「みんな、覚悟はできているのか?」豊田利晃&窪塚洋介が『全員切腹』で問いかける、生き方の美学〈前編〉

豊田利晃監督(撮影・堀田真央人)

豊田「日本映画で色んな切腹シーンが撮られてきたなかでも、こんな切腹シーンは初めて。それは窪塚の才能」

 2日間の撮影は相当タイトだったのでは。

豊田「ほぼ寝ずに突入!みたいな感じで、最初に日光江戸村で長屋のシーンや江戸の町を撮って、2日目はもう神社の切腹シーンだったからね。あの長台詞を、窪塚洋介という男はリハーサルから全て覚えているんですよね。で、あの長台詞の後に切腹シーンをワンカットで撮る! っていうのは……。大体、切腹シーンって、お腹に刀を突きつけたところでカットを割るんですよ。顔に寄ったりして、見せないようにするんですよね。だから日本映画でいろんな切腹シーンが撮られてきたなかでも、こんな切腹シーンは初めてだと思うし、すごい面白かった。いいもの撮れたなと。それは窪塚の才能だと思っています」

窪塚「いえいえ」

豊田「やっぱりあのシーンは、その時の、窪塚演じる雷漢吉右衛門の心情のまま切腹にいきたかったから。僕はある程度のカット割は現場が始まる前に決めているんですけど、とりあえず芝居を見てみてから組み立て直します。それで、撮影地はそんなに広い神社ではないので引き尻もあんまりないけど、これは持つなと思って。そのままいったほうが面白い。ただ、血の仕掛けとかのほうが心配で。失敗したら、もう……」

窪塚「うん、現状復帰するのに2時間くらいかかりますよね、きっと。俺もそのことがすごい気になっていて」

豊田「窪塚が“台詞は大丈夫だけど、もし血の事故とかがあってNGになったらいけないから、カット割ったほうがいいんじゃないですか? 監督”って言うんですよね。いやいや! ワンカットで行く! と。でもそうしたことで全スタッフのプレッシャーや現場の緊張感につながったと思う」

窪塚「それ以外は行けるから、腹切るところで1回止めませんか?と、お願いして。それでミスって、もう1回っていったときの(気持ちの)削がれ方って、想像したら半端じゃないから。万が一っていうことはあるから。血が出ないとか、あるいは出過ぎたとか。だからそこは、納得してもらって、直前で止めてもらった」 

 結果としては一発OKだったわけですね。撮影では一切ハプニングはなく?

豊田「KEE(渋川清彦/津雲段兵衛役)が窪塚の首を切って、血がバーン!てなるじゃないですか。本当は顔の半分くらいが血に染まる感じでオシャレに行こうと思っていたんですけど、あんな血ダルマになると思ってなくて、笑い転げそうになった!」

窪塚「いやいやいや、あれ、笑えないっすよ、あの空気のなかで! もう、1秒かからずに、赤鬼になっちゃってんですよ」

豊田「2コマくらい(笑)。急にトマトケチャップのマークみたいになっちゃって。びっくりしました」

窪塚「ははははは(笑)」

豊田「そんな介錯シーン、見たことないなと思って(笑)。“もう1回やる?”って言われたけど“いや大丈夫。おもしろいんじゃない?”って」