【インタビュー】岩井秀人 「ハイバイ」が代表作『て』『夫婦』を同時上演

 劇作家で演出家、俳優の岩井秀人が主宰を務める劇団、「ハイバイ」が今年、結成15周年を迎えた。この節目の年に代表作である『て』と『夫婦』の2作品を8月に東京芸術劇場内の2つの劇場を使い同時上演する。この大きな企画を前にした岩井に話を聞いた。
(撮影・上岸卓史)
劇団結成15周年。8月に東京芸術劇場内の2つの劇場で

 まずはどんな15年だった?

「過ぎてみればあっという間ですが、思い返すとそれなりに試行錯誤は大きくあったなとは思います。最初に『ヒッキー・カンクーントルネード』を書いた時は本当に何も考えていなかった。岩松了さんの作品を見て、脚本って口語で書いてもいいんだということを知って勢いで書いた。岩松さんの作品を真似して書いたようなところがあったので、“ばれる!”と思っていたんですが、誰にもそんな指摘はされなかったので(笑)、意外とオリジナリティーがあるのかもしれないなと思いながら書き続けていた。まあそのころは別にオリジナリティーがあろうがなかろうがやっていて楽しいからやっていたという感じなんですよね。その後、4年目くらいだと思うんですが、やたらとお客さんに面白がられようと思ってしまって、結構低迷した時期もありました。お客さんのことを気にしすぎていたときに、もっと自分が興味あったり、面白いと思うものを作ろうというように開き直ってから何年か経ってできたのが今回上演する『て』なんです」

 今回の2作品同時上演というのは15周年に合わせ企画していたもの?

「そういうつもりではなかったんですが、この2作品は世の中的にはすごく個性的な作品だと思います。連作とはうたっていませんが、ひとつの地域のただ1個の家族のことを別の視点で書いているので、この2作品は全く同じ時期に連続で見たら、また別の作品になるような気がしたんです。それは15周年とは全く関係がなく、以前からなんとなく思っていました。最初は1個の作品にしてしまおうかとも思ったんです。『て』という作品は物語が前半と後半に分かれていて、同じ時間を2周する構造になっている。これ自体が1個の作品でありながら2つの何かが入っているということでもあるので『夫婦』を合わせてひとつのものにできるのではないかと思っていたんです。『て』の前半と後半の間に『夫婦』を入れてしまうといった形なんかも考えました。だから順番的には15周年というのはそれをやるための言い訳ですね(笑)。でも東京芸術劇場に隣り合った2つの劇場があって、『て』を多くの人に見てもらえた初めての機会も芸劇だったので、今回2作品を同時上演して見ていただければということになりました」

『て』は劇団では3回目の再演。『夫婦』は初めての再演。

「『て』は常にやりたいと思っている作品。『夫婦』はまだ作っている最中というか、ずっと作っている最中のような作品。すごく散文的というか、プロットが全然ない状態で、僕が感じた順番に時系列がぐちゃぐちゃに進んでいくといったものなので、早く再演したいと思っていました。前回にやり残したこともきっとあるはずなので、気持ち的にはいつでもやる準備のある作品だったんです」

 脚本の手直しに演出が2本分。そして自身は『夫婦』に出演。結構ハードなように見えるが…。

「手直しは多少です。僕の場合は再演をするのはその台本が面白いからで、とりあえずは手を付けないで始めます。稽古をしながらその俳優に合わせるとか、何年かたって時代的に違和感があったら携帯の形を変えるとかそんなところ」

 今回は自分も出るし、稽古はかぶるしで大変なのでは?

「それは大変だとは思うけど、『て』はだいたいできあがっているので。初演とか再演では今考えると、僕はとにかく俳優の手をどんどん切っていくという演出の仕方をするタイプなんです。手を切るというのは俳優を押さえつけて、本当は身振り手振りとか演劇として許されるだろうということを利用して俳優がお客さんとつながろうとすることを押さえつけて、それを演劇だから許される身振り手振りではないものにして、ストレスフルにさせて。で、結果それが役人物のストレスフルに変換されてお客さんに伝わる、みたいな感じ。僕の台本はかなり演出も入っているものだと思うので、今までよりはもう少し俳優に直接お客さんとにつながる機会を持ってもらってもいいなという感覚にはここ2年くらいでだいぶなっているんです」
浅野和之がハイバイ初出演。『て』で母親役を演じる

 今回のキャストを見ると、ハイバイ初出演の浅野和之が『て』で母親役を演じるなど興味深いものとなっている。

「くそ真面目な作品で戯曲の中の役人物だけに集中して演じているかと思えば、劇団ワンダフルズのコントではもぐらたたきの穴から顔を出してたたかれるというようなこともしている。振り幅がすごい。その両極端があってこそ演劇だと思うんです。浅野さんとは一緒の現場になったことはなかったんですが、ハイバイの作品はよく見ていただいていて、面白がってくれていた。面白がってくれていて、浅野さんもそういうことをやっているのだったら一緒にやらせてもらわない手はないなと思って今回お願いしてみたら、快諾していただけたので、 “やったぜ”って感じでした(笑)」

 岩井作品には欠かせない存在となっている菅原永二もそうだったのだが、初めての俳優とは相思相愛な感じがある。

「僕は永二君にも浅野さんにも直接聞いたことはないんですが、見てくれた作品の中で俳優さんを生かす使い方をしていたんだと思います。浅野さんも僕がそういう部分も踏まえていることは作品を見て感じ取ってくれたのではないでしょうか」

 この15年を眺めると、岩井は劇団公演、外部作品での作・演出はもとより、森山未來、前野健太との『なむはむだはむ』といった挑戦的な企画への参加など、アグレッシブな創作活動を行ってきた。そして今年5月にはさいたまゴールド・シアターで構成と演出を手掛けた。

「ゴールド・シアターについてはおじいちゃん、おばあちゃんが純粋な俳優ではなかったということがすごく大きかった気がします。普段接している俳優さんたちとは全く違うのである意味苦労しました。例えばダメ出しをしたら“は? なんで?”って言われたりするんです(笑)。最初は“何言ってんだよ?”って思ったんですが、俳優と演出家だろうがなんだろうが本来そういうもの。人対人なんだから納得がいかなければそういう反応になりますよね。

 ダメ出しをして俳優に言い返されたら、正確な答えを出していかなければいけないというのが演出家の本来の仕事。だけど多分、ここ何年かで平田オリザさんなんかが演出家の立場をぐーんと上げたんです。それまでは小劇場はかなり俳優主義だった。僕はその文化に寄りかかって“俺がやりたいことをやっているんだから”っていう感じで俳優には接していたんだけど、それでは俳優からはなにも出てこなくなる。俳優も“は? なんで?”と言ったらそれなりのことをやってこないといけなくなって、両方にちゃんと作品に対する責任が生まれる。だから乱暴だけど、すごく本質的な問いかけをされたと思っています。ものすごくいい経験をさせてもらいました」

 ゴールド・シアターの方々は蜷川さんにもそういう感じだったのだろうか?

「蜷川さんともガチガチやっていたらしいです。蜷川さんもきっとそれを求めてゴールド・シアターを立ち上げたのではないかと思うんですよ。もう行くところまで行っちゃって、ポジションも確保されちゃっていて、多分面白くなかったんだと思うんです。そこで確実に自分より人生経験がある人たち、俳優でもない人たちを相手にしたら自分が「演出家」ということだけでみんなが納得してくれないということを分かっていたうえでやっていたと思います」

 蜷川氏が亡くなってから、ノゾエ征爾、岩井といった若い演劇人がゴールド・シアターに関わることが多くなった。これは得がたい経験なのでは?

「それはノゾエ君とも話しました。ゴールド・シアターは蜷川さんが残してくれた遺産だと思います」
フランスで開催の「ジャポニスム2018」では『ワレワレのモロモロ』を上演

 今秋にはフランスで開催される「ジャポニスム2018」にも参加。このイベントは日本とフランスの両国が連携し、パリを中心に“世界にまだ知られていない日本文化の魅力”を紹介する大規模な複合型文化芸術イベント。日本からはNODA・MAP、松井周、庭劇団ペニノといったそうそうたるメンバーが参加する。これにはどういうきっかけで?

「ジュヌヴィリエの劇場の芸術監督のダニエルさんがジャポニスムに招聘するために日本の演劇をたくさん見る中で、2016年にやった『ワレワレのモロモロ』を見て呼んでくれました。呼ばれた時は日本でやったものを持っていくんだと思っていたんですよ。行ってみたらジュヌヴィリエの人たちでやるんだと言われました。実際に会って話してみると、ヨーロッパにはロマという昔でいうジプシーの人たち、定住するという概念を持たない人たちというのがたくさんいて、それがジュヌヴィリエにもいるんですが、そういう人たちにフランス人が取材に行っても、国から歓迎されていないという意識が本人たちにあるから何も喋ってもらえないんです。だけどこういう僕のようなストレンジャー、どこの誰か分からないやつがふらっと来て“何してんの?”って聞いたら、“俺たちはただここに居たいだけなんだけど、フランス人はすげえ迷惑がっている”といったことを普通に話してくれる。それは多分日本でもそうだと思うんです。同じ日本人同士だと、この先何回も会うかもしれないから、ちょっとしがらみが多くて言えないことも、外国人が日本のいろいろなことを取材していて、それの一つのケースとして、あなたのことを深く掘り下げてみたいというふうに言った時は話せることがすごく出てくる。向こうではそんなことも感じました。すごくヘビーな話が多いんですけど、ジュヌヴィリエでは今はもう全員の台本が出来上がっていて、立ちげいこをしてというところまで進んでいます。次は10~11月に行って、本番をやってくるという感じです」

 フランスで「ジャポニスム」という日本にフォーカスを当てたイベントが開催されること、そこに日本の著名な演劇人が多く参加することは日本国内ではあまり知られていない。

「例えば、野田秀樹さんや松尾スズキさんの作品なんて向こうですごい評判が高い。平田オリザさんなんて、フランス語に翻訳された戯曲が何本もあって、現地の新聞に大きく取り上げられたりしているけど、日本には一切知らされていないというのは、日本の文化的には結構大きな損失だと思うんです。これってサッカーで言うなら、選手の評価において10点満点で6.5点とかつけばすごいといわれるところで8.5点とかつくようなレベルの話なんですが、日本国内には全く知らされていない。もしそれが日本でも大々的に伝えられたりしていたらということを考えると、結構文化には大きな影響があるなという気はするんです。演劇だけではなく」

 いまネットが発達して世界が狭くなったといわれているのに、演劇業界についてはそうなっていない。演劇は生で見ることが基本にあるという物理的な問題があるにしてもだ。

「いろいろな演劇があってもいいと思うんだけど、やっぱりYouTuberとかネットの引力ってすごいなって思うんですよね。僕もずっと見ちゃうし。2~7分くらいの間で絶対にちょっとした何かが起きて、それが1回終わったらまた勝手に始まるという仕組み。見たことのないものがずっと右に並び続けるという中毒性ってすごいじゃないですか。だからテレビはそっちに行くしかなくなっていくと思うんですよ。短い時間にこれくらいのカタルシスが続くというものに。うっかり演劇もそっちに流れていきそうになるんだけど、多分やらないほうがいいんだろうなとは思っていますね」

 作家・演出家はもちろん、俳優としても活躍中なのだが、今後はどういった活動を?

「ミュージカルの演出をしたいと思っています。ハイバイは今まで中サイズ以上の劇場ではできなかったんです。単純に台詞のボリュームとか題材的に表情が見えないと成立しないものが多かった。パルコ劇場でも厳しい部分はあった。もちろんシアター・コクーンや東京芸術劇場のプレイハウスでも難しい。400人くらいのキャパではできないと思っていた。でもミュージカルにすると可能なんです。僕、昔バンドをやっていて曲も作っていたんです。演劇を始めたから全然やらなくなっていたんですが、昨年、未來君や前野健太君とやった『なむはむだはむ』で音楽を使った時に“これは意外と使えるな”と思いました。でもミュージカルって『レ・ミゼラブル』とか『ミス・サイゴン』とか時代背景が大きいものが多いじゃないですか。だからどうしたものかと思っていたんですが、最近見たミュージカルではある家族の中で起こった出来事を4~5人の登場人物で成立させていた。

 そこで考え方が反転しました。世界観が超デカいものをミュージカルにするよりも、小さいからこそ歌で遠くに飛ばして成立させられる。音楽には個人的な刹那的な思いに聴いてる人を巻き込む力があるからこそ、それが可能じゃないかと思いました」

 今年の1月には初めて映像の監督も務めた。今後はそういった活動も視野に入れている?

「もともとひきこもりから出てきたときは映画監督になりたかったんだけど、今は恐ろしくて。動く人数とかお金が半端ないじゃないですか。勝手もわからないし」

 ここは「やりたい」と言っておけば、お金を出してくれる人が出てくるかもしれない。
「じゃあ、やりたいです(笑)」

 2作同時上演も驚きだが、よもやミュージカルの演出も考えているとは…。
                              (本紙・本吉英人)
©︎平岩享
ハイバイ15周年記念同時上演『て』『夫婦』 【作・演出】岩井秀人〈て〉【日程】8月18日(土)~9月2日(日)【会場】東京芸術劇場シアターイースト(池袋)【出演】浅野和之、平原テツ、田村健太郎、安藤聖、岩瀬亮、長友郁真、今井隆文、能島瑞穂、湯川ひな、佐野剛、 松尾英太郎、猪股俊明/〈夫婦〉【日程】8月23日(木)~9月2日(日)【会場】東京芸術劇場シアターウエスト(池袋)【出演】山内圭哉、菅原永二、川上友里、遊屋慎太郎、瀬戸さおり、渡邊雅廣、八木光太郎、岩井秀人【問い合わせ】ハイバイ(TEL:070-3294-4761=10~20時 [HP]http://hi-bye.net/)

『て』は地方公演あり。
〈高知〉2018年9月7日(金)~8日(土) (高知県立県民文化ホール オレンジホール)
〈長崎〉2018年9月15日(土)~16日(日)(アルカスSASEBO 大ホール特設劇場)
〈兵庫〉2018年9月22日(土)~23日(日)(伊丹市立演劇ホール AI・HALL)