届かないはずの声が届いてくる『52ヘルツのクジラたち』は、凄い映画だった!【黒田勇樹のハイパーメディア鑑賞記】

 こんにちは、黒田勇樹です。

 大人気妖怪アクション映画シリーズ「もしも僕の彼女が妖怪ハンターだったら」の3作目の撮影に参加させていただいております。出るほうでです。

 いい感じの「いぶし銀」感が出ていて、いい感じのおっさんになっています。芸の幅が広がりそうでうれしいです。

 では今週も始めましょう。

黒田勇樹

 まずタイトルになっているこの「52ヘルツのクジラ」というのは、鳴き声の周波数が高すぎて「仲間たちに声が届かない」個体のことだそうです。クジラというと、地球の反対側からでも親子でコミュニケーションを取ったりするイメージなので、この「52〜」は、さぞ孤独なことでしょう。

 この作品は、現代で起こりうる様々な問題を原因に、孤独を抱えた子どもたちを、このクジラになぞらえ「社会という広い海の中で1人きり」という子どもたちが出会い、寄り添い始めていくというストーリー。

 めちゃくちゃ文学的です。原作が小説なので、当たり前なのですが、なぜわざわざピックアップしたかというと「届かないはずの言葉」を、映像にするのがどれだけ大変なことか!

 小説だからこそ、読者が自分のペースで読みながら、想像を膨らませ、補完されていたところを、映像にすることによって光と音で具体的にしてしまうから”観客が想像する空白”が、なくなってしまう。
そこに来てのこの「届かない声」と、いうテーマですから、制作陣はかなり丁寧に”行間”と、言われる部分の映像化に力を入れられたのではないでしょうか?

 ワンカットワンカット、ト書きを読むように丁寧に「何が起こっていて誰が何を思っているのか」が、静かに美しく切り取られていました。

 暴力的なシーンが若干あっさりしていた印象ですが、筆者は「この作品が描くべきもの」を考えたときに、正しい選択だったと思います。

 精神的に十分にしんどい物語に、追い打ちを掛ける必要はなく「こういうことがあった」という説明的なシーンにする判断だったのではないでしょうか。

 ちょっと最近の日本映画はこういうところのボーダーが、アナーキーになりすぎている気がしているので、僕はこちらの描写を支持します。

 優しくて美しくて儚い、そんな素敵な映画だったので、是非劇場で御覧下さい。

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黒田勇樹(くろだ・ゆうき)
1982年、東京都生まれ。幼少時より俳優として舞台やドラマ、映画、CMなどで活躍。
主な出演ドラマ作品に『人間・失格 たとえば僕が死んだら』『セカンド・チャンス』(ともにTBS)、『ひとつ屋根の下2』(フジテレビ)など。山田洋次監督映画『学校III』にて日本アカデミー賞新人男優賞やキネマ旬報新人男優賞などを受賞。2010年5月をもって俳優業を引退し、「ハイパーメディアフリーター」と名乗り、ネットを中心に活動を始めるが2014年に「俳優復帰」を宣言し、小劇場を中心に精力的に活動を再開。
2016年に監督映画「恐怖!セミ男」がゆうばり国際ファンタスティック映画祭にて上映。
現在は、映画やドラマ監督、舞台の脚本演出など幅広く活動中。

公式サイト:黒田運送(株)
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