タクシー運転手が語る波乱の人生

 最近、いくつもの書評で取り上げられ話題の『東京タクシードライバー』は、さまざまな事情でタクシードライバーになった13人の人生を聞き書きしたノンフィクション。著者はなぜタクシードライバーの人生にひかれたのか。

「ある晩、バブル崩壊で取引先が倒産した煽りを受けて、経営していた会社が潰れてしまったというドライバーさんのタクシーに乗ったんです。降りる時になって、元社長というドライバーさんが1冊の大学ノートを取り出して、見てくれないかと言ってきました。そのノートにはお客さんを乗せた場所、時間、運賃、そして職業まで細かく書いてあって、これを分析して効率よく稼いでいるから営業所でトップの成績なんだと言うのです。自分はタクシーの運転手になっても、ナンバーワンなんだと。聞いていてなんだか切なくなりましたが、同時に、こういうストーリーを持ったドライバーさんが他にもたくさんいるのではないかと思い取材を始めました」

 元社長、元俳優、元外資系企業の営業マン、夫が専業主夫をやっている女性ドライバーなど、どのストーリーも小説よりずっとずっと波乱に満ちている。

「そうなんです。1話目の“奈落”は妻の浮気が原因でホームレスになり、新聞の勧誘員やソープランドの呼び込みなどさまざまな職業を転々としながら地獄のような日々を送り、そこから必死で這い上がってきた人の話です。そんなかなりヘビーな話などを、1話完結の読み物として面白く読んでもらえるようにしました」

 前向きになれた、元気が出たなど、ポジティブな感想が多いとか。

「苦労しながら頑張って生きているドライバーさんたちの姿に勇気づけられたと言ってくださる読者さんもいます。取材を通して感じたのは、ドライバーさんにはとても人間的な人が多いということ。ひとりひとりのドライバーさんの人間性の素晴らしさが、読んでくださった方に伝わっているのかもしれません」



「東京タクシードライバー」
【著者】山田清機
【定価】本体1400円(税抜)【発行】朝日新聞出版
『東京タクシードライバー』のプロモーションビデオ