川口春奈 映画『にがくてあまい』で男に恵まれないガサツなキャリアウーマンを演じる

2009年よりWEBコミック誌で連載を開始、今年5月最終12巻が発売され、韓国、台湾、香港などでも翻訳されるなど各国で愛される“食と愛”をテーマにした『にがくてあまい』が実写映画化。野菜が苦手なオンナを川口春奈が、そして女が苦手なオトコを林遣都が演じる。真逆な2人の恋(?)の行方は!?
スタイリスト・山本隆司 ヘアメイク・板倉タクマ(ヌーデ) 撮影・辰根東醐
 川口春奈演じる江田マキは、容姿端麗で仕事ができるキャリアウーマンだが、私生活はガサツ極まりない独身女子。会社の後輩の前では素敵な彼氏がいると見栄を張るが、失恋ばかりで男性との縁もない。そんな時、イケメン男子校美術教師・片山渚(林遣都)と出会い、一瞬にして心を奪われる。出会いと同居相手を探していたマキは、なんとか渚の家に転がり込むことができたが、渚はゲイだった。

「設定がすごく不思議なところから始まっているので、そこはどうかなと思いましたけど(笑)、渚の作るおいしいものを毎日食べられて、仕事の愚痴も聞いてくれる人が毎日一緒にいるっていうのは、いいですよね。1人が嫌いで寂しがりやの人が見たら、すごくうらやましいと思います」

 マキは料理が苦手な野菜嫌い、対して渚は料理が得意なベジタリアン。感情のままに、怒ったり、泣いたり、笑ったり、落ち込んだりするマキを、渚の作る料理が癒してくれる。そんなおいしそうな料理もこの作品の見どころ。

「料理に関しては、食べた時のリアクションはほぼ素ですね。いろいろなアイデアがレシピに詰まっていて、例えばお肉に見せかけて野菜だったりとか、でもそれが本当にお肉みたいでびっくりしちゃいました。渚がベジタリアンということで、野菜中心のメニューなのですが、とてもおいしく、何より満腹感がありました。ヘルシーでボリュームもある。渚の作る料理は本当においしかったです」

 林の鮮やかな包丁さばきほか、料理シーンは吹き替えなしとか。

「そうなんですよ。林さんはすごく練習をされていたみたいで、吹き替えなしで、手元のシーンも全部撮られたというのを聞いてすごいなって。多分、映画を見た方は、手しか映っていないところは本人だと思わないかもしれませんが、正真正銘ご本人の手です。指もケガをして、絆創膏を巻いていたことも。そんな努力をしている姿を見て、尊敬できる方だなと。そういう陰で努力をしているのも踏まえて、お芝居の面でもとても細かく、突き詰めているし、ものすごくストイックな方だなと思いました。お会いする前より、さらに役者さんのオーラが強かったです。役もすべて計算して作っていくやり方で、私はどちらかというと、計算より感覚で演じるので、とても勉強になりました。自分が持っていないものを、持っている方なので、一緒にいてとても刺激を受けました」

 一目ぼれした相手がゲイだと分かりつつ、同居を続けるマキだが、彼に対する感情にも変化が…。

「野菜嫌いのマキが、渚のつくるベジタリアンメニューをおいしく食べるうちに、彼と徐々に心を通わせていくんですが、それは渚が人の痛みや気持ちがよく分かる人だから。私の悩みとか弱さに対して、じっくり耳を傾けてくれる。そして聞くだけじゃなくて、自分もそうだったと、気持ちをさらけ出して接してくれるようになった辺りから、お互いの関係性が深くなっていったのかなって。最終的には、家族に近いような感情ですね。恋愛でもないし、ただの男友達でもない。不思議な友情? いや、やっぱり気持ちとしては家族に近いのかなって思います。そういう気持ちになったのも、渚の優しさ、そしてさりげない気づかいが、そうさせたんでしょうね。やっぱり男女問わず、自分が弱っている時には、そういう心遣いが特にありがたいと思うんじゃないでしょうか」
 この作品には、RIP SLYMEのSUも意外な役どころで出演。

「マキが行きつけのバーのママ役なんですけど、本当にハマっていたというか、何の違和感もなく、すごかったです(笑)。本当にゲイのママに相談している気分で、面白かった(笑)。SUさん自身もすごく優しくて、いっぱいお話をして下さる方なので、余計に話したくなるような感じでした。はまり役という感じでしたね」

 マキと渚のコミカルなラブストーリーであると同時に、それぞれの登場人物が抱える悩みから、脱却する人間の成長物語でもある。

「冒頭のマキと渚の出会いがあまりにもコミカルなところから始まっているので、なんとなくそのまま2人のストーリーに進んでいくのかなって思うかも知れませんが、家族の物語でもあります。マキが野菜嫌いになったのも、家族が関係しているんですけど、ちょっとバラバラになっている家族が、どうなっていくのかっていうのも、見どころですね」

 中野英雄演じる、頑固だがマキの事を心から心配している父、石野真子演じるちょっと天然な母。そんな両親との実家のシーンで忘れられないシーンがある。

「真子さんと餃子の皮を包みながら話している短いシーンがあって、撮影している時は思わなかったんですけど、上がってみると、本当の親子に見えるというか、すごく温かみのある場面だなって思ったんです。豪華で華やかな料理でもないですし、贅沢なものが出ているわけでもありませんが、そこには母と娘の温かな時間が流れているような空気感があった。個人的には好きなシーンのひとつです」

 渚の作る料理同様、ストーリー全体がほっこりとした温さに包まれた作品だ。

「最初のほうで渚が“一物全体(いちぶつぜんたい)”っていう言葉を言うんです。これは食材は丸ごと食べるのがいいということで、人にも当てはまると。良いところも悪いところも全部で自分だから素直に生きろという意味が込められていて、それがこの作品全体を通し伝えたいことだと思います。必ずどこか共感してもらえるところがあると思いますし、どこかに刺さる言葉がある。食の楽しさや大切さもそうですし、この作品を見て、周りにいる人に対しての感謝や、それを素直に伝えようと思っていただけたら。日常生活であたりまえなすごく小さな事の中にも幸せがあると感じてもらえたらとてもうれしいです」
(THL・水野陽子)
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