なぜ100年前の植物標本が人々を魅了するのか「ポール・ヴァーゼンの植物標本展」でトーク

 約100年前に制作され、リヨンの蚤の市で見つかった美しい植物標本をテーマにした書籍『ポール・ヴァーゼンの植物標本』(リトルモア)。大田区・田園調布のアートスペース「いずるば」では現在、書籍に収められた植物標本から96点を展示する「ポール・ヴァーゼンの植物標本展」を開催している。展示を記念して同書を企画したアンティークショップ「ATLAS antiques」(文京区湯島)の飯村弦太さんと美術家の志村信裕さんによるトークショーが行われた。

『ポール・ヴァーゼンの植物標本』(リトルモア)を企画した「ATLAS antiques」の飯村弦太さん(左)と美術家の志村信裕さん

 もともとは千葉市で「ATLAS antiques」を営んでいた飯村さんと、2018年に研修先のフランスから千葉県に拠点を移した志村さん。飯村さんは初めて志村さんの作品を目にした時に「僕が普段ものを選ぶことと同じ感覚でシンパシーを覚えた」という。トークは、飯村さんがポール・ヴァーゼンの植物標本を発見した蚤の市のエピソードからスタート。

「僕はその時あまり仕入れができず、帰る前に知り合いの骨董商のところに立ち寄りました。品物がまばらになったテーブルの片隅に紙箱があって、とても気になったので開けたら100枚ほどの植物標本と、一番上に “Melle Paule Vaesen” というサインの入った標本が収められていたんです。

 植物標本は大学や調査機関が閉鎖された時に流出することがあるのですが、ポール・ヴァーゼンの植物標本はそうした標本とは作りも気配も違って、個人的に収集したものではないかということがすぐに分かりました。とても競争率の高い蚤の市なのに、なぜか誰も箱を開けていなかった。植物標本を見つけたというより、彼女に呼び止められたという感覚がありました」(飯村さん)

「キュリー夫人じゃないけど放射線が出ているような、そこだけ光っているような感じでそれしか見えなかった」という飯村さんの話に「もう映画ができそうですね」と志村さん。飯村さんは自身の仕事を「ものを運んでくると同時に埋もれてしまったものを掘り起こす、ナラティブ(narrative=物語、語り)という感覚がある」と説明する。

「僕は専門的に骨董の勉強をしたわけではなく、直感で探しに行きます。蚤の市に行くと “喪失した記憶のプラットフォーム” と言うべきカオスがあって、ブリュッセルにジュドバルというものすごく雑多な蚤の市があるのですが、そこでも好きなものが見つかっちゃうんですよね」という飯村さんに、志村さんは「そうしたものに巡り合えるのは、その人にしか与えられない役目なんじゃないかな」と深くうなずいた。

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