「目が見えないんですけど、よく映画を見に行くんです」全盲のヴァイオリニストが「光を見つけた」生きるヒント

撮影・三田春樹

どん底で光を見つけるヒントとは…「私はずるがしこいんです(笑)」

 絶望のどん底で希望を見出す難しさは、多くの人が知っている。そんなどん底を幾たびも経験しながら、穴澤さんはどうやって希望の光をとらえたのか。

「正直なところ、落ち込んでいる場合じゃないくらい切羽詰まっていたということもあります。映画でも語っていますが、そこですべてをあきらめるという選択をしなかったのは、子どものころに心臓の手術で入院していた小児病棟での経験があったから。そうなるともう、どうにかするしかないという(笑)」

 どうにかするしかない。そんなとき穴澤さんはあらゆる道を考える。カウボーイファッションをするようになった理由も、実は「ステージ衣装を買う余裕が無く、ジーンズでステージに立てるファッションは?と考えたから。私はずるがしこいんです(笑)」。ちなみに「私はステージ衣装も普段着もほとんど同じなんです(笑)。お気に入りは日本のブランドのジーンズ。やっぱり日本人の体型に合うんですよね」と今やすっかり楽しんでいる様子。

 常に実現する道を模索する穴澤さんには「やりたいことはたくさんあるけど“夢”はない」。

「よく取材でも聞かれるんですけど、夢は特にないと答えると皆さんがっかりされるんですよね。カーネギーホールで弾きたい、みたいな答えが聞きたかったんだろうなと思うんですが(笑)。私はずっと目の前のことをなんとか乗り越えようとやってきたので、それをこれからも積み重ねて行けば、さらに先へいけるんじゃないか。そんなふうに思って、とくにゴール設定はしていない、ということなんです。フルマラソン完走も、私はできると思っていたので“夢”ではなかった。だからきっとできる、やりたいと思うことはたくさんありますよ。今は…南極に行きたいんです! コロナ前にけっこう具体的に計画を立てていたことなので、これも近いうちに行くと思います。やっぱり地球の端っこってロマンがありますし、まだ視力があった子どものころに見た映画『南極物語』の世界を実際に感じてみたいんです」 

『南極物語』は好きな映画ベスト3に入るかも、と穴澤さん。

「残りは『ショーシャンクの空に』とか…? アニメも好きです。最近だと『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』とか。あとはやっぱり子どものころに見た映画の『銀河鉄道999』。メーテルの正体を知ったときの衝撃ときたら。また、メーテルがよく脱ぐんですよね(笑)。往年の名画も好きな作品が多いです。また音楽がきれいなんですよね、映画音楽が大きなジャンルとしてあった時代の映画って。『南極物語』のヴァンゲリスのテーマ曲も当時は壮大で最先端な感じがしたけど、久しぶりに聞くと時代を感じたなあ…。アコースティックとかクラシック楽器だと、時代が変わってもあまりそういうのがないんですけど。私も、いつか映画音楽やってみたいですね」

 本作では、穴澤さんの演奏シーンもたっぷりと収録。そのエモーショナルなヴァイオリンの音色を存分に堪能できる。

「例えば歌って、聞いたら大抵、誰が歌っているか分かるじゃないですか。ヴァイオリンでそれが分かる人ってすごく少ないんです。特にクラシックだったら、ヤッシャ・ハイフェッツやアイザック・スターンくらいじゃないですかね。それでも私も全部当てられる自信はないです。で、私が10代のころから思っていたのが、演奏を聞いてもらった時にこれって穴澤雄介じゃないの?と分かる音色を弾けるようになりたい、ということなんです」

 回り道や方向転換、ときには目的地を変更したり。そうして自分だけの音色をつかんだ穴澤さんの“生きるヒント”は、多くの人に光をなげかけるはず。

「こんなハンディ―を背負いながら苦労して頑張ってヴァイオリニストになった人がいるんだ…ではなくて(笑)、何か生き方のヒントやアイデアみたいなものを拾っていただけたら、と思います。それで悩みが少しでも軽くなっていただけたらうれしいです。気軽に、楽しんで、見ていただければ!」

(TOKYO HEADLINE・秋吉布由子)