「目が見えないんですけど、よく映画を見に行くんです」全盲のヴァイオリニストが「光を見つけた」生きるヒント

「私は目が見えないんですけど、よく映画館に映画を見に行くんです。それでたまに、何を見るのか決めないで行って、ちょうど時間が合う映画を前情報無しに見るんですけど、これがとんでもなく面白かったりその逆だったりして、それがまた面白いんですよ」と笑いながら語る、ヴァイオリニストの穴澤雄介さん。

 心臓と目に障がいがある状態で生まれた穴澤さんは、これまでに3度の心臓手術を乗り越えたものの、盲学校高等部の音楽科でプロヴァイオリニストを目指していた時期に視力をほぼ失い、現在は全盲。そんな彼の半生や人生観に迫るドキュメンタリー映画『光をみつける・ヴァイオリニスト穴澤雄介からのメッセージ』が5月30日から公開となる。自ら「不幸のデパート」と苦笑する劇的な半生とは。次々と直面する絶望的状況の中で常に希望の光を見出してきた穴澤さんの“生きるヒント”とは。

撮影・三田春樹

「自分の障がいを客観的に語れるようになったのは、視覚を完全に失ってからだった」

 普段からよく映画館に行くという穴澤さんに、自身がドキュメンタリー映画の主題となる感想を聞いてみると「心配です(笑)。当初は何らかの映像作品になるということで、まさかこんな、映画館でかけられるような作品になるとは。商売柄、映画館に行けるのは平日の昼間くらいなんですけど、そうするとたまに私以外のお客さんがいないんじゃないかということがあって。この映画も、そんなことになったらどうしようって、すごく心配です(笑)」

 当人はそう苦笑いするが、試写会などで映画を見た人からは「こんなに笑顔と勇気をもらえるドキュメンタリーは初めて」「どんな人でも共感できる、生きるヒントが詰まってる」と絶賛の声が相次いでいる。

「心に残るメッセージや印象的だったシーンが見た方それぞれに違っていたりするのが興味深かったですね。私が本当に絶望したときに生きることを選んだ理由を語る場面が心に刻まれたと仰る方もいれば、舞の海さんとの対談で2人が最後に出した“結論”がまったく肩ひじ張ってないのがよかったという方もいて(笑)。私はスポーツが好きで野球と相撲はよく中継を聞くので、人気解説者の舞の海さんとお会いできたのはミーハー的な意味でも感激しました(笑)」

 視覚障害における全盲と弱視の違いについて分かりやすく解説したり、これまでに経験したさまざまな困難をユーモアを交えて語ったり。肩ひじを張らない穴澤さんの話は、不思議と聞く人の心もほぐしていく。

「私が、自分の障がいを客観的に語れるようになったのは、視覚を完全に失ってからでした。まだ弱視のころは、周りから見ても明らかに障がい者だし自分だって分かっているけど、どこかにまだ認めたくない部分があって。それは私に限らず、弱視で視力が低下している状況の人もよくおっしゃいます。白杖(視覚障がい者が使用する杖)を持つと完全に障がい者であることを認めることになる…と、白杖を使うことのハードルを感じる人は多いんです。私も白杖を使うようになって一つハードルを超えられた感じがありました。よく、全盲になったときはつらかったでしょうと言われるんですけど、私は全盲になったときスッキリしたんです。当たり前ですけど、これ以上、視力が落ちることはないですから(笑)。私の場合は完全に視力を失う前の痛みがものすごく強かったので、それから逃れられたというのもありますけど。結果、何の未練もなくきっぱりあきらめられました」

 穴澤さんが直面したのは、全盲というハードルに留まらない。30歳になるまでの3度にわたる心臓の手術。父の会社が倒産し父が何も告げずに失跡。そしてヴァイオリニスト生命を揺るがすケガ…。

「エンディングで自作曲の『追い風は南から』を弾いているシーンで、左手の人差し指に指人形を付けているんですけど、映画では何も説明していないので、何で?って感じですよね(笑)」

 壮絶ともいえる経験を、穴澤さんは「それがあったからこそ今がある」と肯定する。今では演奏家だけでなく作編曲家としてさまざまな音楽の現場に携わり、国内外を駆け回る。マラソン未経験から2度のフルマラソン完走。その半生をつづった著作本が反響を呼び全国から講演依頼が寄せられ、障がい者支援の活動にも力を注ぐ。

「だから私にとっては、もはや“よかったこと”なんです。結果オーライってやつです(笑)」

 

1 2 3>>>