萩尾望都の痛みと失われた大泉時代『一度きりの大泉の話』【TOKYO HEADLINEの本棚】

萩尾望都著『一度きりの大泉の話』(河出書房新社)

『ポーの一族』『トーマの心臓』『11人いる!』などの作品で知られる漫画家の萩尾望都。本書はこれまで封印してきた“大泉時代”と呼ばれるデビュー当時の話を、約12万字にわたって書き下ろした最初で最後のエッセイである。

 当時、萩尾らが暮らした練馬区南大泉の半長屋には、数々の女性漫画家や周辺人物が集い、親交を深めていたという。時系列で真摯に語られる家族関係、漫画への情熱、名だたる漫画家や編集者たち……そしてある“事件”が起きたことで萩尾は大泉をあとにし、二度と過去には触れなくなる。同時代に活躍した漫画家たちとの交流、文通したりアシスタントしたりしながら売れっ子になっていくエピソードは、少女漫画好きならば誰もが興奮することだろう。

 それだけに「『小鳥』の巣を描く」以降の話には胸が痛む。前書きに「私の出会った方との交友が失われた、人間関係失敗談」とあるが、誰しも経験のある青春時代の傷が瞬間冷却されているようで辛いのだ。収録の未発表スケッチや『ハワードさんの新聞広告』も必見。

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