作家・いしいしんじ3年ぶりの小説集『マリアさま』をめぐる言葉と音

(11月8日、『マリアさま』刊行記念 いしいしんじさんと『マリアさま』をきく夜)
 作家のいしいしんじが3年ぶりの小説集『マリアさま』(リトルモア)を出版した。2000〜2018年の間にさまざまな媒体で発表した短篇・掌篇から選りすぐりの27篇を収録。同書の刊行を記念したイベントが荻窪の「Title」にて行われた。当日は『マリアさま』の世界を拡げてくれるようなお話と、刊行に際して作られたプレイリスト〈『マリアさま』のためのサウンドトラック〉から、いしいが愛用する蓄音機“コロちゃん”で蓄音機用レコード=SP盤をかけていく特別な夜となった。イベントの内容からほんの一部をお届けする。司会進行は「Title」店主の辻山良雄。

 ◆ ◆ ◆

辻山良雄(以下、辻山):私はリブロという本屋に勤めていたことがあり、池袋本店が閉店することになって辞めたんですけど、お世話になった人に「これからお店を準備します」みたいなメールを出していたら思いがけずいしいさんから返事をいただきまして。「まったく新しい、けれどなつかしい。ずっとそこにあったはずなのに、たったいまできた空間」ということを返してもらって、それで「Title」のホームページの左上に“まったく新しい、けれどなつかしい”という言葉をずっと使わせてもらってます。

いしいしんじ(以下、いしい):本当にそういう場所になったのは、僕が辻山さんとお目にかかった時に、辻山さんがそういう場所の気配を出してはった。そっちのほうに向かうんだろうなというのがあったからそういうふうに言ったんで、それを僕が受け取って「こうなんじゃないですか」って言っただけなんですよね。

辻山:その言葉をいただいて、なにか店自体が物語性を帯びるというか。いしいさんが気配を嗅ぎ取って、そういう言葉を出したというのは、小説にもつながる話だなと思いましたね。『マリアさま』は18年間に書かれた短篇を27篇集めたということで、実際にはこれに載らないような短篇もいっぱい書かれていると思うんですけれども。

いしい:この中に野球の話(「子規と東京ドームに行った話」)があるんですね。『野球小僧』という雑誌が創刊された時に、僕の担当編集者から「野球小説やらないですか」って話があって、季刊だったから4篇あるはずなんですよ。チェ・ゲバラと一緒に日本対キューバ戦を見るとか、横山やすしと甲子園球場に行くという話(笑)。選ばなかったのかなと思ったら、送ってなかったんですよ。送り損ねてるものがまだいっぱいあるはずなんです。
『マリアさま』(リトルモア)を紹介する「Title」店主の辻山良雄


辻山:「犬のたましい」という短篇から始まって「犬」で終わりますよね。犬の持っているひたむきさから始まって、そこに帰っていくというのがすごくいいなと思ったのと、ずっと読んでいるとそれぞれ別の話なんですけど、トーンが統一されているからひとつの長篇にも読めるというか。そういうことを考えながら読みました。

いしい:今回ゲラ(校正刷り)というものになって最初から全部読んでみたんですけど、まず思ったことがあんまり変わってないなということですね(笑)。わりと同じようなことを据えて書いているんだなということだったんですね。

辻山:同じことというのは、もうすこし詳しくいうとどういうことでしょうか。

いしい:今日はここにくる前にインタビューがあって、いっぱい人や動物が死んでしまう話なのにあまり暗くならないと言われたんですよ。僕は子どもの頃から死というものに興味があって、なんで死ぬんやろうというのがすごくあったんですよね。それが2010年にひとひという子どもが生まれて、看護婦さんから受け取った時に自分が誕生した記憶がすごく揺さぶられて、「そうや、俺も生まれたんや」と思って体がブワーッと震え出したんですよ。死というのは必ずあるんだけれども怖いものではなく、誕生というのもそう。誕生というのは向こうからこっちに移ってくる引っ越しで、死というのはこっちから向こうに移る引っ越しなんです。『マリアさま』はこの20年を通って出てきたいろいろなものなんですけど、だんだんと向こう側の光というのが自分で実感できるようになってきたから、風通しがよくてほの明るい感じがする。それは自分が小説を書きながら、そういう場所に身を置いているからだと思うんですよ。
『マリアさま』執筆のエピソードを語る著者のいしいしんじ
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