みうらじゅん × いとうせいこう 大人気イベント「ザ・スライドショー」がまさかの映画化!?

みうらじゅんといとうせいこうによる「ザ・スライドショー」が映画化、全国公開される。みうらが全国津々浦々で撮りためた写真に、いとうが突っ込むという、2人で写真を見てトークするだけのステージ。しかし、今年20年の節目を迎え、チケットは即完売という大人気イベントだ。1996年の第1回目から2016年の13回目までのショーを振り返り、その歴史と変わりゆくスタイル、そしてレジェンド級の仲良しである2人の関係性を赤裸々に語る。

撮影・蔦野裕

 漫画家、イラストレーター、作家、ミュージシャンとして活躍、さらにカスハガ、いやげもの、ゆるキャラ、マイブームなど数々の流行や流行語を生みだしてきたサブカル界のレジェンドみうらじゅんと、俳優、小説家、ラッパー、お笑いタレントなどマルチに活躍するクリエイターいとうせいこう。その2人にスライ(スライド機)を加えたユニット「ROCK ‘N’ ROLL SLIDERS(ロックンロール スライダーズ)」による「ザ・スライドショー」が映画化される。映画は、昨年、国立代々木競技場第二体育館で開催された「ザ・スライドショー13」の映像からスタート。

みうら「普段はさ、何やってるんだろうと思って。あの代々木の会場。K-1の試合とかやってるの?」
いとう「体育館だから何かスポーツでしょうね。だから今回のスライドショーのオープニングはオリンピックともかけてスポーツ縛りで演出したじゃないですか」
み「いとうさんが、一応会場に合わせて演出しているんだよね。ところで今K-1って誰なの? 魔裟斗さんとかじゃないよね」
い「もっと若い世代が出てるんだよ」
(編集者「武尊さんとかですかね…」)
み「そういう人がいるの? 日本書紀みたいな人が出てるんだ」
い「ヤマトタケルの事言ってるの?」
み「というような話が延々続いていく。そんなショーです(笑)」
い「気を付けたほうがいい。いつまでも意味のない事をずっと喋ってますから(笑)」

 のっけから2人のペースに巻き込まれ、何を話していたのか見失いそうになる。しかし、同じ形式でイベントを20年続けているのもすごいが、回を重ねるごとに会場が大きくなっていくのもすごい。

み「おっきくなったり小さくなったりね(笑)」
い「一回、武道館までいって、ハワイまでいって…」
み「で、また渋公戻ったりね」
い「2000人から3000人のところに戻してしばらくやってたよね。そして今回は前回から4年も経っているから、きっとチケットがすぐ売れると思い、ちょっと広めの所を用意してもらったら、代々木になった。会場にはちょうどいい具合ってあるんですよね。僕らが喋っていて、音がちゃんと聞こえるとか」
み「あとスライドの見え方は、あまりにもデカ過ぎるとやりにくい事もあるしね。武道館はハッキリ言ってちょっとやりにくかったね」
い「やりにくかった」
み「円型だから声が回っちゃってね(笑)」
い「笑い声が0コンマ何秒かあとからくるんですよ。だから気持ちが難しかったけど、今回は良かったね」

 今回の代々木のイベントが前回から4年も空いてしまった理由は?

い「ネタがたまるまで待ってたからです」
み「ネタね…。前は割と変なものというか、おかしいものを見つけたらスライドショーをやっていたんですけどね、映画の中でもちょっと言ってるんですけどね、徐々にやっぱり何か変わって来てるんですね。ネタの選び方とかトークの仕方が。20年間でいろいろありましたから」
い「みうらさんがね、もう当たり前が嫌になっちゃったんですよ。当たり前にパッと見て面白いものは他の人がやればいいし、そこで僕と2人で話してても面白くなくなっちゃったんです」
み「そうかも知れないね。ネタのおかしさで2人が突っ込んでもしようがないわけで、出したスライドを見て、いとうさんと揉んでいっておかしなほうへ持っていくっていうのが、いいわけで」
い「これって何なのとか、何県なのとか、どうでもいい話なんだけど、どんどんどんどんおかしな構造になっていくっていう。即興で作っていく面白さっていうのかな。だからそれができるかできないかのネタを撮ろうとするから、なかなか集まらない。それって言語化できないから、ものすごく難しい事をやっているんです、実は」
み「難しいことにね、なっちゃっいましたね(笑)。だからそのネタのおかしさっていうのは、それはそれで好きなんだけど、今はそこでいとうさんと揉んで、勝手に変な概念みたいなものがその場だけで出来上がるというようなスタイルにしているんです。だから映画にも入ってるけど、ワッフルなんかもね、ワッフルっていう概念に過ぎないわけで(※ぜひ、映画でご確認下さい)。何の事はない普通の風景なんだけど、そこを2人で揉んでおかしいほうへ持っていくっていうショーなんですよね。だから集めるのはなかなか時間かかりますね」
い「集めるともいえない何かになっている。そこが、難しいですよね」
み「バカ話に気付かせない努力というかさ(笑)」
い「ほかの番組なんかでも、一緒に旅することが結構あるんだけど、本当にこの頃、シャッター切らないんですよ。昔はすごく切ってたよね」
み「今はあまり切らなくなった。携帯が普及して、画素も良くなって、みんなが撮るようになったから。そこにすごいアンチな気持ちがあるのかも。撮らないという意志表示(笑)」
い「撮るもんかって(笑)」
み「スライドショーの初めはまだフィルムでしたから。そこからデジタルになって、今はスマホになってる。でもそこには映らないものが欲しいんだよね。みんなが撮れないようなものを、撮りたいんです」
い「そうなんだろうね。普通の人はデジタルは気軽だから、面白い看板をすごい寄って撮っちゃうけど、もうみうらさんはそれに飽きたんですね、きっと。その看板だけじゃなく、そこに通りかかったおじさんの顔も含めて面白いと思った時だけに、シャッターを押すようになっちゃった」
み「メインに撮ろうと思ったものよりも、横のおやじの顔のほうがおかしくて、いとうさんがそこに突っ込んで、お客さんが笑うんだったら、それでもいいじゃんって思うようになっちゃった」

「ザ・スライドショー」で使用するネタは、いとうには事前に見せず、そこで繰り広げられるトークもぶっつけ本番。それゆえに、いとうの突っ込みが光るネタ探しが重要になってくる。

み「スライドショー人生だったんですよ、この20年間。その前からいとうさんとはいろんな事やってたんですけど、シャッターを切る時に、これを撮るとこう突っ込むんだろうなってつい思うんですよ。もうちょっと引いて撮ろうとか、いろいろ考えるから、シャッターを押す時間が遅くなる」
い「カメラマンみたいになるわけね」
み「ちょっと土門拳が入ってきたのかね(笑)」
い「もうちょっと光がこっちから来たほうが…とか(笑)」
み「そうなんですよ。5年ぐらい前かなぁ、日曜日にバスに乗っていたら団地が見えて、べランダにバーッと布団が干してあるわけ。そこに1枚だけね、虎の敷物が干してあったの(笑)。それがすっげーおかしくて(笑)」
い「おかしいよねー(笑)」
み「前だったらすぐに降りるところだったけど、考えちゃった。いまだに悔しい思いをしていますけど(笑)」
い「ひとつひとつベランダを見ていくと、布団、布団、布団、虎みたいな(笑)」
み「虎の敷物を日曜日に干す光景、初めてみたから、ほんとにショッキンロールだったんだ(笑)。で、大分たってからまた行ってみたんだけど(笑)」
い「行ってみたんだ」
み「悔しいからね。日曜日は干すだろうと思ったけど、なかった。普通の布団はあるけど、やっぱり虎の敷物はそうやすやすとは干さないんだなって(笑)。もうね、そこの住人に問い合わせて、今度いつ干すか聞きたいぐらい。そんなことばっかりやってるから、時間がかかって仕方がない」
い「納得いくネタを見つけるのにね」

 

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