長島昭久のリアリズム 国家と安全保障を考える(2016年元旦・特別編)

 新年明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。

 さて、昨年来連載して参りました「国家と安全保障を考える」シリーズも大詰めを迎えましたが、今回は、元旦特別編として、昨年末に電撃的な合意に至った慰安婦問題をめぐる日韓関係について、戦略的な視点から考えてみたいと思います。

 まず、日韓関係における最大の障害となってきた慰安婦問題が、日韓両国政府により「最終的かつ、不可逆的に解決されることを確認し、両国は互いに非難、批判することを控える」ことで合意されたことを、率直に評価したいと思います。

 また、2012年8月の李明博大統領(当時)による竹島不法上陸以来、冷え切っていた日韓関係をここまで修復した日韓両政府および外交当局の努力にも心から敬意を表したいと思います。そもそも慰安婦問題をこじらせた直接の原因は、2011年8月に出された韓国憲法裁判所の違憲判決でした。韓国政府による慰安婦問題解決への不作為を違憲と断定した憲法裁判決により、窮地に立たされた当時の李明博大統領がそれまでの親日政策を転換し、政権末期の翌年8月に竹島へ不法上陸することにより、日韓関係は戦後最悪の状態に陥り、それがそのまま現在の朴槿恵大統領に引き継がれ、日韓国交正常化50周年の昨年いっぱいまでギクシャクが続いたのです。

 この間、日韓両国の同盟国である米国は、対中、対北朝鮮戦略の観点から日韓関係の修復を強く求め日韓両政府に陰に陽に圧力をかけ続けました。その結果、国内の反発を覚悟の上で朴大統領は大きな譲歩を迫られ、同時に、国内の嫌韓ムードの高まりや保守派の根強い抵抗を制して、安倍首相が戦略的な決断を行ったのです。この決断に至るまでに、慰安婦問題に対する検証を行い国内の懐疑論を沈静化させ、賢明な「戦後70年談話」を発出して国際的な評価を獲得し、日中関係を改善して戦略的な地歩を固めた上で、経済情勢の悪化もあり年内決着を切望した朴大統領の意向を汲む形で電撃的に外相派遣を決断し合意に漕ぎ着けた安倍首相の外交手腕は鮮やかなものでした。

 安倍首相による「お詫び」についても、日本大使館前の少女像の扱いをめぐっても、元慰安婦たちを煽ってきた韓国の民間団体などから、今後様々な反発や批判が予想され、今回の合意の履行はなお予断を許しませんが、日韓両国のマスコミ、政治家、NGOなどは今回の合意を後戻りさせるような言動を慎み、戦略的視点に立った未来志向の日韓関係を深化させて行けるよう相互の努力を重ねて行くべきであると考えます。

(衆議院議員 長島昭久)