行定勲監督 映画『劇場』恋をしたことがあるすべての人、かつて夢を追いかけたすべての人へ

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 本作が純粋なラブストーリーに留まらないのは、演劇界を取り巻く社会的な視点があることだ。奇しくも現在、社会的な不安の中で、芸術・文化界は厳しい状況に直面している。

行定「“好きなことをやって苦しんでいるんだから”という社会の冷たい目が明らかにありますよね。つまり、主人公は好きなことに苦しめられている。演劇が悪の元凶だって言っているわけです。特に演劇なんていう、エンターテインメントとか娯楽、芸術をやっている人たちは、社会から一番最初に切り捨てられるんですよ。昨今の新型コロナの件でも分かりますよね。“やるべきだ“と言った人に対するバッシングもあった。でも実は、みんなそういったエンターテインメントや芸術の尊さもちゃんと知っている。特別なものを作って、励まされたとか、感動したとか、そういう経験はあるんだけれども、“今ぐらいはやめなさいよ、あなたたち好きなことやってきたんだからさ”って。一番切り捨てられるだろう芸術という分野だから、主人公の愚かさが余計に露呈してるんです。主人公は一番あこがれ、尊敬できる場に魅せられているにもかかわらず、そういうところに苦しめられる。夢を追うとは、痛みを伴うものなんだ、というのが伝わればいいなと思いました」