Crystal Kay「何も考えず楽しく、懐かしい感じを味わってほしい」ーー月刊EXILE

photography_Katsunari Kawai(125inc.) styling_Narumi Okamura hair_Takayuki Shibata(SIGNO) text_Masako Wakamatsu edit_Haruna Nakagaki 《M A S U》のシャツ¥48,400、パンツ¥39,600(ともにM A S U) 《TEN.》のダブルサークルリング SV ¥14,080、 ソイルリング SV ¥17,600、フロウリング SV ¥19,250、 トリルリング SV ¥19,250、デュオリング SV ¥23,100(すべてTEN.)

キャリア初のカバーアルバム『I SING』をリリースしたCrystal Kay。彼女が20周年を経て特別な機会にリリースしたいと語っていた本作は、誰もが口ずさめる、平成初期から令和にかけての幅広いヒット曲を収録。そして、さまざまなプロデューサー陣と楽曲を作り上げたことにより、リッチでありつつも新しさを感じる一枚に仕上がった。そのこだわりが詰まった今作の魅力や聴きどころについて彼女に話を聞いた。

──カバーアルバムを出すことになった経緯を教えてもらえますか?

「10年ぐらい前にカバーアルバムブームがあったときに、私がやるなら20周年とかそういうスペシャルなタイミングでやりたいと思っていました。2020年に20周年を迎え、『クリカフェ』とかでも邦楽、洋楽問わずカバーを歌うとめっちゃ盛り上がっていたので、コロナウイルスの影響で遅れましたけど、このタイミングで出そうということになりました」

──選曲はどのように行っていったのですか?

「聴いてもらう方に聞くのがいちばん早いと思ってInstagramやTwitterなどで『もし私がカバーアルバムを出すとしたら何が聴きたい?』と問いかけました。そしたらすごくいろんな曲が集まって、でも歌ってみないとわからないのでスタジオに入ってワンコーラスずつ歌いました。全部で100曲近く歌ったと思うんですけど、そのなかから合わない曲、合う曲を選んでいきました」

──全13曲中12曲が男性曲ですが、自然にそういうラインナップになったんですか?

「私は女性曲も全然ありで歌いたい曲もいくつかあったんですけど、女性の私が女性の歌を歌っても普通になじんでしまう。原曲とあまり変わらなくなってしまうんです。それだったらむしろ男の人の曲のほうが合うところがあって、気付いたらほぼ男性曲になっていました(笑)」

──そのなかでご自身が特に「歌いたい!」と思った曲はどの曲ですか?

「歌いたかったのは唯一女性曲の『すき』。あとは『なんでもないや』と『I LOVE…』です。ちなみに『I LOVE…』は通常テンポとスローバージョンの2曲を収録しているんですが、原曲のリリースが2020年で近すぎるから絶対カバーの許可が出ないと思っていて。ダメ元でOfficial髭男dismさん側に私のデモを送ってみたら『歌が上手い人が歌ってくれるなら、いいですよ』って言ってくださいました」

──寛大(笑)。逆に、自分が歌うとは思わなかった意外な曲はありますか?

「『天体観測』です」

──確かに意外です。でも歌声もドラマチックなアレンジもすごく合っていました。原曲は突き抜けていくような疾走感が特徴的ですが、Crystal Kayさんバージョンは空へどんどん登っていくイメージが浮かびました。

「ありがとうございます。これは希望や勇気を感じさせる曲にしたいという想いで作ったんですが、歌うのは難しかったです(笑)。メロディが忙しいうえに言葉数がとても多くて追いつくのが大変なんです。でも、オリジナルのメロディをちゃんと聴いて忠実に大切に歌わないといけないと思ったから、自分になじむまで聴いて歌って聴いて歌ってを何度も繰り返しました。そしたら、だんだん自分の曲みたいな感覚になって歌うのがどんどん楽しくなっていきました」

──おっしゃるとおり、びっくりするほど“Crystal Kayの天体観測”になっていました(笑)。その一方であえてCrystal Kayっぽさを封印し、呟くように歌っていた「3月9日」も印象的でした。意識してそういう歌唱になったのですか?

「意識しました。今回は全体的に自分の曲ではないからこそ、オリジナルをちゃんとリスペクトしたいし、曲が持っている世界観と歌詞とメロディ、自分の声の3つの要素にフォーカスしたいと思っていて。その要素がちゃんと聞こえて、なおかつ余計なものを入れず音もなるべくシンプルにしたいというのをプロデューサーの方たちに伝えて作ってもらったんです。だから歌い方もあえてアレンジしていないです。“私がやっています”という感じは出さず、曲のよさとナチュラルに私の声を聴いてほしいと思って歌いました」

──「ただ…逢いたくて」はいかがでしたか? Crystal Kayさんの声にすごく合っている気がしたんですが。

「そのように聴こえてよかったです。でも、この曲はシンプルで逆に難しかったかもしれません(笑)。すごく耳なじみがある曲だから自分が歌っているのがちょっと不思議でした。でも、ただのカラオケみたいにしたくないし、ちゃんとアクセントとか言葉を届けられるように歌詞とかも『これってどういう意味なんだろう』『どういう想いなんだろう』って、歌う前にブレイクダウンして話し合っていきました」

──歌詞の解釈が特に難しかった曲はどれですか?

「すごく深いなと思ったのは『楓』。これは相手が亡くなっていても成立する歌詞じゃないですか。だからこそ切ないし、深いし、大きい。失恋の喪失ではなくもっと意味深い感じがあって歌っていても、考えさせられました」

──逆に共感しやすかった曲は?

「女性目線で歌っている『サウダージ』と、あとは『歌うたいのバラッド』は自分も歌うたいだから、入りやすかったです。ただ、歌い方に関しては歌詞だけでなく曲の雰囲気やアレンジによって変わるかもしれない。アゲアゲの曲だと自分っぽさをガンガン入れたほうがおもしろいだろうし、ロックなアレンジなら余計なことを考えずに歌えます。そのときそのときによって変わります」

──アレンジのほうも話し合いながら決めていったのですか?

「そうです。アレンジャーさんには『オリジナルの世界観を崩さず、でもCrystal Kay ワールドにしたい』ということをお伝えして作りました。だからどれもすごく気に入ったアレンジになっていて、しかもストリングスとか楽器の部分はほぼ生音なんです」

──とても贅沢ですね。

「超贅沢で本当にありがたいです。なので、聴くときはできればヘッドフォンでじっくり聴いてほしいです。そして、改めてこの曲たちがどれだけいい曲なのかを感じてほしいし、私の声も前面的に出しているので、そこも聴いていただければうれしいです」

──今回、カバーを聴いて改めて思ったのですが、Crystal Kayさんの声には子どもがまっすぐ歌うような無垢感がありますよね。歌のスキルが上がるとその無垢感がだんだんなくなっていくけれど、Crystal Kayさんは両方の要素を持っている稀有なアーティストだと思いました。

「それはすごくうれしいですが、自分ではあまり意識していなかったかも……。でも、母が『たまに子どもみたいな声出すよね』って言っていました。ラブソングだとちょっとかわいい声とか出たりするときがあって、『それは、ぶりっ子っぽいからちょっと抑えなさい』って言われたりします(笑)」

──全然ぶりっ子じゃないと思いますよ(笑)。ご自身は今回、カバーしたことで意外な引き出しや、改めて“Crystal Kayらしさ”を感じた部分はありましたか?

「まず、まっすぐ歌うのもいいなと思いました。あと私は高いキーで歌うことが多いけど、低いほうも出るのでオリジナルではそれはもっと聴かせていきたいなと。“Crystal Kayらしさ”に関しては……自分ではわからない。何だろう?(笑) でも、曲を自分のものにするテクニックはあるかもしれないです。今回もカバーではあるけど、“人の歌をそのまま歌っています”という感じにしたくなくて。『この曲、めっちゃ知っているけど、Crystal Kayの曲だっけ? あれ?』みたいな風にしたかったんです(笑)。ただ、このアルバムで私の歌を初めて聴く人もたくさんいると思っていて、そういう人たちには何も考えず楽しく、懐かしい感じを味わってほしいです。そして今は不安な毎日が続いていますけど、このアルバムで一瞬リセットというか。ヒーリングみたいな感じでチャージをしてもらえたらいいなと思います」

Album『I SING』NOW ON SALE UICV-1113 ¥3,000

月刊EXILE ( http://www.exilemagazine.jp/ )6月号より

 

 

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