「ムシラセ」保坂萌の新作『眩く眩む』は集団創作におけるパワハラ問題を題材とした作品

ムシラセ「眩く眩む」

 演出家・劇作家・舞台写真家の保坂萌が主宰する演劇ユニット「ムシラセ」の新作『眩く眩む』(まばゆくくらむ)が9月6日から東京・中野の劇場MOMOで上演される。

 ムシラセは保坂の創作する演劇を上演するためのユニットで、2008年に設立。年に1~2回の主催公演と招聘公演等に参加している。

 保坂の作品は自分以外の誰かの目にはそれが絶望に写っても、自分自身にとっては愛すべき人生で、その逆もまた然り。人間と人間とのやりとりを笑いを交えて描き、エンターテインメントでありながらも社会を斜めから切り取るといったもの。

 今回の新作は昨今、にわかに明るみになることが多くなってきたエンターテインメント業界や集団創作の場における「パワハラ問題」を題材にしたもの。

 このパワハラやセクハラから派生する出来事はしばしばメディアを騒がせる。そういったニュースを目にする中で保坂自身「今、このテーマと向き合っておかねばならない」と考え、今回の作品の制作に取り掛かったという。

 作品自体は「ハラスメントが起きてしまうことは人間が2人以上いればどこにでもあり、それを解決する姿勢をみせないことは絶対悪である」というテーマを持ちつつも、正義vs悪という二項対立や解決策を提示するものではなく、どちらかというと被害者や加害者周辺の人間たちの行動を描く中で、それぞれの立場から見ている世界をぶつけあうようなものになっている。

 この周辺の人たちの行動というのは自己保身に走る加害者側の姿であったり、全く別のハラスメント被害者側の人たちが別のハラスメント被害が起こった際に「そら見たことか」といった具合に見ず知らずの新たな被害者を祭り上げておきながら、時間が経つと何事もなかったかのごとく忘れ去っていってしまうような行動のこと。

 エンタメ業界におけるパワハラやセクハラ問題は今に始まったことではなく、これまでにも多くあり表面化しなかっただけといわれている。集団創作である以上はどの局面においても常に起こりうることで、どういった対策を取れば問題が起こらない、または解決するかという答えを持っている人は多分、誰もいないという現状。その中であえてこの題材を扱うのは相当な覚悟がいる。なぜなら大半の人がうなずいても一部の声の大きいしたり顔の人たちや自覚のない人たちに正論がかき消されかねない問題だから。いや、今使った「正論」という言葉もその人の立ち位置によってさまざまなものがあるからだ。
 
 ちなみにムシラセの前回公演はこれまでの作品の中で特に支持が大きかった『つやつやのやつ』と『ファンファンファンファーレ!』の2本立ての公演で、コミカルとちょっと泣かせるような2作品を並べた。保坂は今作については「絶望の果てに希望のある物語になる」と言うが、前回公演とはやや異なったトーンのものになりそう。そのなかでどんな絶望と希望を見せてくれるのか。

 公演は9月10日まで。