二ツ目さん数珠つなぎ 【第1回】柳亭市弥「落語にハマるなら二ツ目が元気な今でしょ!?」

 落語ブームと言われて早ン十年。ブームはちょっと下火に? と思われているが、とんでもない。その頃まだ落語家の卵だった二ツ目さんが、現在の落語界を盛り上げている。そんなイキのいい元気な二ツ目さんを数珠つなぎでご紹介!

 若手二ツ目落語家の中でもイケメンと呼び声の高い柳亭市弥。社会人経験を経て落語家への道を選んだ。
「大学を卒業して大阪で会社員をしていました。実家も大学も東京だったので、友達も知り合いもいませんし、毎日同じところに行って、時には上司にも怒られ、ほんときつかった。数字も苦手だし、営業もどうやっていいか分からないし…。もともとお笑いをやりたいという気持ちがあったんですが、そういう状況だったので、その気持ちが大きくなったんでしょうね。ある時、ついに弾けて落語家になりたいと言い出した(笑)。その苦しくつらい時期があったからこそ、今の自分があると思うので決して無駄ではなかったと思えますが…」

 会社を辞めて落語家になる事について家族の反対はなかったのか?
「父親はもともと落語が好きで、自分自身も落語家になりたかった人なので、逆に最初は反対されましたね。好きだけに厳しさも知っているし、お前なんぞが落語家になれるわけないと。その時は多分複雑な心境だったんじゃないでしょうか。今は応援してくれていますし、落語会にも足を運んでくれています」

 晴れて(?)会社を辞め、入門したのが現在の落語協会会長の柳亭市馬。
「好きな師匠はたくさんいたんですけど、うちの師匠は声がよく、すごく聞きやすかった。落語もすごく分かりやすかったし、弟子になるならうちの師匠しかないと思い入門しました。 師匠は厳しいところもありますが、理不尽な事で怒る事はありません。僕の事を思って怒ってくれているんだなというのが伝わりますし、ほめるところはちゃんとほめてくれるすごく優しい師匠です。ほめられる事?…よく食べる事とか(笑)。うちの師匠はよく食べる人が好きで、喫茶店とかに入っても“ケーキ、いくつ食べる?”って聞いてくるんです。そこで“ひとつ”って言うと“威勢が悪いな”って(笑)。いっぱい食べたら喜ぶので、何かしくじった時にモノを食べるということを覚えました(笑)。怒られているのに食べてて“おい、人の話聞いてるのか”って言われる事もありましたけど(笑)」

 平成19年に入門し、20年に前座、そして24年には二ツ目に。
「前座時代は虫けらのような存在でしたから(笑)。とにかく毎日師匠の家に行って、掃除洗濯ご飯の支度。それが終わるとカバン持ちで師匠について回り、寄席の楽屋では着物をたたんだり、お茶を入れたりの雑用仕事。で、打ち上げがあれば必ず出て、いろいろ気を配ってと、とにかく四六時中働いていて自分の時間がない。それが二ツ目になると、師匠の仕事から解放され、一人前に噺家として認められる。羽織も着られますし、何より自分の時間が持てるというのがうれしかった。だから体力的にはすごくラクなんですけど、逆に休もうと思ったらいつまでも休めるわけです。仕事を取らなきゃいいんですから。でもそうしたら途端にお客様が減って、消えていくだけ。二ツ目って、自分でなんとかしなければいけない時期で、これが大体10年ぐらい続く。ですから、その10年のうちにどのくらいのお客様を作ることができるかが勝負なんです。応援して下さるお客様をつかめるよう、自分で自分を育てる時期と言いますか。だから流されちゃうといくらでもラクはできるけど、自分で自分を追い込まなければ、この先の芸人としての人生はないと思っています。幸い、僕は落語が大好きで、お客様に喜んでいただくのが一番うれしいと思っている人間なので、あれこれやってみようという好奇心だけはある。ですから怠けることなく、毎日楽しみながら仕事をさせていただいてます」

 二ツ目が10年ぐらいというと、あと4~5年ぐらいで真打に?
「順調にいけば…そうなんですかね(笑)。今、兄弟子が2人いて、下にも5人。僕が3番目の弟子になるので、あと数年したら一門から真打が誕生することになるんじゃないでしょうか。自分自身もあと4~5年が勝負かなと思っていますので、ネタも最低100以上持てるように頑張ろうと。今回のインタビューでお邪魔している『アトリエ第Q藝術』でも毎月18日、いち・やの日に、落語会をやらせていただいてます。一人で落語会ができる会場を探していた時に、たまたまオープン直後に通りかかったら、カフェやギャラリーのほか、イベントをやっている施設だと知り、飛び込みで“落後会をやらせて下さい”ってお願いしたら、快くやらせていただけることになった。予約はお店でやっていただいてますが、チラシを作ったり、お手伝いの前座さんを頼んだりはすべて僕がやっています。そういう会を何カ所かでやらせていただき、日々、精進しております」

 落語未体験の読者へメッセージをお願いします。
「10年~15年くらい前の落語ブームの時は『タイガー&ドラゴン』や『ちりとてちん』など、落語を題材としてドラマがたくさんありました。今、また人気コミック『昭和元禄落語心中』がテレビアニメ化されたり、10月からは実写ドラマ化されたりするなど、若い人を中心とした落語ブームがきています。それと同じく、現在、二ツ目といわれる若手落語家も、すごく元気でおもしろいキャラの人がたくさんいて、まさに今が落語にハマり時です(笑)。二ツ目の会だったら、それこそ500円ぐらいで見られるものも多いですし、気軽に足を運んでいただけると思います。また、今はTwitterなどで若い落語家がいろいろ発信でき、そういう小さな会の情報も簡単に手に入るので、どこからでもいいので少しでも興味を持たれたら、一度落語を見て下さい。必ずはまる落語家がいると思いますし、お気に入りの噺も見つかると思います。誰でもいいから落語に触れてみてほしい。そこでひいきの落語家が見つかると、さらに落語を聞く楽しみが増えると思います。願わくはそれが私だと大変ありがたいですね(笑)」

【プロフィル】
1984年2月10日生まれ、東京都出身。平成19年、柳亭市馬に入門、20年市也として前座、24年11月、二ツ目昇進「市弥」に改名。出囃子は「春藤」。若手のイケメン落語家5人によるスーパーユニット、RAKUGOKA★5のメンバーでもあり、今年3月には、デビュー・アルバム「落語ファンタジー」をリリース。また、情報番組でリポーターをつとめるなど、活躍の場を広げている。Twitterアカウント:@ichiya_ryutei

取材協力:アトリエ第Q藝術
小田急線、成城学園前駅のほど近くにある、文芸、音楽、絵画、演劇、建築、彫刻、舞踏、映画などの多様な創作活動のための空間。 音響、照明を完備したホール(1階)と、独特の趣を持つフリースペースのセラールーム(B1)、カフェ&ギャラリー(2階)の地上2階、地下1階の3つのフロアで構成。市弥はここで落語を2席披露する「いちやかい」を毎月18日(いちやの日)に開催している。