丹羽駐中国大使の車襲われ日の丸強奪される

 丹羽宇一郎駐中国大使が乗った公用車が8月27日午後4時、北京市内の環状道路「四環路」で2台の車に強制的に停車させられ、車から降りてきた中国人とみられる男に車両前方に取り付けられた日の丸を奪われた。丹羽大使にけがはなかった。

 丹羽大使は28日、事件について「極めて遺憾だ」とした上で、「中国外務省から厳正な捜査の確約があった。在留邦人や日本企業関係者が安心して生活できる環境の確保が重要だ」などとする談話を発表した。

 一方、中国の唐家●・中日友好協会会長は29日、北京市内で開かれた日中関係のシンポジウムで、事件について「大変無礼な振る舞いをした」と述べ、日本側に対し“謝罪”した。外相、国務委員を歴任した唐氏は、中国の対日政策に大きな影響力を持つ重鎮であり、異例の謝罪の言葉には、事件の影響を拡大させたくない中国側の思惑がうかがえる。中国社会科学院が主催した日中国交正常化40周年を記念するシンポジウムでの発言で、公用車を襲撃した男について唐氏は「愛国者ではなく、害国者(国に被害をもたらす人)だ」とも非難し、中国側が徹底した捜査を行っていることを明らかにした。

 襲撃事件の捜査について、同シンポジウムに参加した共産党関係者は、北京市公安当局者の話として、「犯行に使われたとされた車2台のうちの1台はすでに判明したが、巻き込まれただけで事件と無関係であることが証明できた。日の丸をもぎ取った男が乗っていたもう1台は偽のナンバープレートを付けており、北京の警察はいまその割り出しに全力を挙げている」と語り、捜査の長期化もあり得ることを示唆した。

 この前代未聞の事件は、反日行動を国民の不満のはけ口に利用してきた中国当局の姿勢に起因する。

 今年は国交正常化40周年の節目の年。日中関係のさらなる悪化を避けたいのが中国側の本音。中国各地で反日デモが相次ぐ一方、北京などの大都市では警備が強化され、デモがほぼ押さえ込まれているところからも、それはうかがえる。しかし、一方で今月19日に広東省深セン市で起きた5000人規模のデモのさなか、一部暴徒化した参加者が日本料理店内を荒らし、日本車十数台を破壊したが、その後、捜査が進められているという話は聞かない。

 こうした過激な行動を容認するかのような中国政府の態度によって、中国の愛国主義者の間に反日行動は“無罪”との空気が広がっている可能性がある。中国版のツイッターには公用車を止めた男を「英雄だ」などとたたえる意見が相次いだ。今回の事件も曖昧に処理されれば、同種の事件が再発する恐れがある。