女性たちがいたんだな、という尊敬とあこがれを強く感じるようになったんです」

 あこがれの太夫を演じて…。

「太夫というのは当時の大スターのような存在だと思っていたのですが、1人の人物として演じてみて、こんなにさみしい気持ちや切ない思いを抱えていたんだ、と改めて感じさせられました。行きたいところにも行けない、言いたいことも言えない。なぜこんなに苦しいんだろうと思いながら、あさひ太夫を演じていました」

 それでも、困難な時代で懸命に生きる姿に心引かれてやまない。

「私は、昔の作品がとても好きなんです。例えば黒澤明監督の作品もそうですが、生きるということをまっすぐに描いている気がして。そういう作品を見るたびに自分はいま、ちゃんと生きることができているだろうかと考えさせられます」
 吉原の頂点を極めながらもその素顔を知る者がないという謎に包まれた存在である、あさひ太夫。凛とした気品と、どこか影のあるミステリアスな女性を見事に体現した。

「以前、時代劇をやらせていただいたときに一通りの所作を学んだことはあったのですが、今回の太夫の所作は、それとはまったく違うものだったので、大変ではありました。でも又次役の中村獅童さんが、撮影現場でその場面に合わせた太夫の動きをアドバイスしてくださったので、とても心強かったです。太夫の足の流し方はこっちのほうがきれいに見えるよとか、その瞬間まさに所作の先生のようで、さすが獅童さん、と思いました」

“角川組”ならではの超ベテラン俳優陣との共演も大きな経験に。

「本読みのとき、この諸先輩方と同じテーブルに自分がついていることが不思議な気持ちでした。その段階で背筋がスッと伸びる気持ちになり、この機会に自分がどれだけ大切なことを吸収できるかを考えながら現場に臨みました。撮影現場では、みな本当に気さくに接してくださいました。とくに石坂浩二さんと浅野温子さんが自分の目の前で談笑している光景には感動してしまって(笑)。浅野さんには、演技の学校に通っていたころに授業で『101回目のプロポーズ』を使わせていただいたことをお話したら、あらそうなの!と笑ってお話を聞いてくださって。その後、石坂さんと一緒に、苦労した下積み時代もあったんだよという過去のお話も聞かせていただき、とても貴重な経験になりました」

 そして、物語の中で最も深く強い絆で結ばれている存在・澪を演じた松本穂香とは、プライベートでも親交を深める仲に。澪と野江は幼いころに生き別れとなってしまうため、実際に2人が一緒に撮影したシーンは少なかったという。

「だからこそ再会シーンに、やっと会えたという思いが詰まったのではないかと思います。松本さんとはすっかり仲良くなっていたのですが、再会シーンの前にはお互いにそのシーンの話はまったくしませんでしたね。だからこそなのか、とても自然に、ずっと会うことができていなかった2人がやっと会えたという気持ちになりました。そのシーンを終えた後、私は、カットがかかったのに気持ちが止まらないという初めての感覚を覚えていました。なんだろう、これ…と言っていると、松本さんも、私もこんなの初めてとおっしゃっていて。2人とも、芝居をしていて嘘がない瞬間に出会うことができたんだと思います」
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