6・3開催の「ナキフェス2017」でMCを務める2人が“泣き”について語る!? ブラザートム×松尾陽介(ザブングル)

 日ごろ泣くことを我慢している人、泣きたいときに泣けなくなっている人なんかに思う存分泣いてもらおうということで昨年秋に開催された「ナキフェス」が今年も開催されることとなった。そもそもナキフェスとは? なぜ泣く? などなど疑問に思う人もいるかもしれない。前回に引き続きMCを務めるブラザートムと今回ともにMCを務めるザブングルの松尾陽介に話を聞いてみた。

(撮影・蔦野裕)

ブラザートム「扱っているのは前向きな“泣き”。それがすごくいい」
松尾「全力でやっている奴を見ると“おおっ”ってなっちゃいます」

 この「ナキフェス」は一人の女性が「最近、私、泣いていない」と気づいたことがきっかけ。それから約10年をかけて、イベント開催にこぎつけた。

ブラザートム「突然オファーをいただいたんですが、“変わったことを考える人がいるんだな”と思いました。“ナキフェスか~、泣くんだ…”と思ったのが最初の印象。失敗だろうなって思いましたよね。こんな重いこと、正面からできるのかと思っていたら、泣き笑いがあるということを先に言われて “ああ、泣き笑いか。確かにそうだよな。泣き笑いができるほど一番いい笑いだし、いい泣きだな”って思ったんです。でもそれを若手のコメディアンの方々がやるって聞いて、そりゃできないだろうって思いました」

 結局、泣き笑いはできていた?

トム「できていませんでした。とっても面白かったんですが、泣き笑いになるほど現場を踏んでいる人たちではなかった。泣き笑いは、ひきを、息を吸う瞬間にぶつけていく人以外できない技なんです。吸っていく時に笑いをぶつけていくと、しまいには“もうやめてくれ”って涙が出てくる。泣き笑いはかなりの技持ちじゃないとできないことなんですよね。(笑いながら咳き込む動きをしながら)ぐらいにいかないとダメ。言葉だけが全部乗っかっていって笑っちゃうというと泣きになるんですが、“ははは、うん。ははは、うんうん”(笑っては冷静にうなずきながら)だと、泣けないんですよね。涙が出て “もうやめてくれ、ヒヒヒ。もうやめて、ほんとやめて、ヒヒ”くらいのことをできる人って――」

松尾「そんなことできる人なんてなかなかいないですよ。畳み掛けってことですよね。いや、もう、単純に自分で考えても、僕らにはそれ無理だなって思いますね」

トム「泣き笑いはお客さんをなめてないとできないでしょうね。若い人たちはきちんとネタをやるから無理だろうなとは思っていたんです。でもやっているネタはとっても面白かったです」

(撮影・蔦野裕)

 松尾は今回からMCを務める。

松尾「プロデューサーさんと仲が良くて…」

トム「一緒に住んでいるんだよね」

松尾「住んでないです(笑)。やめてください。枕営業とかそういうのじゃないですから。前々からこういうイベントをやりたいということは聞いていたんです。で、もしやることがあったらMCやってね、って言われていたんですが、昨年の1回目の時はスケジュールが合わなくて出られなかった。それで今回から参加ということになりました。だからまだ体感していないので、どういうことになるのか分からないんです」

トム「前回やって思ったのは、名前はナキフェスなんですけど、明るいです。扱っていることが前向きな“泣き”なんです。恨みの泣きとかじゃない。それがすごくいい」

 最初に“泣き歌”と聞くとどんよりしたものを思い浮かべそう。

トム「それだと僕も断っちゃいます。例えば、飲んでいる時にたまたま絵本が置いてあって、何気なく見ているうちに子供のことを思い出しちゃってポロッと泣いてしまったりとか、横の人の話を聞いているうちに“うちの子もそうだったな”という感じでぽろっと泣いちゃったりとか。そういう感じです」

松尾「なるほど、ほっこり系なんですね」

 もともと歌を聞いて泣くということはあった?

トム「僕はソウルが好きなんですが、インド音楽も好きで、全くインドの言葉は分からないのに、ぼろぼろ泣いちゃっていることがあるんです。ところが歌詞を知っている人に聞くと、面白い歌だっていうんです(笑)。“俺、面白い歌で泣いていたんだ”と思ったりしたこともあります。それはメロディーと声の持つ力で泣いてしまったということ。テディ・ペンダーグラスというソウルボーカリストがいるんですが、その人の声を聞いていると高速道路を見ているだけで涙がぼーっと出てきちゃたりすることもある。声の中にあるものが全部を揺さぶるんです。内容は全然関係ない。その人の声を聞いているだけで涙がぽろぽろ出ちゃう」

松尾「僕はこのフェスのMCをやるにあたって、こんなことを言うのもなんですけども…」

トム「作ったんだよね」

松尾「作ったんですよ泣ける歌…って作ってねえって(笑)。適当に言わないで下さいよ、載っちゃったらどうするんですか(笑)。あんまり曲って聴かないんですよ。徳永英明さんの曲ばっかり聴いて育ってきたので(笑)。だから徳永さんは好きです。泣くという感じは分からないんですけど、声が好き」

トム「徳永も泣く声してるよね」

松尾「僕は厳密には泣いたことはないですが、徳永さんのそういう感じが好きな部分ではあります」

トム「泣かないの? それは人間としてちょっと冷たいですよね」

松尾「やめてください」

トム「今回MCをやるのに…」

松尾「いや、泣きますわ、そういえば。徳永さんの曲で」

トム「泣くよね」

松尾「泣きます」

トム「あれを聴いて泣いてたじゃん。徳永の『ラジオ仕掛けのテレビ』だっけ?(笑)」

松尾「いや、違うから」

トム「あれ聴いてすっげえ泣いた」

松尾「映画の『時計仕掛けのオレンジ』と混ざってますから。徳永さんのは『壊れかけのラジオ』ですから」

トム「それ聴いて泣いたという話は有名ですから」

松尾「いや、有名ではないから(笑)。でも、そうですね。泣ける曲というと徳永さんになると思います。それに何か思い入れが加わってくると泣いちゃうんだろうな、とは思いますけど」

 人前で泣くことにあまり抵抗はない?

トム「人前で意識して泣くような人間にはなりたくないですけど、泣いてしまったのはしょうがないと思います」

 そういうことはたまにある?

トム「映画を見ていても泣いちゃいますし、箱根駅伝を見れば泣いちゃいますしね。箱根駅伝の涙ってなにかというと、一生懸命走っていることと、何年もつなげていたタスキをつなげなかったこと。倒れようが倒れまいが、そこじゃないところにある何かがざわざわさせてくれるんですよね。それがすごいと思います」

松尾「僕は基本的に人前で泣くのはダメだというふうに育てられていたので、人前で泣いたりするのは苦手ですね。でも年齢が上がってきてホントに緩くなってきた。最近では漫画を見ていても泣きますし。一人の時だったら全然気にしないで、映画やドラマでも普通に泣いちゃいます」

“泣き笑い”の状態を実際にやってみせてくれたブラザートム(撮影・蔦野裕)

 ちなみに最近は?

松尾「特にどこのシーンが印象的だ、とかいうことは思っていないのに、『君の名は。』で3回くらい泣いてます。男一人で見に行って一人で泣いてる(笑)。気色悪いでしょ?(笑)。誰かと一緒に行っていると、なるべく抑えようとは思うんですけど、1人だと“別にいいじゃないか”となるんです」

 年を取ってきて泣けなくなってきたという人もいる。

トム「とっても分かります。当たり前になっちゃうんですよね。親が死ぬことも当たり前のことになってしまうので、なかなか泣けなくなる。年を取ると笑えなくなるだろう、って言うけど、分かっているから笑えないだけ。年を取ったから笑えないんじゃなくて、俺たちがびっくりするようなことをしてくれたら俺は笑うよ、ってことなんですよね。そのびっくりすることがどんどんなくなっていくから、泣かないようになる。そう思っていても、箱根駅伝だけはダメなんですよね(笑)」

 人前で泣くことに抵抗がある人をフェスに呼び込むには?

トム「その場で号泣するようなことはやっていないので、来ても泣けないと思うんです。ただ、家に帰って再現VTRの話なんかをもう1回反芻した時に泣いちゃうんじゃないかな。ナキフェスを見て、家に帰って酒を飲みながら子供の顔をパッと見た時にぽろっと涙が出ちゃう。こういうことなんじゃないかと思うんです」

松尾「確かに…ナキフェスって泣きにくるわけじゃないですよね」

トム「そうそう」

松尾「泣ける曲って名曲とイコールじゃないかと思うんです。だから単純に楽しみに来るべきところなんじゃないですか」

トム「何年も経った時に学校の校歌とか聴くとぽろっと来ちゃったりすることもある。そういう、“うっ”と来るところがいっぱいあるので」

 勝手に「泣きたい」って構えて来る人が多いイメージがあったのだが、そういう感じではないようだ。

トム「はい。そういうのは一切やめていただきたい(笑)」

松尾「むしろ真逆ですよね」

トム「泣きに来たら泣けないと思いますね。普通に来ていただいて、普通に頑張っている人を見た瞬間に、普通に泣いちゃうと思います」

 頑張って頑張って、ちょっと休んだ時に緩んでほろりみたいな。

トム「そういう人を見てもぽろっとくる。会社5軒潰して、家族みんな死んじゃって大変で泣いてるとか、そんなのは見たくもないですもんね(笑)」

松尾「嫌ですね。暗くなっちゃう。明るくなるほうがいい。だから若手芸人もそうですよね。頑張ってネタをやっている姿に、“ああ頑張っているな”って。だから若手を使っているというところもあるんでしょうね。聞いていて思ったんですけど、ナキフェスにお笑いは相性がいいんじゃないかと思うんです。お笑いライブってたまにあるんですけど、“爆笑○○ライブ”ってつけられるほうが嫌なんです」

トム「(笑)」

松尾「(笑)笑えるライブっていうの、絶対向かないと思うんで、ナキフェスにそういうブースがあるというのが一番相性がいい。一番見やすいんじゃないかと思います。やるほうもそっちのほうが絶対いいですね」

トム「お笑いの方にはナキフェスを意識しないでネタを持ってきてほしいですね。前回は“ナキフェスなので”って意識している方がいたんですが、そんなこと関係なく、これまでやってきたものをバーンとぶつけてくれたほうがすごく面白くなると思う」

 今回、お笑いは出場者のオーディションを行っている。

松尾「僕も知らないような若手の人たちが結構多いので、泣ける泣けないでいうと、やっぱり全力でやっている奴には“おおっ”ってなっちゃいますよね」

トム「で、自分の辛かった日々を…」

松尾「ホントにそういうことです」

トム「仕事柄、スベっていることが分かっちゃうわけですよ。スベっちゃって慌てて一生懸命やっている姿を見ると、自分も何年か前に経験しているから“この辛さ、分かる!”っていう」

松尾「分かります。だから、そっち系の人のほう“こいつ助けてやりたいな”って思う人のほうに、ちょっと気持ちが入ってしまう可能性があります。確かにナキフェスだから、というのはあんまり僕も好きじゃないですね」

トム「前回もそれを見て泣けるわけではないんだけど、そのやろうとしていることに対して胸が詰まる思いはありました。寒いところで、朝から全員が床に座っているなかで笑わせようと思っても無理なんですよ。その中で一生懸命やっている姿を見ていて、なんかその努力に泣きそうになるというのはありました」

松尾「若手の人たちってそういう力ってありますよね。一生懸命、パワーがあるので。別に技術がどうこうというものではなくて、めちゃくちゃ頑張っている人を見ると、ああ、ってなるというのはありますね」

トム「お客さんが泣いているかというよりも、やっている本人が、スベっていることに対して泣いているということもあったでしょう。そういうことがすごく伝わりました」

 さまざまな意味での“泣き”が…。

トム「そこにはありました。外でお店を出している人たちも泣いていたと思います」

松尾「それは泣いてないと思いますけど」

トム「外でずっとお店を出しているんですけど、お店の側に行けるのって、8時間やっている中で10分間くらいしかないんです。その10分のために店の人は延々と待っているわけ。ところがみんな中で疲れちゃって外に行かないから、全然売り上げがないわけです。あれは泣いたと思います」

松尾「いろんな泣きがあるんですね(笑)。でもそのへんのお店の泣きの部分は改善していかないといけないですね」

トム「そうですね、なんか豪快に行きたいですよね(笑)」

 今回も前回に負けず、盛りだくさんの内容という。

トム「最後の30分くらいはきっと“泣きゃいいんだろう”ってなっていると思う(笑)」

松尾「やっと帰れる、みたいな(笑)」

トム「やけくその泣きもあると思います」

松尾「頼むから返してくれ、って」

トム「帰りたいんだよ、俺。もういいだろう~、って(泣き真似で)。こういう感じあると思います。そういう無茶苦茶な世界なんです。ホントに怖いくらいの実験的なことをやるんですが、面白いです」

松尾「取りあえず、来てみてください、ということですよね」

 ナキフェスの全貌が見えた気がする。(TOKYO HEADLINE・本吉英人)