松本穂香 父は酒に溺れ、母は新興宗教にハマり…難しい役どころに挑戦!

映画『酔うと化け物になる父がつらい』


 アルコールに溺れる父を持った作者・菊池真理子の実体験に基づく同名コミックエッセイを、NHK連続テレビ小説「ひよっこ」で人気を博し、ドラマ「この世界の片隅に」や映画『わたしは光をにぎっている』など数々のドラマや映画で主演を務める女優・松本穂香を主演に迎え映画化! 衝撃的なエピソードの数々をときに笑いに変えながらも、誰もが感じたことのある生きづらさに寄り添う、共感必至のハートフルムービー。
松本穂香(撮影・蔦野裕、ヘアメイク・倉田明美、スタイリスト・有咲)
「初めて台本を読んだときは、すごく大変そうな役だなとプレッシャーを感じました」と振り返る松本穂香。そんな難役に挑もうと思ったきっかけは、片桐健滋監督からの熱烈なオファーだったという。

「以前に片桐監督が助監督を務めていた作品のオーディションに参加させていただいたことがあったのですが、監督はそのときのお芝居をずっと覚えていてくださって、この役はぜひ私に、と。そういうご縁も大切にしたかったですし、作品や役そのものにも魅力を感じて、難しい役だけど演じさせていただこう、と思いました」

 松本が演じるのは、酔っては“化け物”になる父(渋川清彦)と新興宗教にハマる母(ともさかりえ)に振り回される主人公・田所サキ。成長するにしたがい、自分の気持ちを封じ込めるのが当たり前となってしまった“語らない”主人公を、繊細に表現している。

「すべてが難しい役ではあったのですが、この気持ちがよく分からない、という苦しさは1つも無かったと思います。親や家族に対する葛藤や、無関心でいられることのつらさ、コミュニケーションの難しさは私も感じてきたほうなので、サキの気持ちが分からない、ということはなかったです。ただ、こうして振り返ってみても、やっぱり家族というつながりは難しいなと思いました。演じていても、撮影が終わっても、こうしてお話していても、どんどん分からなくなってくるんです。この映画でも、ラストに答えが示されるかというと、それはサキの中や、見る人それぞれの心の中に残っていきますし、絶対的な答えなんてないんだろうな、と思いました」

 原作コミックは、ウエブサイトで第一話公開の際に、アクセスができなくなるほど圧倒的な反響を呼ぶなど、幅広い世代で共感する人を生んだ。原作者の菊池氏は、片桐監督に“きれいな家族愛の話にまとめないでほしい”という思いを伝えたという。

「私も原作を拝見して、お母さんが亡くなったりお父さんと伝え合わないままだったり、最低な彼氏だったり…起こることは重くつらいことですが、かわいらしい画で柔らかく、ユーモアを交えて描かれているのが印象的でした。映画にもその要素が生かされていますが、同時に、気持ちを伝え合うことができない家族の難しさも丁寧に描かれていると思います」

 酔った父親の姿がごく当たり前の日常だった子供時代。母の突然の死。やがてサキは気持ちを伝えあうことをあきらめていく。「サキも、最初はお父さんに気持ちを伝えようとしていたと思うんですが、何度言ってもお父さんから何も返ってこなくて、その繰り返しでしだいに自分の思いにフタをするようになってしまったんだろうな、と。そう思うとすごく切なくて。それでも、血がつながっているからこそ、お父さんのことをあきらめきれない。サキが、カレンダーに印を書き続けたのも、そんな思いからだったと思います。その後、それすらもやめてしまっても、家を出ていないというのは、自分たちがいなければお父さんは死んでしまうかもという気持ちが心のどこかにあったんじゃないかなと。結局最後まで、亡くなっても無関心にはなれなかったんじゃないかなと思います」
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