黒木華が樋口一葉を演じる『書く女』二兎社公演40

2015.12.28 Vol.657
 明治時代に活躍した女流作家・樋口一葉の半生を、彼女の創作の原点となった日記をもとに描いた作品。2006年に寺島しのぶ主演で上演され、朝日舞台芸術賞(舞台芸術賞)、読売演劇大賞(最優秀女優賞)を受賞するなど大きな話題を呼んだ。  今回、それから10年が経ち、キャストを一新して再演する。  樋口一葉を演じるのは2014年に『小さいおうち』でベルリン国際映画祭最優秀女優賞を受賞、NHKの連続テレビ小説『花子とアン』にレギュラー出演するなど、舞台に映像にと活躍の幅を広げている黒木華。  物語は19歳にして戸主となった一葉が小説家として成長していくさまを文学関係者だけでなく、吉原遊郭近くやさらに貧しい地域に住む人々との交流を通して描いていく。文学者として成功しながらも貧困からは抜け出せず、若くして病に倒れた一葉につきまとう女性としての問題や悩みは、今も日本では変わらぬものとして存在位している。  そんな視点から見ると、この作品は一葉の物語でもあり、現在にも通じる日本の女性が直面する問題を描いた物語でもある。

青年団からまた新たな才能が『怪童がゆく』青年団リンク・玉田企画

2015.12.28 Vol.657
 平田オリザが主宰する青年団からは五反田団、サンプル、ままごとといった多くの劇団が生まれている。それは所属する劇団員すべてが公演企画を提出することができ、それを起点に「若手自主企画」「青年団リンク」といった形で作品を上演し、やがて劇団として独立するという道ができているから。  この玉田企画は青年団演出部に所属する玉田真也によって2012年に若手自主企画として発足し、2014年から青年団リンクとして活動している。  その作品はちょっとしたボタンの掛け違い、人間関係の亀裂などから起こる居心地の悪さを俯瞰した視点で描いたもの。例えば、リビングでの家族の団らん中にテレビでエッチな番組が流れてしまった時の居心地の悪さとか、修学旅行でお呼びでないのに女子の部屋に入ってしまったときの居たたまれない感といえば分かりやすいかも。  今回の題材は「恋愛」。モジモジしたり、思わず「やっちまった〜」と頭を抱え込むような行動をしてしまったり…。ついつい自分に置き換えて「笑えねえ」と思いつつも、他人のことだと思えば笑えちゃう、そんなお話。

年末だろうが成人式だろうが芝居は上演されるのだった 劇団鹿殺し 活動15周年記念公演『キルミーアゲイン』

2015.12.13 Vol.656
 関西学院大学で演劇をしていた、座長で演出を担当する菜月チョビと劇作家の丸尾丸一郎を中心に劇団を立ち上げたのが2000年。来年、鹿殺しは15周年を迎える。  当初は関西で活動を続けていたが、2005年に東京に拠点を移す。劇団員全員で一軒家に住み、東京ではまだまだ知名度が低い彼らは、演劇公演のかたわら路上パフォーマンス、ライブハウスへの出演など、さまざまな場所で表現活動を続けた。  名前からキワモノっぽくとらえられることもあったが、丸尾の手による物語は情緒的で深く人間の感情を描くもの。そこにオリジナルの音楽をふんだんに使った演出が加わり、独自のエンターテインメントを構築した彼らの作品はやがて多くの観客の目に留まるようになり、人気劇団に数えられるまでに成長した。  そのなかで丸尾は岸田戯曲賞に最終ノミネートされるなど、劇作家としての地位を確立。菜月は外部公演での演出の依頼も増え、2013年には文化庁新進芸術家海外派遣制度でカナダに派遣されるなど、一定の評価を得るに至った。  今回は15周年の幕開けとなるこん身の新作。演劇にどっぷりつかった彼ららしく、演劇の現場を題材としたもの。  ここで立ち止まることなくより高みを目指す彼らの挨拶代わりの作品だ。

年末だろうが成人式だろうが芝居は上演されるのだった 青年団リンク ホエイ『珈琲法要』

2015.12.13 Vol.654
 平田オリザが主宰する青年団は平田以外にも多くの劇作家・演出家が所属しており、自由に公演企画を提出することができ、審査に通った作品が「若手自主企画」として上演される。そこで観客から一定の評価を得ると「青年団リンク」としてユニット化され、やがて劇団として独立していく。  ホエイは俳優の河村竜也がプロデューサーを務め、山田百次が作・演出を手掛ける、2013年に若手自主企画として立ち上がったユニット。  今回はその第1作である『珈琲法要』を再演する。  物語は文化4年、西暦1807年に北海道の斜里地方で起こった津軽藩士殉難事件を題材としたもの。ロシア帝国の襲撃に対する警護のため斜里に送られた津軽藩の藩士たちだったが、東北とは比べ物にならない寒さに多くの者が命を落とす。この事件は藩の恥部として闇に葬られていたのだが、約150年後に生存者が残していた日記が発見され明らかになった。この日記をもとに藩士たちの無念の闘いをアイヌの調べにのせて、全編津軽弁で描く。  津軽弁に一部分からない部分があるかもしれないが、命を落とした者たちの無念さは十分伝わってくる。そして現在の日本の状況と照らし合わせると、事の重大さが身近な問題として認識できるかもしれない。

絶望とか鬱屈の先に何が見える!? ナイロン100℃ 43rd SESSION『消失』

2015.11.22 Vol.655
 2004年に初演されたKERAの最高傑作の一つともいわれる作品が、ナイロン100℃の大倉孝二、みのすけ、犬山イヌ子、三宅弘城、松永玲子に客演の八嶋智人というオリジナルメンバーが揃っての待望の再演。  舞台は近未来の地球のどこか。もっというと、ひょっとしたらもう終わりかけているのかもしれない世界のどこか。時はクリスマスの夜から大晦日までのお話。クリスマスの夜にパーティーの計画を練る兄弟のもとに、弟が想いを寄せる女、謎の闇医者、兄弟の部屋を間借りしたいという女、ガスの点検に来たという男が訪れる。そして何かを失ってしまった6人によって、とりとめのない会話が繰り広げられる。  前半こそ、いつものKERAらしい軽妙な空気で進んでいくのだが、後半にいくにしたがってシリアス度が増していき、やがてタイトルに込められた意味が徐々に分かってくる。  KERAは「2004年当時はまだ世の中はマシだった。今のような弱ってしまっている状況でこんなに救いのない芝居を上演することはかなり酷であることは承知のうえでの再演」という。  演ずる側、見る側とも意識も取り巻く状況も11年経って随分変わった。みんなが上演後にどんな感想を持つのか、興味深い作品だ。

絶望とか鬱屈の先に何が見える!? RooTS Vol.03 寺山修司生誕80年記念『書を捨てよ町へ出よう』

2015.11.22 Vol.655
 東京芸術劇場では「アングラ演劇・小劇場演劇」の草創期である60〜70年代に発表された戯曲を、現在活躍する若手演出家が演出することによって新たな魅力を発見し、刺激的な作品を生み出そうという考えから「RooTS」というシリーズを展開している。  過去にポツドールの三浦大輔がつかこうへいの『ストリッパー物語』、熊林弘高が清水邦夫の『狂人なおもて往生をとぐ』を手がけてきた。  第3弾となる今回は、今年生誕80年を迎えた寺山修司の『書を捨てよ町へ出よう』にマームとジプシーの藤田貴大が挑む。  これまで異ジャンルのクリエイターとともに作品を作ることの多い藤田だが、今回も第一線で活躍するさまざまなクリエイターが集結。なかでも小説『火花』で芥川賞を受賞した芸人の又吉直樹の映像出演は大きな話題を呼んでいる。  同作は評論集、舞台、映画とそれぞれ別内容なのだが、今回は映画版をベースに、寺山を思わせるような人物を配した作りのものになる。注目の若手俳優・村上虹郎が初舞台にして主演を務める。

クオリティーの高い戯曲に“できる”役者たちが揃えばつまらないわけがない KAKUTA『痕跡《あとあと》』

2015.11.08 Vol.654
 作・演出の桑原裕子は緻密に練られたプロットと台詞で重層的な作品を描く。かといって出来事としてのドラマに傾倒はしない。登場人物の内面を丁寧に描くことによって見る者にドラマを感じさせてくれる。  2014年に上演されたこの作品で桑原は「第18回鶴屋南北戯曲賞」を受賞し「第59回岸田國士戯曲賞」の最終候補となった。新たな代表作。待望の再演だ。  物語はある嵐の夜に起こった中年男の自殺未遂と幼い少年のひき逃げ事件が発端となる。少年は川に落ち、行方不明に。その2つの事件を目撃したバーテンダーの男は直後の落雷で目を負傷する。それから10年の時が経つ。ガンを患い余命を悟った少年の母は、最後の捜索を始める。協力を申し出た男はその模様をドキュメンタリーとして撮影しようとし、彼女を心配する元義妹も無理やり同行を申し出る。母はその過程でさまざまな者たちに出会う。そのなかにはもちろん目撃者も。一見関わりのないように見える人々の人生が交差したとき、10年前に起きた2つの事件の真相があぶり出される。 「罪」とか「秘密」とか、そして「真実」とか。日常ではあまり気に留めないさまざまな単語が頭の中をぐるぐるめぐりそうな作品。

クオリティーの高い戯曲に“できる”役者たちが揃えばつまらないわけがない 城山羊の会『水仙の花 narcissus』

2015.11.07 Vol.654
 城山羊の会はCMディレクターの山内ケンジ脚本、演出による演劇プロデュースユニット。その作品は人間関係を鋭く、そして軽妙に描く大人の会話劇。淡々としたリズムからズバッと切り込んできたり、物語を予想を大きく越える方向にさらりと展開したりという独特の作風が病みつきになる。  CMディレクターとしてもいまだに最前線で活躍する一方、今年は昨年上演された『トロワグロ』で「第59回岸田國士戯曲賞」を受賞するなど、劇作家・クリエイターとして今まさに脂がのっている状態。  今作について、山内が言うには「最近、世の中が嫌な感じなので、なぜそんなに嫌な感じがするのかを抽出して書いてみたい」とのことで「自分本位で自分のことしか考えてない人たちが、たくさん出てくる作品」という。とはいっても抽出された“嫌な感じ”がそれで終わるわけではもちろんなく、“面白さ”に変換されて舞台上に提出される。  ちなみにタイトルにある「narcissus」というのは、水に映った自分の姿に恋して溺死したというギリシャ神話に登場する美少年の名前。「ナルシスト」の語源となっているもの。  今から、なにやら真剣な滑稽さや噛み合わなさが目に浮かびニヤニヤしてしまう。  5年前に『微笑の壁』で絶妙なフィット感を見せた吹越満が、それ以来の出演。こちらもニヤニヤに輪をかける。

また新たなる女の世界が… ブス会*『お母さんが一緒』

2015.10.25 Vol.653
 境界線に立たされた女性たちの悲喜こもごもから、現代日本に生きる女性のリアルをあぶりだすペヤンヌマキ。その視線は時にシニカルで登場人物たちの行動や言動、そこに至るシチュエーションも含め、嫌々ながらも認めざるを得ないようなシビアな物語が展開される。その一方で、優しさなのかあきらめなのか、そういった柔らかな視線から生まれる台詞やエピソードが笑いや共感を引き起こし、作品をエンターテインメントに留まらせている。  今まではAVの撮影現場、清掃会社の休憩室、カラオケスナックなど、良くも悪くもしょせんは他人同士の女たちの世界を描いてきたが、今回は一歩踏み込み、血縁という切っても切れないものでつながっている家族内における女の世界を描く。  舞台はとある温泉宿の一室。そこにいるのは親孝行のつもりで母親を温泉旅行に連れてきた三人姉妹。  長女は美人姉妹といわれる妹たちにコンプレックスを持ち、次女は優等生の長女と比べられてきたせいで自分の能力を発揮できなかったと心の底で恨んでいる。そんな2人を冷めた目で観察する三女。共通しているのは「母親みたいな人生を送りたくない」ということ。隣りの部屋で炸裂する母親の愚痴を横目に姉妹たちの会話は次第にエスカレートしていくのだった。  あらすじと人物設定を読んだだけで、どんな会話劇が繰り広げられるのかとヒヤヒヤ…。

人気シリーズ第8弾 現代能楽集Ⅷ『道玄坂綺譚』

2015.10.25 Vol.653
 世田谷パブリックシアターの芸術監督を務める野村萬斎が、古典の知恵と洗練を現代に還元すべく立ち上げた「現代能楽集」シリーズの第8弾。  この企画は“古典”の物語である能を、“近代”、そして“現代”へと二重に解体・構築し現代の物語として甦らせようとするもの。  今回はマキノノゾミが三島由紀夫の『近代能楽集』から『卒塔婆小町』『熊野』を土台とし新作『道玄坂綺譚』を書き下ろした。『卒塔婆小町』はかつて美貌を誇った老婆と若き詩人のお話。『熊野』は美女と大実業家のお話。  物語の舞台は、東京のとある繁華街にあるネットカフェ。映画監督を志す従業員の若い男はここに長期滞在する年齢不詳の女に興味を抱く。また、ここでその日暮らしをする家出少女のもとには富豪の男が現れ、彼の薫陶を受け、少女は美しい女性へと生まれ変わっていくのだった――。  現実と幻想が入れ子構造のように重なりながら進んでいき、観客をこの世界ではないどこかへといざなう幻想譚が繰り広げられる。

演劇へのたゆまぬ探究心は世代も作風も越える T Factory『ドラマ・ドクター』

2015.10.11 Vol.

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