「みんな、覚悟はできているのか?」豊田利晃&窪塚洋介が『全員切腹』で問いかける、生き方の美学〈前編〉

映画『全員切腹』のメインビジュアル(©豊田組)

 雷漢の切腹のモデルにしたという武市半平太も『竜馬がゆく』の中で、三文字に腹を掻き切るにあたって介錯人に「わしがよしというまでやるな」と言っていますね。きっとそんな切腹をするのは当時の武士の間ですら未知で強烈だった。

豊田「今回、京都の映画人・中込秀志さんが装飾で参加してくれたんですけど、“監督の好きにやったらええ。誰も見たことないから正解はない”と」

窪塚「へー!」

豊田「結構こまかく聞いたんですけど、“好きにやったらええんちゃうか”って。一応しきたりを教えてくださいって言うと“そんなん、映画の嘘やん。それは京都が作った映画の嘘。京都の映画人が作っていったものだから無視していい”」

窪塚「それが言えちゃう巨匠って、またすごいですよね」

豊田「うん。気が楽になった。それを聞いて」

窪塚「“腹を割る”とか、“腹落ちする”とか、腹のつく慣用句や諺って多いですよね。その“腹”って、全部“気”を表している」

豊田「“丹田”だよね」

窪塚「うん。それを切ることが切腹だと思うんです」

豊田「すごいよね。昔の日本人はそこに気づいていたってことだから、レベルが高かったんだよ。過去に習うべきことがあるよね」

窪塚「俺は普段 “腸活”と言っておきながらこの映画で腸を切っちゃってるわけですけど(笑)、生命体って、腸からできたらしいんですよ。脳みそができる前に腸ができて、腸だけの生き物とかもいるんですね、ちっちゃい。そのあとに、だんだん、だんだん僕らみたいな形に進化していったんですけど、まず腸からできるっていうことは、よく腸が第二の脳と言われるているんですけど、実は第一の脳なんですよね」

豊田「……ちょうなんだ?」

窪塚「(スルーして)そう。だからみんな、「腸男(ちょうなん)」か「腸女(ちょうじょ)」なんですよ。それから「腸能力(ちょうのうりょく)」、あとは、「腸内会(ちょうないかい)」とか……」

豊田「(笑)。最近、窪塚“腸介”様宛にお花が届くよね」

窪塚「からかっているみたいになるから遠慮されてましたけど、最近は自分からそう言っていることもあって、腸介と書かれるようになってきました(笑)」

(取材と文・ユカワユウコ)

【つづく】

 後編では、人生で数々の修羅場を切り抜けてこの作品にたどり着いた両者が、それぞれの生き方、そしてライフワークを語る。

『全員切腹』
物語の舞台は明治初期。ある流れ者の浪人の侍が、「井戸に毒を撒いて疫病を広めた罪」で切腹を命じられるのだが……。
監督・脚本・企画・プロデューサー:豊田利晃
出演:窪塚洋介、渋川清彦、芋生悠、ユキリョウイチ、飯田団紅
音楽:切腹ピストルズ 中込健太(鼓童)、住吉佑太(鼓童)、照井利幸、中村達也、ヤマジカズヒデ、Mars89/26分/2021年/ユーロスペースほか全国順次公開中 https://www.toyodafilms.net

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