林遣都 × 波岡一喜 SPECIAL INTERVIEW Netflixオリジナルドラマ『火花』

 第153回芥川賞を受賞した、ピース・又吉直樹の中編小説『火花』が待望の映像化。漫才の世界に身を投じた青年の10年を追い、お笑いにかける芸人たちの喜び、悲しみを通して、普遍的な人生のドラマを綴る珠玉のドラマが誕生。主人公の売れない芸人・徳永役の林遣都と、徳永とかけがえのない絆を結ぶ先輩芸人・神谷役の波岡一喜が“その人物として生きた”4カ月間を振り返る。

撮影・神谷渚  林遣都 ヘアメイク・SAYAKA スタイリスト・菊池陽之介 波岡一喜 ヘアメイク・SAYAKA スタイリスト・黒田匡彦 衣装協力・KENT AND CURWEN(03-5468-5640)、ロスガポス for STILIST(03-6427-8654)

 社会現象を巻き起こしたベストセラーを、『軽蔑』の廣木隆一を総監督に、『凶悪』の白石和彌、『横道世之介』の沖田修一ら気鋭監督が集結し実写化。物語の核となる2人を演じた林遣都と波岡一喜は「俳優人生の中でも大切な作品」と振り返る。

林遣都(以下:林)「ドラマ化すると聞いたときから何としても演じたいと思っていました。素晴らしい小説ということに加え、これほど名のある作品に出演できるチャンスは一生に一度あるか無いかですから」

波岡一喜(以下:波岡)「僕も同じですね。役者にしてみれば、こんな作品に挑戦しないなんて選択は無い。僕はもともと作品は選ばないほうですけど(笑)。過激なシーンがあっても気にしませんしね。今回? そんなきわどいシーンありました?」

林「温泉のシーンとか(笑)」

波岡「確かに、途中で尻も出したし最後は全裸になったけど大したことじゃないでしょ(笑)。そういうのもそうだけど、今回、タバコ吸ったり酒飲んでるシーンもかなり多いんですよ。地上波では敬遠されがちな描写も自由に演じることができたのは、本当に良かったと思います」

 ばかばかしくも純粋にお笑いと向き合う徳永と神谷の日常はいつしか観客にとっても愛おしいものに。

波岡「よくある“この後どうなる!?”みたいな終わり方をしていないのに、気づいたら次の話を再生してる」

林「あれだけの監督たちが4Kクオリティーで撮っているとなれば途中で見るのをやめるわけにはいかないですよね。僕は関係者向けの一挙上映で見たんですが、見終わったときには感謝しかなかった。自分が芝居をしている、という感じがせず本当に徳永として自由に過ごしている姿を撮ってもらっていました」

波岡「本当にその通り。すごく自然に撮ってもらっているんですよ」

林「監督やスタッフにしっかり現場を作ってもらっていたので、僕らは何も変えることなく4カ月間、役のままでいることができました」

波岡「現場では全員の監督が基本的に僕たちに芝居を委ねてくれていました。立つ位置も一度も指示されたことが無く、僕らが動けばカメラも動いてくれた。ものすごく恵まれた現場だったと思います」

 逆にいえば、完全に役の人物となって自ら行動しなければならない。

波岡「初めからそうだったんですよ。1話目の台本の読み合わせのとき、僕らの会話のセリフを全部言い終わったのに、その場の空気がまだ“続いている”んです。廣木監督を見ると台本を持っておらず、じっと僕らを見ている。とてもじゃないけど、もうセリフ言い終わりました…なんて言える雰囲気ではなく、仕方がないので2人でアドリブでずっと会話を続けましたね。結局、撮影現場でもそのスタイルのままでした。台本に書かれているシーンが終わっても、カットの声なんてかかりませんから。廣木監督が最初からその形を作ってくれて、僕らに『火花』はそういうものだと叩き込んでくれた。ずっと徳永と神谷でいろよ、と。なので担当が次の監督に移っても、僕らは徳永と神谷であり続ければよかったんです」

林「アドリブの演技やセリフはかなり多いんです。神谷のボケも、台本には無い波岡さんのアドリブがとても多い(笑)。なのでそれに対する僕のツッコミもその場で出てきたものです。好井さん演じる相方と公園でネタ合わせをしている場面で、好井さんが下半身をもぞもぞさせていたので、〇〇〇触んなよ!とツッコミをいれたりとか(笑)。その場の相手の動きに反応して言葉が出るようになっていました」

波岡「さすがにあんなセリフ、台本には無いよな(笑)」

林「ト書きもあって無いようなものでしたし」

波岡「ト書きに書いてあったことをやったら、違う!と言われたこともあったし(笑)。その瞬間、役の人間がそれをしたいことが正しいのであって、台本に書いてあることが正しいわけじゃないんです」

林「4カ月間、徳永と神谷として生きて、2人の絆を僕は本当にリアルに感じていました。スパークスのラスト漫才の場面は、そんな思いが現れたものになりました」

波岡「客席から神谷が舞台を見てる場面で、舞台上の徳永がこっちを見て、目が合ったからびっくりした(笑)。あれ原作にも台本にも書いてなかったよね」

林「書いてなかったけど、徳永だったら会場のどこに神谷がいても、その存在を感じると思ったんです。2人が過ごしてきた時間をどれだけ徳永が大切に思っているか、何かしら表現したかった。でももし役者同士が実際は仲が悪かったりしたら、絶対にあんなシーンは撮れなかったと思います(笑)」

波岡「できないな(笑)」

 同じく厳しい世界で生きる2人。

林「役者にとっても身近な世界。僕自身、誰かがきっと見ていてくれると思いながら必死で芝居をしてきたので、自分に置き換えたことも何度もありました」

波岡「辞めていった芸人も無駄じゃない、という神谷のセリフは本当にすごいなと僕も思います」

林「芸人さんて、どんなことがあっても自分を客観視して笑いに変えてしまうところがあるじゃないですか。ユーモアあふれる生き方っていいな、と思います」

波岡「えっ!? ユーモアあふれる生き方!?」

林「そこツッコむとこですか(笑)」
(THL・秋吉布由子)

©2016YDクリエイション
Netflixオリジナルドラマ『火花』

総監督:廣木隆一 監督:白石和彌、沖田修一、久万真路、毛利安孝 出演:林遣都、波岡一喜、門脇麦、好井まさお(井下好井)、村田秀亮(とろサーモン)他/全10話 Netflixにて独占配信中 http://www.hibana-netflix.jp/http://www.hibana-netflix.jp/