前田健太「手術はネガティブじゃない」リハビリ生活で得た “逆境を乗り越える力” とは

 2021年9月のトミー・ジョン手術からの再起をかける、アメリカ大リーグ・ツインズの前田健太。1年以上に及ぶ長いリハビリ生活の中で得た「逆境を乗り越えるための力」とは。単独インタビューで聞いた。

トミー・ジョン手術からの再起をかけるアメリカ大リーグ・ツインズの前田健太(撮影:須山杏)

「野球人生で初めて1年間プレーしなかったシーズンだったので、改めて自分を見つめ直す時間にもなりましたし、体に向き合うこともできました。今シーズンに向けていい時間だったかなと思います」。前田は穏やかな口調で昨シーズンを振り返った。

 チームの試合をテレビで見るのは “不思議な気持ちだった” という。コンディションの整え方もがらりと変わった。

「今までなら試合に向けて体を作っていくという時間だったのですが、今回は手術した右ヒジのリカバリーもそうですし、試合に1年間出ないことも決まっていたので、その間に、やはり “手術する前よりも良い体になれるように” と意識しながら1年間過ごしてきました」

 とはいえ、1年以上に及ぶリハビリ生活は「我慢」との闘いだったという。

「手術後は汗をかいてはいけないとか、走ってはいけない時間も数カ月間ありました。できることが限られていたので、やはり筋力が落ちてしまいました。ヒジのリハビリなので、握力を戻すためにとか、右ヒジを動かすためにとか、もとの筋力を取り戻すための地道なトレーニングばかりでしたね。徐々に何カ月もゆっくり時間をかけて取り戻していく、という工程でした。僕はせっかちなので、 “もっと早くできないのか” とも思いましたが、どんなに急いでも良い未来は待っていない。時間をかけてやるべきことをしたほうが、今後良い結果が必ず待っている。そう思って “我慢して抑えつつトレーニングする” というのがテーマでした」

 心が折れないよう、リハビリ中に前田が大切にしていたことがあった。

「戻った時のイメージですね。 “戻る時に、より良い姿で戻れるように” というのをモチベーションにしていました。やはりここで気持ちが切れてしまうと怪我が治って戻ったときに今まで以上の力を出せないし、手術前よりも実力が落ちてしまう。それでは手術した意味がない、と。手術したからには、手術前よりいい形で戻れるように、自分が復帰したときにどういう姿で戻りたいのか、ということを常にイメージしながら励みましたね」

 リハビリに通う日々が日常になるなか、うれしい出会いや発見もあった。

「リハビリ施設では若い子と一緒にトレーニングしたり、今まで関わることがなかった選手と仲良くなったりとかして、それもまたいい機会だと楽しむことができました。施設に行ったら “一緒に写真撮って” と言われたり、若い子たちから憧れを持ってもらえたりするのもうれしかった。同じチームですけど、若い子たちもメジャーリーグを目指して頑張って下積みしているので、そういう姿を見られて、 “自分ももっと頑張らないと” と思えましたね」

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