紀里谷和明「映画監督もAIがする時代がくるかも(笑)」

 カリスマ映像クリエイターとして脚光を浴び、2004年に『CASSHERN』で映画監督デビュー。類まれな映像センスを生かし2作目『GOEMON』でも大きな注目を集めた。さらに、その後ハリウッドに拠点を移しクライヴ・オーウェンやモーガン・フリーマンといったスター俳優を起用してハリウッド映画『ラスト・ナイツ』を監督。進化した映像表現を高く評価された。現在もアメリカに拠点を置く紀里谷監督が、表現者として今、考えることとは—。
撮影・蔦野裕
「人の作った価値観や規制に縛られず、自分がリアルを感じられる作品を作りたい」

押し付けられる価値観に縛られたくない

—日本を飛び出し、ハリウッドで作品作りを続けておられますね。

「今ではもう1年のうち半分はアメリカにいますね。一応ロスを拠点に、そこから2時間ほど離れた森の中に住んでいます。ご飯作って食べて筋トレして脚本を書いて映画を見て寝る…という半ば隠居生活のようですが(笑)。今はちょうど数年前にアメリカの脚本家と一緒に書いた本を映画化するためキャスティングを行っているところです」

—映画業界というと華やかで常に情報に囲まれている印象ですが。

「僕はもうテレビやネットなどの情報にもほとんど触れていないんです。まったく不自由なくて、この世に本当に必要な情報なんて実はほとんど無いのでは、とすら思いますね(笑)。だってテレビをつけたら、誰と誰の不倫がどうとかばっかり。みんな本当にそんなこと知りたいの?と(笑)。余計な情報に右往左往するくらいなら、自分が本当にやりたいことに時間を使ったほうがいいですから。僕はもう、社会にも集合体にも極力関わり合いになりたくない(笑)。日本人だとか、男だとか、たまたまそこに属しているからといって自分が同調できもしない集合的価値観にとらわれたくないんです」

—価値観の多様性、ダイバーシティということが盛んに言われています。

「そもそも“ダイバーシティ”なんてわざわざ言わなければならない現状がおかしいのだと思います。人種にしろ、国籍にしろ性別にしろ、そういうもので一括りにすることが本来ナンセンスなことなんですから。ただ、やはり社会というものは子供のころから、そういう価値観を植え付けていくんですよね。生まれた瞬間から男の子には青い服、女の子にはピンクな服を着せるでしょ。その延長線上にあるのが、集団的価値観を絶対の正解だと思い込む人々ですよ。それは自分自身で考えて正しいと判断したことなのか…問うことすらしなくなる。だから出身大学だの肩書だのだけで、人を上に見たり下に見たりするようになる」

—集合的価値観は何を損なうのでしょうか。

「一見、みんなで何かを成し遂げようというのは素晴らしいことに見えますよね。例えばオリンピック・パラリンピックも東京に決まって、国民みんなで盛り上げようと言っているけど、それを集合的価値観として押し付けられるのは違うと思うんです。僕自身、キックボクシングをやっているのでスポーツが好きですし、アスリートもリスペクトしています。でもテレビで“今回は日本がいくつ金メダルを取れるでしょうか!?”なんて言っているのを聞くと、ちょっと違うんじゃないかと思う。アスリートファーストで応援するのではだめなのかな、と。どの国であれ、素晴らしいプレーをした選手を称えればいいじゃないですか。それがスポーツの祭典でしょう。予算だってどんどん膨らんでいるけど、スポーツ以外の部分にばかりお金が落とされている気がします。国全体でやるというのはそういうことなのかもしれませんけど。政治なんかはいずれAIに任せればいいのかもね(笑)」

—シンギュラリティーが取りざたされていますが、映画監督がAIにとって代わられることはないのでは。

「そんなことは無いと思いますよ。芸術の分野においても似たようなものです。今、レンブラントの筆遣いをデータ化してAIにレンブラントの“新作”を描かせたりできるんです。音楽もAIが売れている曲を分析して、そこから新曲を作ったり。人間の好みなんて意外と幅が狭くて、簡単に分析してデータ化できるものなんです。とくにここ数十年のヒット作なんて、映画も音楽も作りの構成がほとんど同じ。分析データに基づいて作っていきますからハズレがないんです。仕方ないですよね。皆、面白いと最初から分かっている映画を見たがるんですから。ルーブルに行くと、途中の絵画に見向きもせず真っ先に『モナ・リザ』を目指すのと同じ。この絵はすごいんですよと言われないと興味を持たない。僕みたいな映画監督からすると非常にやりづらい時代ですね(笑)」
ハリウッド映画『ラスト・ナイツ』撮影現場での紀里谷監督
規制が文化や芸術をむしばんでいく

—集合的価値観によって、規定されたり、規制されたり。そこからは血の通ったカルチャーは生まれない。

「企業が政治に大きな影響を与えるようになり、メディアも企業意識が非常に強くなった。今や、アートは金を生み出す手段になり、画一的な作品ばかり作られる。今の時代に『ゴッドファーザー』や『仁義なき戦い』は生まれない。今作ろうったって映画会社がOKを出さないですよ。どちらも “生きた人間”を感じる作品です。でも今は、全裸はダメだのタバコはダメだのって…。それでいて、多くの人が共感できるリアルな作品を作れとか…しかも少ない予算で(笑)。ハリウッドではポリティカルコネクトレスに翻弄されることも少なくないし、日本でもますます制約が増えている気がします。あと10年くらいすれば、映画会社を通さずそれなりに予算を使った作品を自由に発表できるようになるのかもしれないけど…それまで僕自身が待てるかどうか(笑)」

—それでも監督は“真実”を持つ作品を作り続けていくはず。

「でも、見る人はリアルなものを求めるけれど何がリアルなのか分からなくなっている部分もあるんじゃないか、という気もするんですよね。僕が最近リアルを感じられるのは、キックボクシングをやっているときかな。対戦相手との間には、ある種の信頼のようなものが生まれるんです。愛といってもいいかもしれない(笑)。リアルに肉体をぶつけ合うというのは信頼が無いとできないことですから。最近サボっていますけど、けっこう真剣にやっているんですよ。アマチュアですけど試合に出たこともありますし。普段も、トレーニングで息切れしないよう生活習慣も意識しています。今の僕には、何か大きなプロジェクトを仕掛けたいとか、ヒットを狙いたいとか、そういう気持ちは全くないですね。日本だろうがハリウッドだろうが、どこで映画を作るかにもこだわっていません。人の作った価値観に縛られず、自分がリアルを感じられる作品を作ること。それが僕の映画作りには何より大事なことなんです」
撮影・蔦野裕
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