「ラグビーワールドカップ2019」日本はどこまでやれるのか!?(5)【ギモン解決の1週間】

伝説のラガーマン・吉田義人に聞く

 2019年に日本で開催される「ラグビーワールドカップ(W杯)2019」に向け、5つのテーマでラグビーについて元日本代表の伝説のラガーマン・吉田義人氏に話を聞くこの企画。最終回のテーマは「ラグビー界の未来」。

パート1「ラグビーの立ち位置」
パート2「ラグビーの魅力」
パート3「W杯に向け盛り上がりが足りなくないか?」
パート4「2019年、日本はどれだけやれる?」

吉田義人氏(撮影・蔦野裕)

パート5「ラグビー界の未来」
 強くなるにはラグビーのプロ化を進めなければいけない。そのためには何が必要なのか?

「15人制のラグビーのW杯においては、主催するワールドラグビーと日本で密接な関係を築いているのは日本ラグビーフットボール協会(JRFC)です。したがってこの最高機関がどういうビジョンを掲げるか、そして競技に携わっている人たちがすべて同じ方向に向かって力を合わせることが大事になってくると思います」

ちなみに吉田さんがプロになる時には大きな波紋を呼んだとか。

「そうですね。結局、これまで日本国内のラグビー選手で現役のプロ選手となった人が一人もいなかったので、理解いただけないこともあったかと思います」

 国内はともかく、海外でプロになることでも? 当時、サッカーではそんなことは言われてなかったのでは。

「ラグビーの起源は1823年と言われています。その後ラグビーは、独自の誇りを大切にしながら、長い歴史を歩んできました。しかしなぜW杯がまだ8回目なのかというと、ラグビーというスポーツはもともと人と人との交流の場、社交の場なので、コミュニティー形成の場として重要な役割を果たしてきました。したがって大会を開催して優勝など順位を決めなくてもいいという考え方でした。なのでプロフェッショナルプレーヤーの存在は不必要でもあったのです。それが15人制と7人制を統括するワールドラグビーの思想でもありました。一方で『ラグビーリーグ』という世界を統括する団体もあり、北半球や南半球のラグビー強豪国においては15人制のラグビー人気を上回るほどメジャースポーツでもあるんです。この事は多くの日本のみなさんに知られていません。1992年に世界選抜メンバーの一員としてニュージーランドのオールブラックスと闘い、ニュージーランドに3カ月滞在しましたが、その間に私のプレーを評価してくれた何人もの人から、13人制のラグビーリーグへの転向を勧められたことを鮮明に覚えています。ラグビーはアマチュアのスポーツとして長い歴史を歩み、その精神を育んできましたが、時代の潮流もありプロ化が推進されているのも事実であります。ただし、今でもラグビーワールドカップは国の名誉と威信、誇りをかけて戦うものなんです。象徴的な例として、現在行われているサッカーのW杯は優勝賞金は何十億円も用意されていますが、ラグビーのW杯は優勝しても賞金はありません」

 誇りとお金は両立してもいいと思いますが。

「スポーツはもともとイギリスとアメリカから入ってきた文化です。アメリカから生まれたスポーツはエンターテイメントスポーツとして位置づけられ、スポーツビジネスとしても成長を遂げてきました。アメリカの4大プロスポーツはその象徴で、ベースボール、バスケットボール、アイスホッケー、アメリカンフットボール。まさにショータイムなんです。イギリスから入ってきたスポーツは、ラグビー、テニス、ゴルフを代表としたマナーを重んじ、人としての品位品格を身につけさせるために受け入れられたスポーツでもあります。背景が全然違うんです。多くの日本人はスポーツにはイギリスから入ってきたものとアメリカから入ってきたものがあるということ。そしてこの2つは精神的にも背景的にも大きな違いがあるということをほとんど知らないと思うんです。

 日本には、心身を鍛錬し道を極めていくための武道があります。学校教育としては、体育という名目で、心技体に代表されるように、心身の成長を目的に子どもたちをサポートしてきました。日本ではまだまだ体育とスポーツが果たすべき役割が明確に認識されていないのが実情でもあると思います。2015年にスポーツ庁が創設され、今年の4月には日本体育協会が日本スポーツ協会に名称変更されました。いよいよ2019年、2020年その先の未来を見据えての活動に取り組んでゆき、豊かな未来社会創出に向けて新時代を開拓していくことになると思います」