菅義偉首相が「コロナ対策に専念」と総裁選出馬の意向を伝えた翌日に不出馬表明

菅首相の総裁選への不出馬表明を報じる号外(写真:アフロ)

 菅義偉首相は9月3日、官邸で記者団に「私自身、新型コロナウイルス対策に専念したい思いで出馬しないと申し上げた」と述べ、自身の任期満了に伴う自民党総裁選(17日告示、29日投開票)への不出馬を表明した。前日に二階俊博幹事長に出馬の意向を伝えたばかりだった。

 不出馬の理由については「首相になって1年間、新型コロナ対策を中心とするさまざまな国の抱える問題に取り組んできた。出馬を予定するが、新型コロナ対策と選挙活動には莫大なエネルギーが必要で両立できない。新型コロナ対策に専念すべきだ」と説明した。

 この菅首相の出馬見送りをきっかけに、3日の東京株式市場の日経平均株価は急伸し、前日比584円60銭高の2万9128円11銭で終えた。

 首相が不出馬を決めるまで、党内政局は混迷が続いた。

 8月26日に総裁選出馬を表明した岸田文雄前政調会長が二階氏を念頭にした「総裁を除く党役員の任期は1期1年、連続3期まで」との方針を明らかにすると、首相も30日には二階氏ら9月で任期が切れる党役員を刷新する方向で検討に入り、二階氏にも交代を検討していることを伝えた。争点つぶしの思惑もあったが、党内では「延命のために恩人を切るのか」など否定的な声も目立った。

 31日には総裁選の前に電撃的な衆院解散が模索されているという情報が流れたが、党重鎮からは反対論が相次ぎ、首相は翌9月1日には「今のような厳しい状況では解散できる状況ではない」と語り、党総裁選に関しても「先送りを考えていない」と明言。これで事実上、解散権を封じ込まれた。

 最後の望みは6日に予定していた党役員人事だった。だが、仮に首相が総裁選で敗れれば、新役員らは短命に終わる可能性があるためうまくいかず。調整能力にたけた二階氏にはすでに交代を伝達済みで、八方ふさがりとなった。

 そもそも交代する二階氏に2日に出馬の意向を伝えるというのも奇妙な話と受け止められた。

 この間、小泉進次郎環境相は5日連続で首相と会談し、総裁選不出馬も含め進言。首相への支持が日を追うごとに失われていくのを感じ、首相の推薦人になれないとの同僚議員の悲鳴を聴いた小泉氏は2日、「玉砕論は違う」と改めて不出馬を首相に迫った。

 小泉氏は3日夕、官邸で首相と面会。面会後には記者団の前で「首相が1年間やってきたことが新型コロナウイルスに対する批判一色で染まり、前向きな実績も覆い隠された。1年でこんなに結果を出した首相はいない」などと語り、涙を流した。

 首相は憲法改正に向けた手続きや安定的な皇位継承策など長年の難題にも道筋をつけたが、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い支持率は低迷した。衆院議員の任期満了を来月に控える中で、自民党内では選挙基盤が弱い議員を中心に「選挙の顔」として不安視する声が高まり、退陣を余儀なくされた。

 この1年で携帯電話の料金値下げ、不妊治療の保険適用など国民生活に直結する政策を矢継ぎ早に打ち出した。その一方で日本学術会議の会員任命拒否問題や首相の長男が絡む総務省の接待問題などについてはいまだあやふやなまま。また国会でも原稿の棒読みや野党の質問に対する答えがかみ合わない、会見でもメディアからの質問に対する答えがかみあわないといった場面が多くみられ、首相自身の資質には党内からも批判の声があげられていた。