右手がブロッコリーに!? 世にも奇妙な韓国文学『ブロッコリーパンチ』著者、イ・ユリとは
「『ブロッコリーパンチ』の場合は、市場でブロッコリーを買うかどうか迷っていた時、ふとブロッコリーが人の手のような形をしているなと思いつきました。そこで人の手がブロッコリーになったら面白い、特定の人の手がブロッコリーになったらもっと面白いのではと考え、『ブロッコリーパンチ』という小説が生まれました。
どんな人の手がブロッコリーになったら面白いか悩んで、最初は主人公がプロゲーマーという設定を考えました。けれど、ブロッコリーになった手でマウスを叩いてゲームする描写が、私が思ったより面白くならなかったんです(笑)。それで他の職業をいろいろ考えているうちに、ボクシング選手のグローブがブロッコリーに似ているとひらめきました。
収録作の『イグアナと私』は、どこかで元カノが捨てていったペットを飼っている人の話を見かけたことがきっかけです。そのペットがどんな動物だったら面白いだろう、平凡な猫や犬ではつまらないなと考え、イグアナを思いついたのです。そしてイグアナがどんなことをしたいか想像し、きっと故郷に帰りたいだろうと考えました。そんなふうに登場人物がどう行動すれば面白いかを考えながら、物語を組み立てていくことが私の執筆方法です」
近年、日本では韓国文学の人気が高まっているが、日本と韓国の読書環境の違いについてどのように感じているのだろうか。
「韓国でも本を読む人の数はだんだん減っていて、一人の大人が1年で読む本の数は1冊にも満たないという統計もあります。けれど、不思議なことに文章を書く人の数はどんどん増えています。その理由として考えられるのは、自分を表現したいという思いとは裏腹に、残念ながら人を理解しようとする気持ちが薄れているから。そのためにも私はもっと面白い小説を執筆して、多くの人に本を読む楽しさを感じてもらいたいと思っています。
最近は韓国の多くの作品が日本語に翻訳されていて、私の小説もそのうちの一つですね。私も大学時代には、韓国語に翻訳されたたくさんの日本の作品を読んで勉強しました。金原ひとみさんが好きで、実は今回の来日で出版社の方が夕食の席を用意してくださり、そこに金原さんを呼んでくれてすごく緊張しました(笑)。私は今年で36歳になりますが、同世代で文学に興味を持っている人なら、吉本ばななさんや金原ひとみさんなど日本の作家が好きだと思います。
韓国の作家で村上春樹を知らない人はおそらくいないでしょう。それだけ多くの作家が日本文学の影響を受け、それらを咀嚼して新しい表現を考え、自分なりの文学を構築しています。こうした流れは今後の日本と韓国の間でもきっと増えていくと思います。私はこれからもより熱心に小説を書いて、日本でも優れた韓国作家たちがたくさん発掘され、こうしたよい流れがさらに広がっていくことを願っています」

