「ラグビーワールドカップ2019」日本はどこまでやれるのか!?(3)【ギモン解決の1週間】

伝説のラガーマン・吉田義人に聞く

 2019年に日本で開催される「ラグビーワールドカップ(W杯)2019」に向け、5つのテーマでラグビーについて元日本代表の伝説のラガーマン・吉田義人氏に話を聞くこの企画。今回のテーマは「W杯に向け盛り上がりが足りなくないか?」。

パート1「ラグビーの立ち位置」

パート2「ラグビーの魅力」

吉田義人氏(撮影・蔦野裕)

パート3「W杯に向け盛り上がりが足りなくないか?」
 W杯に向け盛り上がりが足りないように思います。どうすれば盛り上がる? そもそもラグビーって盛り上がったり盛り下がったりが激しすぎる気がします。

「そうですね。野球はもともとメジャースポーツですし、サッカーはJリーグが1993年に発足してから競技人口がどんどん増えて、ずっと成長を遂げている。いかに子供たちに、そのスポーツの魅力を伝え感じてもらい、思いっきりスポーツを楽しめる環境を用意してあげることが将来にもつながっていくことになると思います。

 日本の教育においては、部活とかスポーツクラブやスポーツスクールに入ったら、大抵の子がそのスポーツをずっとやり続ける。日本のスポーツ教育は一つのスポーツを選択したら、そのスポーツだけを集中してやらなければならないような環境になっている。

 そして、子供にどんなスポーツをさせてあげるかという権限を持っているのは親御さんでもあります。もちろん子供の意思も尊重はしますが、親は怪我がいちばんの心配事。どうしても怪我が少ないスポーツをやってほしいと思ってしまう。そうすると、例えば、サッカーもラグビーも同じようなグランドでできる、フィールドスポーツ。“さあ、どちらをやらせようか”となるとプロ組織であるJリーグがあり、多数のスター選手も存在し、そして、何より、社会生活をする上での致命的な怪我を負うリスクの少ないサッカーを選択する傾向にあります。したがって、これからますます、親御さんに対して、ラグビーの魅力を伝えていく必要があると思います。

 僕にも現在、9歳の息子がいますが、全ての親御さんたちの願いは、立派な大人に成長していってほしいと思っているはずで、世の中に貢献できる人間に育ってほしいと思っていますし、また、そう育てたいと思って教育しています。ラグビーは子供たちへの教育という観点から、どういう影響を与えることができるのかということをもっと明確に位置付け、提唱することができていれば、ラグビーをやらせてあげようと思う親御さんは増えていったんじゃないか、そして、増えていくのではないかと思います」

 吉田さんは今それをやろうとしているわけですね。

「ラグビーだけではなくスポーツを通じての人間育成ということを目指して、2年前にスポーツ教育アカデミーという一般社団法人を立ち上げて活動をしています」
 
 そこではラグビー以外のスポーツも取り上げていますね。

「僕は筑波大学の大学院に行って、スポーツにまつわる総合的な勉強をしてきました。修士論文のテーマが、『ゴールデンエイジ』。子供の発育・発達においては3つの成長の柱があります。医学的な観点からみると、骨の成長、筋肉の成長、そしてもうひとつは神経系の成長。この神経系の成長というのはどういうことかと言うと、例えば、小さいころに言われた人も多いと思うんですが“君、運動神経がいいな”っていうあれです。これが一番過敏になる時期が、いわゆる9~12歳ごろとなります。したがって、この時期にさまざまな運動やスポーツをするべきで、そのためには一つの偏った身体運動をするのではなく、数種目のスポーツをやらせてあげたほうが将来に向けて、よりバランス感覚を養うことにもなるんです。欧米ではシーズンスポーツという形でそれを実現しています。そういったことを筑波の大学院で学びました。スポーツ教育アカデミーでは子供たちに体験してもらうことはもちろん、親御さんたちには子供たちにいろいろなチャレンジをさせることが大事だということを伝えています」

 確かにラグビーは紳士のスポーツといわれるだけあって、どんなに密集した局面でもスパイクでは顔を踏んだりということはほとんどない。

「そんなことは絶対に起こりません。そんなことをやろうとする選手はラグビーの本質を知らない選手だと思います。でも競技を始めようとすれば、指導者や先輩たちから精神を学び、教わることになります。なによりもそういうラフプレーをしたら、仲間の信頼を得られなくなって認めてもらえられないでしょう。

 ラグビーは一人ではできないスポーツなんです」

 試合後にクラブハウスで両チームが揃って歓談をすると聞きました。

「ノーサイドの精神ですね。コンタクトスポーツでもあるラグビーは、危険なプレーや反則をしようと思ったらいくらでもできるんです。でも我々は相手がいるから試合ができると思っているし、相手を尊重し、敬意を表し、重んじています。その根本があって、お互いが最高のプレーをしあえるという幸福感や充足感があります。だからゲームが終わったら、敵も味方も隔てなく“俺とお前は友達だ”という友情ができるんです。

 ラグビーのゲームではもともと監督もリフェリーもいなかったので、お互いのキャプテン同士が “今のは反則だね”、“そうだね、だからそちらのボールでいいよ”といったやりとりをするなかでゲームが遂行されていたんです。だから、その精神が脈々と受け継がれているラグビーは、自己抑制できる意思の強いリーダーも育つのでしょうね」