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「新しい波」【36歳のLOVE&SEX】#18

2021.10.22 Vol.web Original

 先日クラウドファンディングで支援したブランドの製品が届いた。

 私自身、経済的に余裕があるというわけでもないし、月々のお給料は決まっているので、何でもかんでも支援するわけではないが、今回はぜひ協力したいと思って支援することに決めた。

 

 それが、この記事の写真に掲載されている、BONHEURというブランドである。

 このWEHVE(ウェーブ)という新製品の制作に関するクラウドファンディングだ。

 

 これまでアダルト業界で働いてきて、消費者に訴えかける色使いのルールはいくつかに分類されるように感じていた。

 男性向けAVのジャケットなら三原色などパッと目をひくものが多かったり、専属女優さんが複数出ているようなものであれば金色をいれて豪華さをアピールしたり。

 女性向けの作品やサイトに関しては、男性向けと反対にあえて淡い色をメインにして、「男性向けのものではなく、あなたたち女性のためのものですよ」というメッセージを込めたりした。

 

 仕入れたアダルトグッズに関しても傾向があるように思う。
女性向けのグッズの色はピンクが多い。人気があるからなのか、メーカー側から「女性ならピンク系は必須」と思って作っているからかはわからない。ただ、同じ形でカラーバリエーションがあった場合は、ピンク系のほうが若干売上が良かったりする。

 

 そんな考えを持っていたが、今回のWEHVEはシンプルなネイビーブルー。

 自分がこれまで培ってきた経験の中からは絶対に出ない発想だ。
(ちなみに、他のアイテムのデザインもとても良い。)

 そんな新しい発想や理念を持ったブランドが登場したことがとても刺激になり、ぜひ応援したいと思ったのが、支援のきっかけだった。

 

「のれんの向こう側」【36歳のLOVE&SEX】#17

2021.09.10 Vol.web Original

 今の事業に関わってから長いので、なんとなく私には「女性向けのひと」というイメージがあるかもしれないが、入社当時は男性向けAVを扱っていた。

 大学を卒業してそのままソフト・オン・デマンドに入社したが、最初に配属されたのは営業部だった。といっても、実際に販売店に出向いて営業をするというようなことは最初の4ヶ月くらいしかやっておらず、その後は電話営業や営業事務など社内でできる業務を担当していたのだが、それでも自分の足でお店に行った経験は印象深く残っている。

 ある時は先輩について日帰りで群馬県まで出向いて棚を作ったり、都内の人気店に行ったときは昼の時間にも関わらず「いまお客さんが多いから女性は入らないでくれ」と私だけ外で待っていたということもあった。ひたすら棚に並ぶAVの品番と数を数えては、会社に戻ってExcelに入力して在庫表を作りまくっていたのが、入社一年目の夏の思い出だ。

 

 アダルト商材を取り扱うお店には、独特の雰囲気がある。

 私が営業としてセル店(=DVD販売専門店)に行っていた時期は、女性向けのAVなどなかったし、AV女優さんがテレビに出たりすることもほとんどなかった。AV自体非常にアンダーグラウンドな世界だった。

 セル店もそんなアンダーグラウンドな空気をまとっていて、秘密めいた、それでいてその奥にはギラギラとした宝物が待っている感じがする、人を惹きつける存在だった。お店に入ると、女優さんたちの美しい裸体や恍惚とした表情にあふれかえっており、DVDも販促品も各メーカーの「うちが一番面白い」「うちが一番ヌケる」という熱がこもっていて、ビビッドな色使いや面白い惹き句に目を奪われる。

 そんな、妙な高揚感を感じる場所だった。

 

 ただ、すごく場違いなところに来ているという感じも否めなかった。

 まわりの男性からしたら、「なんで男だけの楽園に女が?」「買いにくいなぁ」と思っていたことだろう。目線からヒシヒシと伝わってくる。

 18禁のれんの向こう側は男性たちだけの世界で、私たち女性が入ることは許されないのだ。

 

 それから15年後、私は意外な場所で18禁ののれんを見ることになる。

 それは、ラフォーレ原宿だった。

 大学の頃友達が言っていた。「山手線の駅で2つだけ、ラブホテルが駅前にない駅がある。それが代々木と原宿だ」と。代々木は受験生の街、原宿はファッションの街、エロと結びつきが弱いはずのこの場所の、最先端の建物の中になぜか。

 その答えは、irohaのPOP UPストアだ。

 irohaはアダルトグッズからアパレルまで幅広く手掛けるTENGA社の、女性向けのプロダクトである。和菓子やメイク道具のような、一見してアダルトグッズだとわからないデザインで注目を浴び、今では女性向けアダルトグッズの定番商品のひとつとなっている。

 以前このコラムで、ラフォーレ原宿にラブピースクラブの常設店がオープンしたということを書いたが( https://www.tokyoheadline.com/546337/ )このPOP UPストアもそれと同じフロアで8/20~9/5まで開催されていた。

 

 ラブピースクラブのほうは普通の雑貨屋さんのような作りの、オープンな入りやすいお店だったので、irohaのPOP UPストアもそういうお店なのかと勝手にイメージしていたのだが、全く違った。

 店頭にはデリケートゾーン専用ソープなど、誰でも使えるものが並んでいたが、その奥に真っ白なのれんがあったのだ。

 irohaの商品はのれんの向こうだ…行きたい、けど、のれんの向こうに、入っていいのだろうか?

 セル店での記憶がよぎった。

 

 そんなときに、おしゃれな背の高い女性が、すっとのれんの向こうに入っていった。何の躊躇もなく。そうだ、ここはラフォーレ原宿なのだ。気を取り直して、私ものれんをくぐった。

 

 のれんの中の空間は思っていたよりも広く、白を基調とした壁には、女性たちの「あなたにとってのセルフプレジャーとは?」に対する答えが並び、irohaに興味があるのは自分一人だけじゃないんだと勇気づけてくれる。

 棚にはiroha全商品が並んでおり、手に取って触ることができる。irohaの商品は写真で見ただけでは使い方がわかりづらいものもあるので、操作方法や実際に使うイメージがわきやすかった。もちろん、独特のふわふわした触感を感じられることも店頭の醍醐味だ。

 GIRL’S CHを担当していた頃、サイトでもirohaの取り扱いがあったので商品について知ってはいるものの、こうしてお店で見て選ぶことで、自分のために使うにあたって性能や価格を比較するという貴重な経験をすることができた。

 もしかしたら1時間くらいその場にいたかもしれない。店員さんの意見も聞きつつ、実際に商品にも触れながら、今日は何を買って帰ろうかを楽しく真剣に選んだ。

「36歳、結婚相談所に行く」【36歳のLOVE&SEX】#16

2021.08.27 Vol.web Original

 もはや連休なんて何も嬉しくない。

 どこにも出かけられないし、誰とも会わないし、家から一歩も出ず一言も発しないまま、ただただ時間が経過する。

 暇だから仕事をする。

 結局寝るか仕事をするかで一日が終わる。

 

 地方に住む家族に今どうしても会いに行く用事はないし、友達もいないことはないが、もし私がコロナにかかっていたとして彼ら彼女らを濃厚接触者にするのは気がひける。どうせ一人の人生だから、なるべく他人に迷惑はかけたくない。

 オリンピックは面白かった。どの時間帯にテレビをつけても、最高峰のスポーツが観戦できるのはすごく楽しかった。でもその前の4連休と、終わってからの3連休、私はただ家で麺類をすすり、誰とも会話をせず、どこにも出かけなかった。

 SNSには家族や友達と楽しく過ごしている人々の写真があがっていて、なぜ自分はこんなに孤独なのだろうかと思った。

 遊んでいることが羨ましいのではなくて、このご時世だからこそ一緒にいたいと思える家族や仲間がいることが羨ましく、また、そう思える人がいない、そう思ってくれる人が身近にいない自分の人生が、空虚に思えた。

 

 そうだ、無理やりにでも家族を作れば、私の孤独はなくなるのではないか。

 そう思い、三連休の最終日、結婚相談所に行ったのだ!

 結婚がしたいわけではない、新しい恋がしたいわけでもない、ただ、人生を変えたい。

 本当に恋愛や結婚がしたい人には申し訳ないけれど、結婚したら人生が変わるかもしれないというわがままな動機で。

 

 通りに面した大きなビルの1フロアの一角、某結婚相談所は、コロナ禍の三連休最終日にも関わらず、活気づいていた。

 と言っても、一人一人ブースで区切られているので、視界には誰一人見えないのだが、何人もの人が同時に話している声だけは認識できた。

 ブースに案内されると、50代くらいの落ち着いた女性がやってきて挨拶をし、まっすぐに私の目を見つめながらこの相談所のことを丁寧に説明し、今日どんな思いがあってこの場に来たのか質問してきた。

 連休で誰とも話さず孤独感が募ったこと、孤独から自分の人生は本当にこれでいいのかを迷い、自分を変えたくて来たこと。

 そんなことを言われても困るであろう私の話を、担当の方は真剣に耳を傾けて、そして、私の身を案じてくれた。

 こんなに人に優しくされたのはいつぶりだろうと思い、涙がこぼれそうになったのを我慢した。

 

 ただ、私はどうしてもここで言っておかなければいけないことがあった。

 それは、私の仕事のことだ。

 ソフト・オン・デマンドは意外とちゃんとした会社だし、クレジットカードも作れるし、賃貸契約だって問題ない。

 ただ、結婚をするにあたって、アダルトビデオや風俗の仕事に関わっていて(関わるどころかどっぷり浸かっている)、ましてや本名も顔も出しているので、相手にも迷惑をかけることがあるかもしれないということを了承してもらう必要があると思った。

 さらに結婚相談所の信用にも関わることだし、大人として真正面から確認するべきだと思ったのだ。

 

「職業に貴賤はないと私は思うんだけど……」

 その相談所の案内動画を15分見たところで、担当の方が上司に確認を取ってきてくれて、私は正式に入会をお断りされた。

 転職する予定はないのか、転職したらもう一度検討してほしい、もうこれからどんどん成婚しにくくなるから一日でも早く始めたほうがいい、とのことだった。

 自分の職業が差別されたとか、ショックだとかは思わないが、自分のひとつひとつの選択の積み重ねがもう「結婚相談所に入会する」という選択肢を消してしまったんだなと思い、なんだか呆然として帰り道に泣いてしまった。

 

 自分の人生を変えるにはもう、仕事で成果を出すか、仕事を辞めるかしかないようだ。

 

 タイミングは重なるものだ。

 この結婚相談所に行ったエピソードをTwitterでつぶやいた矢先、「コラム読みました、エロいですね」というDMを頂いてしまった。

 今までのコラムを読んで、なぜそう思ったのか、なぜそう思わせてしまったのか、生理のこととか仕事のこととか、悩んで迷って考えたことを言葉にしていることが、なぜ「エロい」という表現につながるのか。

 アダルトの仕事をしていて、普段から下世話な話をしている一部分しか見られていないのではないか。

 そんな私が何を書いても無意味なのではないか、何を書いても伝わらないのではないか。

 もう何も書けなくなってしまうじゃないか。

 本当に、自分の人生を変えられるんだろうか?

 

 ……なんて、今の私はそんな絶望感も含めて、文章を書けるくらいには強くなったようだ。

 結婚相談所に再び顔を出すことは、もうないと思いたい。

「30代の生理の悩み」【36歳のLOVE&SEX】#15

2021.08.13 Vol.web Original

 仲のいい友達に第二子が生まれた。

 第一子のときは自然分娩で、今回は無痛分娩を選択したそうだ。

 私の周りでは無痛分娩を選択した友人がこれで二人目である。

 無痛分娩について、聞きなれない人もいるかもしれない。

 私も友人から話を聞いただけで詳しくはないのだが、麻酔を使ってお産の痛みをやわらげるもので、全く痛みがなくなるわけではないらしい。

 友人曰く、無痛分娩でもまだ相当な痛さで、子宮口を広げるためにバルーンを挿入するのも違和感が強く、痛かったとのこと……経験のない私にとっては想像するのも怖い。

 出産経験のある女性たちの行動や覚悟を尊敬する。

 

 友達がそんな大偉業を成し遂げていた裏で、私は今月も生理に苦しんでいた。

 生理に影響されるなというのは、身長を10㎝伸ばせというくらい無理なもので、自分の体のことなのに、自分の意志ではコントロールできない。

 しかも30歳過ぎてから、生理痛や、生理の前の気分の落ち込みが特に激しくなった。

 最近30歳を過ぎた後輩も同じことを言っていたので、どうやら私だけがそう感じているわけではなさそうなのだが、年齢とともに体のあらゆるところに不調が出始め、それに伴うように生理に関する体調不良もつらいものになってきた。

 

 でも、今回の生理は、いつもと違う。

 私には新しいアイテム・ムーンパンツがあったからだ!

 

 ムーンパンツは、吸水ショーツのブランドのひとつ。以前こちらのコラム( https://www.tokyoheadline.com/546337/ )でも紹介したように、最近新しい生理用アイテムとして注目されている吸水ショーツは、ショーツそのものが経血を吸収するという製品だ。

 コラム内で取り上げているGUのトリプルガードショーツを使い始めて、ナプキンを持ち歩き取り替えたり、布ナプキンのように何枚も洗う必要がなくなって、あまりのラクチンさに驚いた一方、おむつを履いているようなもっさりした感じが気になった。

 日常生活ではそれほど問題はないが、ダンスのレッスンなどでピッタリしたボトムを履くと、他人から見ても「この人、生理だ」と思われそうなのが、個人的には嫌だった。

 まぁ仕方ない、1,490円ならこんなものか……では吸水ショーツを専門に作っているブランドならどうだろう?

 そう思って、以前の記事にも登場した駆け込み寺こと、ラブピースクラブラフォーレ原宿店へ。実際に商品を手に取ってみると、GUのそれとは比べものにならない薄さで、そしてデザインが可愛い。

 今回も店員の方が丁寧に、しかも実体験を交えて話してくださり、商品を選ぶことができた。楽しい……。

 そんなわけで、早くムーンパンツを使いたくて、人生で初めて「生理が来るのが楽しみ!」という気持ちになっていたのだ。

 

 値段はGUのものよりだいぶ高い5,290円だが、実際に使ってみたら、同じ吸水ショーツとは思えないほどの素晴らしい使い心地!

 肌触りも良いし、何より通気性がいい。

 普通のショーツとほとんど変わらないような薄さなのに、しっかり吸収してくれるし、すぐ乾く。

 使用後も、簡単に手洗いして洗濯機に放り込めばいいという簡単さ。

 これは買い足したい、同じ価格帯の他のブランドもぜひ試してみたい。

 あまりの快適さに、今までいかに生理に手こずらされていたのかを実感した。もちろん吸水ショーツで生理痛が緩和されるわけではないが、圧倒的にラク。使わないのは人生損しているとさえ言い切れる。

 

 友人の出産の裏で、私は、そんなことに興奮したり感動したりしていた。

 この気持ちを誰かに伝えたいと思ったのだが、そういえば私と同じくらいの年齢の女性は、妊娠や出産があったりして、妊娠中は当然生理が来ない。

 出産後も、育児や家事、職場復帰の準備など、とてもじゃないが自分のことに構う余裕もないはず。情報収集したり発信したりするには時間もエネルギーも必要だ。

 日頃から30代以上の生理の情報が少ないと感じていたのだが、そういう部分も影響しているのではないだろうか。

 もちろん、近年フェムテックが盛り上がっていることによって価値観の変化があったり、情報に敏感な若い世代が話題に取り上げているという相対的なことも大きいと思うが。

 

 性の悩みもそうであるように、30代には30代なりの、いや、女性には人それぞれの生理の悩みもあるだろう。

 もっと多くの女性に、このような快適な製品があることを知ってほしいし、知る機会や購入できる場所が増えてほしい。もっと選択肢が広がるといいのにと心の底から思ったのだった。

「おひとり様宇宙」【36歳のLOVE&SEX】#14

2021.07.23 Vol.web Original

 会社で同僚と、自分が女性向け風俗を呼ぶとして、テクニックがそれなりのイケメンと、テクニックがあるフツメンならどちらがいいか、という話になった。
同僚はテクニックがそれなりでもイケメンがいい、という答えだった。

 では普通のリラクゼーション目的のマッサージではどうか。

 技術がないイケメンと、技術があるフツメン。それなら技術があるほうがいい、と同僚は話していた。イケメンではなくても技術があればいいし、会話も楽しければなおのこと外見は関係ないそうだ。

 ちなみに私は全く逆で、風俗ならテクニックがあるフツメン、マッサージなら女性がいい。そしてできれば会話はしたくない。

 

 マッサージや美容院に行くときに、担当者との会話がとにかく億劫だ。

 仕事の話とか、聞かないでほしい。

「お仕事はデスクワークですか?」程度ならいいが、それ以上に掘り下げないでほしい。

「何系の会社ですか?」なんて絶対に聞かないでほしい。

 そこで私が素直に「ソフト・オン・デマンドっていう会社で~映像系なんですよ。会社としてはアダルトビデオをメインに扱ってて、私は今は女性向け風俗を担当していて……」なんて話し始めたら、疲れも取れない。

 かといって趣味の話も聞かないでほしい。

「何系のダンスですか?」という話になったら、「いや~サンバをやってまして。10年くらいなんですけど。サンバってわかりますか? 毎年夏に浅草とかでカーニバルやってて……」とこれまたこちらが気を遣う展開だ。

「いや、社交ダンスとはちょっと違ってまして、ブラジルの音楽なんですが……」とどこまで説明させる気なんだ。

 しかもダンスをしていることは、マッサージをする人が私の足を触れば、通常よりも筋肉が発達しているから気付くらしい。逃げられない。

 

 居酒屋でもそうだ。

 最近は行く機会もないが、一人で飲んでいるとお店の人が気を遣って話しかけてくれる。

 一人で飲んでいるアラフォー女性は必ず寂しいはずだと思われているのだろうか。余計なお世話である。

 毎回一人で来て生ビール3杯、アジフライとザーサイを頼む常連客の私。確かに傍から見たら素性が気になるかもしれない。なぜ一人なのか、なぜそのメニューなのか。

 ただここでうっかり自分のことを話したら、それこそ会社の話で盛り上がってしまう。というか盛り上がってしまった。気付いたら家の近所の居酒屋には、私がどこの会社で働いているかが知れ渡っている。

 でも私は、居酒屋の雰囲気が好きなんじゃなくて、ただ単に家では飲めない酒や自分では作れない料理を欲しているだけなんだ。

 

 そうして思い返せば、美容院は15年くらい同じ人にお願いしているし、マッサージも極力狭くて静かな、会話をしなくてもいいところを選ぶようになった。
人間関係の輪が狭まり、会話を避けるようになって、他人との接点はものすごく少なくなってきた。

 家には誰もいないし、在宅勤務の日は一言も言葉を発しないまま一日を終えることもある。

 仕事が終わったら好きな映画やアニメを見ることに忙しく、負け惜しみではなく一人で退屈だとか寂しいとか思う瞬間など来ない。

 同年代の人たちが家庭や社会と関わり合いながら生きているのとまったく別次元の、SFの世界に生きているのではないか?自分は。

 もしかしたらそれを「ずれている」とか「寂しい」とか世間では呼ぶのかもしれないが、でも、これが私の宇宙なのだ。広い宇宙を、誰にも邪魔されず一人で泳ぐ、この気持ち良さよ。

「さみしくて孤独なオナニー」【36歳のLOVE&SEX】#13

2021.07.09 Vol.web Original

 7月21日は「オナニーの日」です。

 0721の語呂合わせなので、ただのジョークです。

 個人的には、0721は「オナニィ」という感じがして、7月2日の072で「オナニー」のほうがしっくりくるので、7月は2回の「オナニーの日」があるということにしています。

 

 いきなり「オナニー」を繰り返してしまって申し訳ないんですが、皆さんはなんて呼びますか?

 自慰? ひとりエッチ? セルフプレジャー?

 いろんな言い方がありますが、表立ってオナニーについて話し合う機会は多くないと思うので、普段なんて言ってるか無自覚な方がほとんどかもしれないですね。

 でもここはあえてちゃんと「オナニー」と言いたい気持ちが私にはあります。

 

 オナニーという行為はあなたにとってどんなものですか?

 パートナーがいないから、または、パートナーに満たされないから行う行為でしょうか。

 たぎってたぎってしょうがない性欲を解消するための行為でしょうか。

 それともトレーニングのように自分を向上させる目的の行為でしょうか。

 そのどれもが正解だと思います。

 

 9年前から女性向けのアダルト産業に携わってきましたが、当初女性にとってのオナニーは本当にタブー視されていました。

 女性には性欲がない、女性はオナニーをしない、それが男性にとっても女性にとっても当たり前でした。

 オナニーをしていることを知られるのは社会的に終わるんじゃないか、というくらい思い詰めていた女性も多くて、罪悪感を伴う行為でした。

 2021年の今、信じられなくないですか? 私はちょっと信じられないです。

 まだまだ完全にオープンになったとは言えないけど、伊勢丹やラフォーレ原宿にバイブが並ぶ時代です。テレビでもYoutubeでもTwitterでも、女性の性が語られることが肯定される時代ですよ。

 

 当時は「オナニー=寂しい女性がするもの」というイメージが付きまとっていたことも、女性たちを不安にさせた原因だと思います。

 男性中心の社会において、誰にも求められないことやパートナーがいないことは、女性にとって、社会的な居場所を感じづらい状況をもたらしていたように思います。

 でも少しずつ、女性は女性としてしっかり自立し始めている。

 誰かに求められないことは恥ずかしいことでもないし、誰かと一緒にいないとこの社会を生き抜けないほど無力ではなくなってきました。

 私はそういう意味でも、「自慰」という言葉があまり好きではないのです。

 他者に癒してもらえないから、自分で自分をしかたなく慰めているというニュアンスが、前時代的な感じがしませんか?

 だから、しっかり「オナニー」と言いたいんです。

 

 あとこれは、アダルトグッズの販売に携わって思ったことですが、オナニーをすることのメリットもあります。自分の体の感覚を知ることができるということです。

 これは私自身がグッズのレビューをしたり商品をオススメしたりする過程で、実際に体験したことですが、どこを触ればとかどのように動かせばということはもちろんのこと、どう力を入れれば(抜けば)いいのかを知るタイミングは、オナニーしかないと思います。

 人間の体は一人一人違っているし、自分の体がどういうものなのか、あなたはどのくらい知っていますか?

 自分の体のどこに力が入りがちで、どんな癖があるかなんて、自分が知らないことを他人が最初から知ってるはずがありません。自分が知らなければ、パートナーに説明することもできませんよね。

 だからオナニーは寂しいとか、オナニーしている自分は孤独だとか思わないで、自分の人生をよりよく生きるためにも、パートナーのためにも、プラスになることだと思ってほしいんです。

 

 というか、そもそも、オナニーしている人生がさみしくて孤独だったとして、いったいそれの何が悪いのか。

 さみしくても自分の人生を生きていけるのが、本当の自立ではないでしょうか。

 他人と比較する必要がなく、判断基準を自分自身の中に持つことができるなら、孤独もすばらしいことではないでしょうか。

 ならば、さみしさも孤独も大歓迎です。

 

 だから、女性にとってのオナニーは、自立の証でもあるし、自分の人生を楽しむ手段を知っている、肯定的な行為だと思うんですよ。

「ウーマナイザー」【36歳のLOVE&SEX】#12

2021.06.25 Vol.web Original

 ウーマナイザーの何がそんなに面白いのか。

 この数週間、ネットでウーマナイザーが大きく話題になった。

 某女性タレントの不倫疑惑のニュースで、彼女の持ち物に大人のおもちゃがあったということから、検索する人が増えたそうだ。

 さらに、検索数が増えたことを受けてメーカーでは、その女性タレントの名前と「おもちゃ」のキーワードで検索した日本の女性に、製品をプレゼントするというキャンペーンまで実施された。

 

 ウーマナイザーというのは女性用のアダルトグッズの一種で、この2~3年で大きく話題になっている「吸引グッズ」に分類される商品。

 ご存知ない方もいると思うので簡単に説明しておくと、女性向けのアダルトグッズは大きく分けると、振動する「ローター」、男性器をモチーフにした非振動型の「ディルド」、それらをまぜた「バイブ」の3種類に分類される。その大きなカテゴリーの中で、素材やデザインの良いものが出たり、機能が追加されたりして、新商品が作られてきた。

 ウーマナイザーに代表される「吸引グッズ」はそこに彗星のごとく現れた第四のアダルトグッズである。ローターに近いのだが、大きな違いは吸い付くということ。ローターのようにただ単に震えるのではなく、クリトリスをしっかりと覆い吸い付くという、未知の体験ができるグッズなのだ!

(知らない方は写真を参考にイメージしてみてください。)

 

 と、ここまで語ってきて私にはひとつ違和感があった。

 最初に見た記事には、「ウーマナイザー」という記載はなかったような気がするのだ。改めて記事を確認したらやはり「大人のおもちゃ」とだけ書かれていて、商品名までは記載されていなかった。

 もしかしたら印刷された週刊誌のほうには載っているかもしれないが、ここまで話題になったのはネットで拡散されたことが大きいと思うので、それはあまり重要ではないだろう。

 彼女が使った大人のおもちゃは何かを推測する関係者の発言や、このスキャンダルの影響でウーマナイザーの検索数が大きく伸びたというトピックスはよく見かけるが、憶測の記事しか見つからない。

 

 それでもネットはウーマナイザーで大盛り上がりだ。

 

 きっと、記事に出てきた大人のおもちゃがウーマナイザーであるかどうかは、大きな問題ではないのだろう。

 それよりも、今まで「大人のおもちゃ」としか表現できなかったものを、「ウーマナイザー」というキーワードに置き換えることができたことで、一気に言いやすくなったのがこの盛り上がりの理由だと思う。

 たとえば、オナホールとは言えないけどTENGAとは言えるとか。

 AVを見るとは直接的に言えないけどFANZAを見るとは言えるとか。

 それと同じ文脈で、バイブやローターとは言えないけどウーマナイザーなら言える。

 アダルトグッズを直接的に想起させないネーミングだし、話題になっているし、女性タレントも使っているらしいし。

 ウーマナイザーは、女性向けアダルトグッズを、機能だけでなく文化まで変えた革命グッズだと私は思うのだ。

 

 実際にこの女性タレントはウーマナイザーを持ち歩いていたのかもしれないし、そうではなく名もなきバイブを持っていたのかもしれない、もしかしたらこの報道自体が嘘かもしれない。いずれにせよ、こんな形で話題になることは彼女自身も避けたかっただろう。

 大人の女性がアダルトグッズを持っていることも、持ち歩いていることも責められることではない。そんなことがいちいち話題になるのはなんだか残念な気もするのだが、そのくらい、潜在的に興味を持っていた人や、ウーマナイザーという言葉がなければ気持ちを表現できなかった人が多かったのだろうと思う。

 

 だから、世間にとってウーマナイザーは面白くて面白くて仕方がないのだ。

 

 おそらく私が出世できないのは、前の部署で「女性向けAV」に変わる単語を生み出せなかったからで、これから先は「女性向け風俗」に変わる単語を生み出せるかどうかにかかっているような気がする。

 何かいいアイディアを思いついた方は、田口までご連絡ください。

「声をあげる女性たち」【36歳のLOVE&SEX】#11

2021.06.11 Vol.web Original

 このTOKYO HEADLINEでのコラムは2015年6月に始まったので、なんと今月で7年目に突入ということになる。体感として、さすがに2~3年よりは長くやってきたような気もするけど、まあ4~5年くらいかなと思っていたので、思ったよりも長かった。自分、よく頑張ってる。

 と言っても連載の最初の頃は「脱・こじらせへの道」というタイトルで、当時担当していた女性向け動画サイトGIRL’S CH( http://girls-ch.jp/ )の中でとったユーザーの皆様へのアンケートをもとに、編集部の方にご協力いただいて記事を作成していた。その後はアンケートの内容だけでなく、女性向けアダルトのことや性のことで、自分が感じたこと考えたことなどを、自分の言葉で幅広く書かせていただいていている。いつも好きなように書かせてくれるTOKYO HEADLINEの編集部の皆様には感謝だ。

 2015年当時どんな記事を書いていたっけな……と当時の記事を見てみると、意外にも今よりエロやAVに直結した題材が多く、「イク・イカないにとらわれるべきではない」とか「女性同士でエロの話どこまでできる?」なんていう話題も。出会い系サイトをテーマにした回では、「男は課金でチャンスを買っていたが、女の場合は課金で安全を買う」とも言ってて、自分の意見の根本や運営しているサービスの基礎ってあんまり変わっていないなとも思った。

 少し横道にそれるが、女性向けアダルトの歴史を振り返ると、SODグループとしては2006年にananのSEX特集のDVD監修を行っており、2008年にSILK LABOという女性向けAVメーカーを立ち上げた。私が女性向けアダルトに関わり始めたのはそのもっとあとで、2013年GIRL’S CHの立ち上げの時から。

 女性向けに関わる前は男性向けAVの売上予測や分析などを行う部署におり、上司から声をかけられて女性向けに異動したのがきっかけ。だからもともと「女性の性を解放しよう!」というような強い意志があったわけではない。自分はこういうところが視野が狭いのだが、AVは見たいと思ったら見るし、だから自分自身は困ってないし、見ていない人は見たくない人なのだろうという考えで、特に女性向けのアダルトを広げていきたいと思って入社したわけではなかったのだ。

 自分自身は困ってないしという考え方は、先日フェムテックについての記事( https://www.tokyoheadline.com/546337/ )を書いたときにも触れたが、悩みや問題が潜んでいる可能性をつぶしてしまう、危険な考え方だ。我々は可視化されることで、そこに悩みがあること、問題があることに気付くことができる。たとえば生理の悩みも、様々なアイテムで快適に過ごせることを知らなければ、それまで我慢してきたことはわからない。性欲もアダルトビデオなどを通して意識することで、「自分に性欲があるかどうか」について考えることができるはずだ。

 このように可視化することはとても重要で、私たちの会社が女性向けのAVや風俗など様々なサービスを提案していくことは、女性の欲求や潜在的な要望を可視化するひとつのツールになり得ると思うのだ。

 

 連載を始めた頃と大きく違うのは、SNSなどで性について発信している女性が非常に増えたということ。

 AVを紹介する人、グッズを紹介する人、カップル向けのサービスを作る人、性教育を広めようとする人、性の悩みや性被害の救済に取り組む人、など挙げればきりがない。私のように企業でそういった取り組みをしている女性もいれば、個人で発信するパワフルな女性も多い。また、直接的なアダルトではないが、テレビドラマを通して性をカジュアルにしていきたいとチャレンジングな作品を作り続けている女性もいる。

 そして何より、大々的に発信はせずとも、日々のツイートで少しずつ意見を言う女性はもっともっと多くなった。女性が自分の性について考えることは当たり前だし、性や性教育のことで悩みを持っていること、もっと知りたいと思っていることが、SNSを通して可視化されたと言える。

 

 取材を受けたときによく言っていたことだが、GIRL’S CHが成長を遂げた理由のひとつがスマートフォンの普及だ。それまでは家のテレビやパソコンで見るしかなかったAVが、誰でももっているスマートフォンで、誰にも知られずこっそり視聴することができるようになった。それに伴い、女性は家族を含むまわりの人の目を気にせず、AVを楽しむことができるようになり、多くの女性たちにサイトを利用していただくことができた。

 私たちはスマートフォンとSNSで、「女性が性のことを大っぴらに語ったり楽しむべきではない」という偏見をかいくぐって、アダルトのエンターテインメントを楽しみ、可視化された悩みや問題を認識し、同じように問題を抱えている女性同士で連帯することができるようになった。

 この10年ばかりの女性の性の歴史は、まさにスマートフォンとともにあると言っても過言ではないだろう。

 

 一方で、この間女友達と会ったときにこんな会話があった。

「まだ周りの男の人は、女性に性欲がないって思ってるよ」

「ありますよーって言っても、それは〇〇さんが特殊なんでしょって」

 

 私自身この6年間、文章を通して女性の性についてさまざまなことを書いてきたし、社会的にも女性の性の悩みを解決するサービスが多く生み出され、世界はガラッと変わったような気がしていた。

 ではなぜそのような意見が出るのだろうか。それはまだ「女性向け」が「女性のため」にしか機能しておらず、「男女のため」「すべての人のため」へ向かう途中であることを示しているのかもしれない。

「青春の勘違い」【36歳のLOVE&SEX】#10

2021.05.28 Vol.web orijinal

 先日久しぶりに辞めた後輩・Aに会った。

 私より何年か後に新卒で入社したAは、一時期同じ部署でもあり仲良くしていたのだが、数年前に退職した。その後はフリーランスとなり、もともとやりたかった仕事をしている。

 私が他の会社を経験したことがないので比較ができないのだが、以前は同じ部署のメンバーで飲みに行くことも多く、コロナが流行する前はAもいた当時の部署で集まることも年に一度くらいはあった。

 辞めたメンバーで集まったときの話題はだいたい、「今あいつはどうしてる」とか「会社には誰が残ってるのか」とかの話になり、噂話みたいなことをよく話すのだが、新卒同士だとだいたい辛かった入社当時の話がメインになる。

 以前LOVELYPOPの綱島さんにインタビューしたときにも、入社当時の会社行事のことで話が盛り上がり、しかもその出来事を通じて勉強したことが今仕事をする上での大きな指針になっていたりもするので、私たち新卒にとっては思い出話以上の大切なものだ。

 Aとの話題ももちろん新卒入社当時の話になり、あの頃の会社はこうだったとか、こんなことがつらかったとかカルチャーショックだったとか、いまだにそんな話で盛り上がってしまった。

 寝れない、休めない、ただガムシャラに働く(正確には業務外のことが多く働くという表現が正しいかは不明だが)、そんな当時の思い出は、私たちSODの新卒入社社員にとっては「青春」そのものだった。

 

 こうして15年も同じ会社にいると当然、まわりの顔ぶれは変わってくる。

 入社当時16人いた私の同期は今や私ともう一人だけだが、いるだけでもすごいことだ。

 先輩も後輩もほとんど辞め、たまに同じ業界にいる人もいるが、ほとんどが一般業界にいるし、公務員になった人もいれば専業主婦をしている人もいる。なんでSODにいたのかわからないほど出世している人もいたりする。

 それでも、再会すると新卒だったあの頃に戻るから不思議だ。

 そのくらいにあの時間は青春だったし、濃密だった。

 

 ただ、最近はそんな昔の話をすればするほど、自分の現在地点がわからなくなる。

 彼らが言っている「青春」に私はまだどっぷりつかっている、というと聞こえがいいのだが、彼らがいう「青春」は私にとっては「現実」と地続きで、だからこそ彼らの「青春」に100%共感できないという違和感が、年々強まってきている。

 

 これはもう4年ほど前になるが、新卒入社のSという女性がいた。

 Sはよくいる新卒社員という感じで、会社からの指示に一生懸命、がむしゃらに対応し、少し抜けたところがあり先輩からもかわいがられる子だった。

 そんなSが急に会社に来なくなった。

 私はSとは同じ部署だった時期があり、思い入れのある後輩だったので、もう一度出社してほしかったが、Sはそのまま退職した。

 同じ部署だった頃、細かい注意や厳しい指導をしてしまったという自覚はあるが、それらは愛情の裏返しだったつもりだった。でも彼女にとっては、私のような存在はただの負担だったのだろう。いや、負担というよりもただのウザイ人でしかなかったかもしれない。辞めてから上司づてに「田口さんには会いたくない」と言っていると聞いた。

 自分の中で、新卒はこうあるべき、とか、新卒の時代だからこそ多少無理をしても経験を積むべきとか、彼女にも自分と同じ青春を体験してほしかったという気持ちもあった。

 完全に余計なお世話だった。

 Sは辞めたあと、大手企業に転職し、新しい彼氏ができて結婚予定だそうだ。

 

 あの頃感じた矛盾も不条理も、青春などではなかった。本当は、向き合わなければいけない目の前の現実だった。

 青春だと思っていた時間を一緒に過ごした人たちもそれぞれ別の道を歩み、少しずつずれた私たちの人生はもう交わることはない。

 いったい、私は今、人生のどの地点にいるのだろうか?

「私たちは家族じゃない」【36歳のLOVE&SEX】#9

2021.05.14 Vol.web Original

 

 実はコラムやTwitterには書いたことがなかったのだが、約10年付き合っている彼氏がいる。

 友達や一緒に働く仲間はもちろん知っているし、聞かれたら「いる」と答えるし、不倫関係のように知られては困る関係というわけでもない。

 なんとなく、「田口桃子」には彼氏がいないほうが面白いであろうと思ったから、言う必要はないと考えていたからだ。

「田口桃子」って、欲求不満で、いつも何かに怒ってて、打倒男!みたいなスローガンを掲げてて…というキャラだよなと思ってるんだけど、それに合わないと思ったので、言わなかった。

 しかし、「36歳のLOVE&SEX」というタイトルで、結構核の部分に関わってくるであろう彼氏のエピソードが全く書けないというのは、いまいち本音を隠しているような気持ち悪さがある。

 全く書かずにこの先も書いていくには辻褄が合わない部分も出てくる。
だから、今回から彼氏のことも書いてみようと思う。

 

 世の中的には、結婚していれば夫、旦那、そうでなければパートナー、とかいろいろな呼び方があるかと思うが、私たちの関係性で言えば、もうこれは「彼氏」「彼女」が一番しっくりくるように思う。

「10年も付き合っていたら結婚はしないの?」と聞かれることはよくあるのだが、結婚はしない。

 これは彼氏の意志が強い。彼氏はバツイチであり、いろいろな手続きを考えると面倒くささが勝つということと、二度目の結婚をすることの意味を見出せないとのこと。

 

 最初にそれを言い渡された頃、まだ私は20代後半だったので、「結婚を考えてくれないなんて彼は私のことを愛していないのでは……」と悩んだりもしたし、婚活をしようかとも思ったのだが、じゃあ自分は何のためにどんな結婚をしたいのかと考えると、周りがしてるからしなきゃとか、大人なんだから身を固めなきゃとか、そういう体裁を気にしてのことだと気付いて、やめた。

 そもそも結婚という契約で、相手の心や将来を縛れるわけではないし、自分の幸せが保障されるわけでもないし。

 逆に、あのときそれに気付けたのはとってもラッキーだった。

 

 私たちは、結婚はしていないが、仲良くやってるし、別に何の問題もない。

 ただ、ひとつだけもやっとすることがある。

 それは彼の子どもたちのことに関してだ。

 彼には私と付き合う前から、何人か子どもがいた。一番大きい子はもう成人して家を出ているし、一番小さい子はまだ小学生で母親と一緒に暮らしている。

 私と付き合う前の話だし、子供や母親に会うこともないし、普段は何とも思わないのだが。

 

 そんな彼の家族の存在を意識させられたのは、コロナ禍だった。

 コロナ禍で私は彼氏となかなか会えなくなった。

 だって、「彼氏」だから、「彼氏」でしかないから。

 私たちは一緒に住んでいるわけでもなく、婚姻関係もない。

 一度目の緊急事態宣言のとき、よく、家族以外とは会食を控えましょう、と言われていなかっただろうか。

 私たちは「彼氏」と「彼女」でしかなく、家族ではないので、会食も控えなければならない。

 そのくらいの弱い関係性だったのだ。

 

 ところが、彼の子供たちは「家族」だから彼と会うことができる。

 そりゃ、小さい子もいるのだから、育児を手伝うのは当然だ、彼だって自分のかわいい子には会いたいだろう。

 

 でも、結果、私だけが損してるような気がして、めちゃくちゃ腹が立った。

 結婚しなかった私が悪いのか、無理やりにでも子供を産んでおけば育児にかこつけて彼を会いに来させることができたのか(言い方が悪いのはわかっている)。

 血のつながりがあるから家族で、血のつながりがないから家族じゃなくて。

 それは仕方のないことだとわかっているが、いちいち私と彼の分断を思い知らせてくる政府広報にまでイラついた。

 家族って、同居って、そんなに偉いのか?

 

 ヘビースモーカーで野菜嫌いの彼氏は、絶対に長生きできない。

 自身の父親と同じく、咽頭がんあたりで死ぬと思う。それもそう遠くない未来に。

 

 だが病床に私は立ち会えないかもしれない、だって家族じゃないから。

 36歳ともなると、ひとつひとつ、「その時」の覚悟を意識しながら生きざるを得ない。

 彼が先に死ぬかもしれない覚悟、そのときに看取れない覚悟、葬式に参加できないかもしれない覚悟。

 これが結婚しないで生きるということだ。

 家族のしがらみから解き放たれることで、諦めなくてはいけないものたち。

 これが私の“愛”だ。

「Kさんとの思い出」【36歳のLOVE&SEX】#8

2021.04.23 Vol.web Original

 10年以上推していたアイドルが、先日卒業コンサートを行った。

 ファンやオタクというものの定義は非常に曖昧である。

 新曲がリリースされるたびに楽曲を聞きこむ人もいれば、出るグッズはすべて購入して収集するという人もいるし、握手会やイベントに通い詰めて自分を覚えてもらうことに喜びを感じる人もいる。

 どれが正しいオタクの姿か、どこからがオタクかという線引きは難しいが、少なくとも自分は、この推しに対してはオタクだったと自認している。

 

 私が応援していたアイドルは、某48グループに在籍し、オレンジと緑がテーマカラーの女の子だ。

 彼女を応援したいがために、「総選挙」と呼ばれるグループ内ランキングを決める投票イベントでは複数票を投じたし、彼女のパフォーマンスを見るために、いろんなコンサートに行った。

 彼女のおかげで、ナゴヤドームにも、豊田スタジアムにも、福岡ドームにも、東京ドームにも行けたし、各地で美味しいものを食べた。

 毎日まとめ記事をチェックしたし、振り付けを覚えて客席で小さく踊ったりもした。

 私は彼女のオタクになれて幸せだし、本当に楽しい思い出をいっぱい作れたな、と思っている。

 

 私が熱心にオタク活動をしていたのは10年近く前だろうか。

 同じ会社のKさんという人も私と同じグループのオタクであった。

 というか当時は部署内でこのグループが大流行りしていて、仕事を終えてからみんなでライブを見に行ったりしたこともあった。

 だが一緒にオタクをしていた人も退職をしたり、推しの卒業に伴ってオタクを卒業したり、一緒にグループを応援する仲間が少なくなっていた。

 幸い、私とKさんの推しは長くグループにいてくれたので、オタクを続けることができた。

 我々は日々新曲の選抜メンバーの発表にドキドキしたり、新しい才能を発掘したら共有し、コンサートを見るために二人で遠征することもあった。

 

 Kさんは10歳くらい年上の男性である。

 穏やかな口調で優しそうな見た目とは反面、リアリストで、関西弁で鋭いことをズバズバ言う。

 仕事にも厳しく、自分がすべきことは責任をもってこなす、職人のような営業マン、というイメージだった。

 Kさんと私は一時期同じ部署にいた縁もあり、こうして同じアイドルグループを追いかけるにいたった。

 ライブに行っては推したちの輝きに涙し、あの曲のあのメンバーがよかった、第何期のあの子のパフォーマンスがよくなっていた、だのオタクにしかわからないことを、酒をがぶがぶ飲みながら語り合った。

 

 そんなKさんも会社を辞めることになり、さらにKさんの推しもグループを卒業することになってしまった。

 それと同時に、私自身のオタク人生も終わってしまったかのような気持ちになった。

 際に一人でのオタク活動はなんだか寂しく、しかも推しが休業に入ってしまったので、かつてのように応援できない状況が続いた。
もうあの頃のように夢中でアイドルを応援することはないのだな、とやるせない気持ちになった。

 

 会社を辞めたKさんはその後、故郷である関西地方に戻ったのだが、それから数年後、私が関西に行く予定があったのでKさんを訪ねることにした。

 久しぶりに会ったKさんは体型も鋭い口調も変わっておらず、相変わらずめちゃくちゃ飲むしめちゃくちゃ食べる人だった。

 最近の会社の様子や、私が社内でどんな仕事をしているか、Kさんが今どんな仕事をしているか、とか、たわいない話をした。

 

「田口さんが男だったらよかったのに。」

 どういう流れでそんな話になったのかは覚えていないが、私はその言葉を言われたことを鮮明に覚えている。

 私が男だったら、何がどうよかったのだろう。

 もっとKさんと楽しく飲んだり遊んだりできていたのだろうか。私は今でも十分に楽しいのだが。

 それとも、仕事でもっと活躍できたのに、とかそういうことだったのだろうか。

 

 私の周りではあまり話題になっていないが、2021年のジェンダーギャップ指数で日本は120位だったそうだ。

 156か国中の順位なのだから、これは明らかに低いと思う。

 それにも関わらず、この問題が身近で話題になっていないというのは、私の身の回りでは男女間の格差にさえ気付いていない人が多いということなのかもしれない。

 そのくらい、このジェンダーギャップ指数のニュースが表していることは、根深いことだと感じた。

 

 私が男だったなら。

 今のような平社員じゃなく、もっと責任のあるポジションを任されていたのかもしれない。

 もしかしたら、実は給料自体変わっていたかもしれない。

 もっと世間の目を気にせず、自由に生きられたのかもしれない。

 結婚すべきか、子供を作るべきか、もし一人で育てることになったらどうなるか、今ほど迷わなかったかもしれない。

 生理のたびに仕事の進捗が遅れたり、体調不良で会社を休む必要はなかったかもしれない。

 

 でも、私が男だったなら。

 女性向けの事業には一生縁がなかったかもしれない。

 仕事一筋で結婚にも子どもにも最初から執着がなく、他人の心に寄り添えないままだったかもしれない。

 

 女に生まれたことが損をしているとか、得をしているとか、表立って感じてはいなかったが、もし「田口さんが男だったらよかった」というような世界があるとしたら、きっとそれがジェンダーギャップなのだろう。

 何も解決していないけれど、友達と呼べる人がそんな心配をしてくれたことは、少しだけ嬉しいような気がした。

 

 Kさんは先日誕生日を迎えた。

 普段ほとんど使うことのないメールでおめでとうを伝えた。

 すると、その数週間後の私の誕生日のときにKさんから、おめでとうメールが返ってきた。

 メールには、知り合って14年になりますか、と添えられていた。

 Kさんの脳内には、14年前のイキりにイキった私のイメージが残っているのだろうか。もっとも、今会ったところで「全然変わりませんね」とか言われそうだが。

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