武田砂鉄インタビュー「小学生の頃から聞いていた人たちが、これからもしゃべろうとし続けている」

発売以来、順調に版を重ねる『TBSラジオ公式読本』。「インタビューをまとめる時に自ずとラジオの声を意識してまとめることになりました」

僕自身は便利になることにそんなに興味がない

 森本毅郎さんの新聞記事を読む技術や、ニュースデスクの近藤美矩(よしのり)さんなど、普段私たちが目にしない「伝える技術」も登場する。

「森本さんや近藤さんは、頭の中に“今、あのニュースがどうなってるか、どう動いているか”ということがインプットされているはずで、だから目の前に新聞があるだけで情報を補完できるわけですよね。技術というよりは日頃の繰り返し、反復によって補える状況にしているということなのだと想像します。森本さんの場合は常に“新しいニュースはどこにあるんだろう”とか、“夜から朝にかけて何か補足するところはないんだろうか”と、ずっと考え続けていると思うんですよ。だからこそ、新聞を見るだけでそこからニュース原稿を別紙にまとめもせずに作るということができるんじゃないかと思います」

 自身の番組で準備はどの程度行うのか。

「僕の番組はゲストコーナーが30分くらいあるんですけど、なるべくインタビューする時に“これまでにしゃべってないことを引き出せればいいな”というのは頭のどこかにあります。ゲストと一対一で話をするので、それなりに“ああいうことを聞こうかな”“こういうことを聞こうかな”と準備していって、ただ、それを頭から順序立てて聞いてもしょうがないので、その場で発生したものをすくい上げていく。準備して壊していくという感覚があります。

 日頃、ラジオ番組を聞きながら、どうしても“決まりきった形のインタビューって面白くないな”と思うことが多いので、自分がそうはならないようにしたいなというのはいつも考えています」

 爆笑問題のインタビューの中で武田は〈「コスパ」って言葉をよく使う人がどうも苦手なんですが、あえて使うとすると、ラジオって、コスパ悪いじゃないですか。話すほうは儲かるわけではないし、聴くほうは時間がかかる。でも、だから、好きなんです〉と語っている。

「『コンテンツ』という言い方も好きじゃないんですけど、今、いろんなコンテンツが“こういう本を読んだらこういう気持ちになれる”“こういう映像を見たらこういう気持ちになれる”という目的がはっきりしているものばかりですよね。ラジオって2時間しゃべったとして、そのどこにどう反応するか分からないし、しゃべっている人自身もしゃべりながら考えが変わってきたり、しゃべるほうも聞くほうも蛇行運転している。その蛇行運転がどこで交わるか分からない感じが面白いと思うんです。誰かがポロッと言ったことがものすごく心に刺さったり、何が起こるか分からない余白が残されているし、聞く側を信頼しているからこそ成り立つメディアがラジオで、そこは今の目的化されたコンテンツにはないところだと思います。

 よく大沢悠里さんが言うことなんですけど、基本的にはどこか遠くでちょっと流れていて、自分が気になった情報があったらそれに耳を傾ける、日常の中に溶け込んでくるのがラジオだと。この感じを代替するものはあまりないような気がするんです。

 たとえばラジオで“猿が逃げています”というニュースを食器洗いしながら聞いていたら、猿が逃げる光景を頭の中で勝手にふくらませて補完するわけじゃないですか。どういう猿がどこで逃げているのか、商店街なのか、もしかしたら学校の校庭なのか。そっちのほうが僕は面白いと思うんですよね。

 今回の本は、それぞれよく聞いているパーソナリティーのページから読むと思うんですけど、自分の頭の中にある声で読んでいって、彼らの今まで全然知らない側面が出てきたりするとすごく面白いと思うはず。初めて知る話なのに、その話は、いつもの声で聞こえてくるはず。

 僕もインタビューした人たちのラジオを聞いてきたので、インタビューをまとめる時に自ずとラジオの声を意識してまとめることになりました。どんな人でも取材を受けている時の声やテンションって、放送で話している時とは少しは異なるものですが、生島ヒロシさんの原稿は生島さんの声で再生されるから、生島さんはどういう感じでしゃべるかななどと、インタビューした人を意識しながらまとめました。僕もいろんなインタビューやまとめをやってきましたが、ちょっと独特の体験だったかもしれません」

 紙媒体の「TOKYO HEADLINE」は今号で季刊発行となる。武田自身はメディアの楽しみ方の変化をどうとらえているのだろうか。

「これは本当に賛同されない意見なんですけど、僕自身は便利になることにそんなに興味がない。音楽を聞くにしても本を読むにしても自分に負荷をかけるというか、わざわざ面倒な形にしておきたいという考えがあるんですよね。自分が学生の頃に、CD1枚買うのにすごく吟味して、そんなによくないアルバムを3000円で買ってしまったとしても、何度も聞いて“この曲のここはいいな”と無理やり思う、みたいな経験を割と大事にしているところがあります。自分を納得させるために頭を働かせて“6曲目の後半だけはいい”と思えるのって大事だなと思うんですよね。今、座っていれば何でもかんでも目の前に情報がやってくるから、受け取る側がちょっと偉そうになっているところがあって、提供する側も当然“あなたに心地いいのがこれですよ”と操縦しようとする。そういうものをどんどん外していきたいと思っているので、本もCDも“物”で買うというのは心がけています。

 もちろんラジオもradikoのタイムフリーで聞くのが便利なのは確かなんですけど、ただ提供されるのを待つだけじゃなくて、どこかに負荷をかける意識を残しておきたいんです」

(TOKYO HEADLINE・後藤花絵)

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