山崎まさよし × 北村匠海 映画『影踏み』共演! 俳優としてミュージシャンとして共鳴しあった2人 

[北村匠海]ヘアメイク・深見真也(Y’s C)、スタイリスト・鴇田晋哉(撮影・上岸卓史)

“異色の主人公”はカッコ悪さがかっこいい


 深夜に人のいる住宅に忍び込み、わずかな証拠も現場に残すことなく現金を持ち去る凄腕の「ノビ師」真壁修一、通称“ノビカベ”。かつては司法試験を目指すほど優秀な頭脳を持ちながら、ある過去を機に世間のルールを踏み外し、以来、忍び込みのプロとして生きてきた。ある夜、県議会職員の家に侵入した修一は想定外の出来事に遭遇し、幼なじみの刑事に逮捕されてしまう。2年後、刑期を終えて出所した修一は、自分を“修兄ぃ”と慕う若者・啓二とともに、当時の事件を調べなおし始める。やがて真相に近づく修一は、裏社会や世間の片隅で生きる者たちの葛藤、そして自らの悲しき過去とも向き合うことになる…。原作は、横山作品でも異色の“犯罪ミステリー”。

山崎「横山さんの作品には、民と官や個人と組織のせめぎ合いを明快に描きつつ、人間の葛藤が深く描かれていて以前から愛読していました。本作では泥棒という、いわば民の底辺の人物が主人公なんですが、とはいえ彼は官のアンチテーゼ的存在でもあって、誰もがいつこういうところに身を落とすか分からないという共感も感じさせてくれる人物。僕が官の人間を演じるのは無理があると思うし(笑)、こういう人物なら泥棒役でもいいな、と。横山さんからは“山崎さんを泥棒にしてすみません”と言われましたけど(笑)」

北村「僕は普段、役作りのときもあえて先に脚本を読んで、その後、原作を読むというような形をとることが多いんですが、今回は難しい要素も多くて小説を読ませていただきました。普段は警察組織とか泥棒とか、別世界の存在に感じていましたけど、小説の中ではどちらも人間臭くて、交じり合ったグレーの部分を描いているんだと思いました。思えばこの作品に出てくる人も、ほとんどグレーな人ばかりですしね、真っ黒な人もいますけど(笑)」

 修一は、とある過去を機に泥棒稼業に身を落としながらも、資産家や権力者だけを狙うダークヒーロー的魅力もある人物。
北村「僕が演じる啓二目線だと“修兄ぃ”は、カッコ悪いんです。何をいつまでもカッコ悪いことをしているんだよ、と。修一には修一のバックボーンがあって、そこからくる信念を貫き通すカッコよさも感じるんですが、僕も修一のカッコ悪い泥臭さが好きなんです」

山崎「それに一票(笑)。もし修一のカッコよさをあげるとするなら“啓二が修一のそばにいる理由”の部分かな。良心を忘れずに持っているというか。ちょっとはマシなところあるじゃないか、と」

 物語の後半、修一の過去が明らかになるとともに、啓二の存在が物語の情感を大きく動かしていく。

北村「僕は、つとめて異質な感じというか、この作品における“違和感”に僕がなることができればいいな、と思って演じていました。監督とも、啓二の真実をどう見せていくか、見ている人がどのタイミングで、あれ? と気づくか、ということを話しました。僕の見せ方で物語の波みたいなものが変わってくると思ったので」

山崎「どこで気づくか…確かに重要だよね」

 修一と啓二の絆に気づいたとき、切なさと温かさが、山崎の音楽とともに見る者を包み込む。

山崎「主題歌『影踏み』では、本編では語られていなかった修一と啓二の幼いころの幸せな姿をノスタルジックに描きたかったんです。それがエンドロールに流れれば、物語が完結するというか、気持ちが救われるんじゃないかなと思って作った曲です」

北村「先日、僕も一緒に歌わせていただきましたけど、改めて映画における音楽は重要だなと思いました。今回まさよしさんが作った劇中音楽も主題歌も、そのシーンで直接的に描かれていないこと、そのもっと深い部分を音楽に乗せているという感じがします。エンディングでも、主題歌が最後に流れることで修一と啓二の絆が織りなす物語がきちんと最後まで語られて、その余韻に浸ることができた感じがしました」