「過去や未来の話をしても現在からは誰も逃げられない」 豊田利晃&窪塚洋介が『全員切腹』で問いかける、生き方の美学〈後編〉

 ユーロスーペース(東京・渋谷)ほかで公開中の映画『全員切腹』のクライマックス、毒を流して疫病を広めた罪に問われ切腹を命じられた雷漢(窪塚洋介)は、奉行所の強面たちを見渡して「おまえらは俺みてえなことが言えねえだろ」と言い放つ。対談の後半は、豊田利晃と窪塚洋介という、逆境を乗り越えてきた二人だからこそ作り得た渾身の切腹シーンの背景にある、それぞれの覚悟と思いが語られた。

※前編はこちら https://www.tokyoheadline.com/568658/

窪塚洋介(左)と豊田利晃監督(撮影・堀田真央人)

窪塚「一緒に現場で興奮できて、一緒に夢を見られる。それってすごく心地いいこと」

 前回伺った切腹シーンの長回しとも関連するのですが、豊田監督の作品には独特の間尺があります。

豊田「音が入る隙間を計算しつつで撮影をしているんですよね。たとえば窪塚が横顔で歩いていく、あれがファーストカットなんですけど、あそこを俺がいきなりハイスピード(カメラ)で撮るように言うと、みんな“エッ?”(見る人にとってはスローすぎて、もたないんじゃないか?)みたいな。でもそこは“音が入るから大丈夫だよ、溜めるになるから”と(説明して、撮る)。そういう全体の計算をしているんですよね」

窪塚「なるほど」

豊田「最終的なカット割は芝居を見て決め直すけど、無駄が嫌いなんですよね。無駄なカットを撮ってもらうと、その分スタッフを働かせてしまっていることになる。僕はミニマリストなんで、必要最小限のカットで語れるんじゃないかと考えています。そうやって無駄な仕事をさせないことが、スタッフ・キャストを集中させることにつながる。そこが一番重要なところです。そのほうが緊張するから、みんなが一丸となる」

窪塚「監督はガソリン代と弁当代さえあれば映画は撮れるって言う人で、集まってくる奴も有志みたいなもの。同じ空気を吸っていることがご褒美で、それを良しとする仲間たちです。だから監督はそこへの気遣いもあって今のように“ミニマリスト”という表現をされるのかなと思います。一緒に現場で興奮できて、一緒に夢を見られる。それってすごく心地いいことだし、ものすごい集中力を出させてくれるんですよ、それぞれに。そこに監督の強い“よーい!はい!”の掛け声があって、それでまた現場が締まる。もし若いスタッフ・キャストがいたら、ビビっちゃう子はビビっちゃう空気だけど、なかなかそこまで高音の張り詰めた環境っていうのはないから。やっぱりすごく心地よくて、水を得た魚みたいになっちゃう」

 豊田さんだからこそ、みんなが信じてついていける。

豊田「まあ、監督がそうでなければそもそも映画なんて撮れませんからね」

窪塚「他に同じような作り方をする監督がいるかは分からないのですが、豊田さんはそういう力を持っている方だし、そこに力を集めて来れる人。で、それぞれが自分らのできることをとにかく出して、豊田さんに使ってもらうっていうことに喜びを持ってやっているのがまず一番大きいですよね」

 監督は孤独な仕事だと感じる瞬間も?

豊田「うーん。映画監督の仕事って、その場でイエス/ノーをジャッジしなきゃいけないっていう、それを孤独だと言うのは理解できるかな。ただそれを僕がジャッジしないと前には進まないから、その判断は早いと思いますよ」

窪塚「豊田さんは脚本がオリジナルだから、その作業も孤独では?」

豊田「確かにそこには時間がかかっていますね。脚本を3日で書きあげたからといって、創作期間は3日じゃない。52年と3日なんです。過去から振り返って人生をつなげているから。生まれてから、いろいろ考えてここに至るまで。本当に自己セラピーみたいなもので、毎回脚本作るときにやっていますよね」

窪塚「すげぇ」

 そうやって人生を振り返ると、2019年4月に銃刀法違反容疑で逮捕されてしまった(が、すぐに不起訴となり釈放された)件を筆頭に、想定外の問題も?

豊田「多いよね。いい加減にしてほしいってくらい(笑)」

窪塚「うん(笑)」

豊田「でも、みんな過去とか未来の話をしますけど、現在からは誰も逃げられないから。そこはやっぱり、いろんなことが起きても前向きに生きるしかないんですよ。現在が永遠に続いていくだけなんで。だから、状況が厳しくなれば厳しくなるほど、燃えてくるタイプですけどね。逆境があれば、なんとかしよう、と」

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