「賛否両論」も「諸説あります」にも疲れた。僕は「ヤングケアラー」って言葉を、もっと日常的にポップに使ってほしい!〈徳井健太の菩薩目線 第282回〉
“サイコ”の異名を持つ平成ノブシコブシ・徳井健太が、世の中のあらゆる事象を生温かい目で見通す連載企画「徳井健太の菩薩目線」。第282回目は、ポップに伝えることの難しさについて、独自の梵鐘を鳴らす――。
『チャンスの時間』(ABEMA)で放送された、スリムクラブの内間を特集する「内間スペシャル」。この番組のスタッフさんは、バラエティ変人が多い。「内間さんにフォーカスを当てた番組を作るので」と聞いても、さほど驚きはなく、むしろ「徳井さんに出演を」と言われたことのほうが驚いたくらいだった。
というのも、僕は内間とそんなに仲が良いわけではない。僕が狂信的にスリムクラブというコンビが好きなだけだから、言うほど内間のエピソードトークがあるわけではない。知っている話にしても、真栄田から聞いた話だから、彼が話した方が絶対に面白くなる。
そのため、出演依頼とともに届いたアンケートに、「特にこれといってエピソード的なものは少ないので、僕が思う内間という人間に対する思い」を書き綴らせていただいた。あまりにも変則的なアンケート返し。もしかしたら、僕から内間へのラブレターを書いてしまったのかもしれない。アンケートを求めていただろうスタッフさん、申し訳ございません。
内間を考えるとき、まともではいられなくなる。彼は、小さい頃から「自我を持つな」という不思議な教育を施されてきた人間。それに対して真栄田が、「それは違うよ。お前はお前なんだよ」と声を掛け続けてきたことで、あの2人にしか醸し出すことができない世界観ができあがる。漫才にしろ、コントにしろ、あの唯一無二の世界観は、真栄田の才能だけでなく、内間が育ってきたバックグラウンドも大いに作用している。だから僕も思っていた。内間の面白さをもっと知ってほしいと。
意味不明なことを綴ったのに、ありがたいことに僕は、内間の面白さを‟提案する側”として出演することになった。僕らが内間の面白さを説明し、他にどんな番組で内間は輝けるか……それを大悟さんたちにプレゼンするというものだ。
その日、主役である内間は、いつも通り一言二言、ポツリと言葉にする程度で、自分にフォーカスが当っていることなど、どこ吹く風といった様子だった。達観なのか、諦観なのか。何にしたって、内間はいつも心をどこかに置いてきたかのように存在する。
内間に関する奇抜で面白いエピソードが矢継ぎ早に放たれる。こうしたエピソードを話し続けるだけでも番組は成立しただろうけど、僕の良くも悪くものクセで、人間を伝えたくなってしまった。「そもそも内間って」。気が付くと僕は、彼の人間賛歌を叫んでいた。
先述したように、内間は特殊な家庭環境で育っている。「自分を捨てろ」ということが、彼のお母さんの愛情であり信条だったという。お母さんの教育があまりに特殊だったため、一般の人からはなかなか理解できない家庭環境下で育ったのが、内間という人間だ。
僕も、他者からはなかなか理解されがたい子ども時代を過ごしている(らしい)。母親がアル中になったことで、母と妹の面倒を見てきた――ということは、このコラムでも折を見て綴らせてもらってきた。だからなのか、内間がどうしてこういう人間性になったのか、どうしてこういう雰囲気なのか、他人事に思えないところがあった。平たく言えば、彼も僕も親の環境によって、自分というものを持つ感覚が分からないまま成人になってしまった人間。
途中、内間が無心でゴーヤを早食いする瞬間は、内間の過去が作り出したホログラフィーに思えた。ぜひとも、『チャンスの時間』で目撃してほしい。
ゴーヤを早食いする狂気の最中、ノブさんが「ヤングケアラーだからだ」と、ぽつりとつっこんだ。だから、こんなことに疑問を持たずにできるんだって。
僕は、その一言がめちゃくちゃうれしかった。当事者の一人であっただろう僕は、いかにポップに伝えていくことが大事だと思っていたから、ノブさんのような影響力のある人が、「ヤングケアラー」というフレーズをチョイスしてくれたことがとてもうれしかったのだ。僕が、母と妹の面倒を見ている時代は、そんな言葉はなかったから、自分が置かれている状況を疑うことはなかったし、他者から見た僕の状況を言い表す言葉もなかった。「大変だね」くらい。
だけど、今は「ヤングケアラー」という言葉があることで、そうした環境下に置かれている子どもたちへの理解が進むようになった。なったんだけれど、まだまだ「ヤングケアラー」という言葉は認知されていないし、受け取られるにしても重い言葉として気を遣われることが少なくない。
「ヤングケアラー」という言葉は浸透しているように思えても、内情を理解するところまでは、まだ時間がかかるように感じる。講演などでお話しさせていただいても、なかなか伝わりづらいことがあるなと、僕自身、痛感する。だからせめて、この言葉だけでも多くの人に知られてほしい。バラエティー番組の面白キャッチボールの中に、「ヤングケアラー」という言葉が登場することに意味があるんです。
中には、軽い気持ちでそういう言葉を使うべきではないという人もいるだろう。賛否があって当然。賛も否もウェルカム。だけど、知らない人、興味のない人の耳に入ることが大切なのであって、冗談でもいいから使ってほしいというのが、当事者だった僕の思い。
内間も僕も環境は違うけど、世間一般とは程遠い学生時代を過ごしたらしい。でも、それが芸人として生きていく上で役に立っているのであれば、結果オーライだと思いたい。僕らの過去をポップに扱ってくれる人がたくさんいることが、なにより時代が変わりつつある証左じゃないですか。
1980年北海道出身。2000年、東京NSC5期生同期の吉村崇とお笑いコンビ「平成ノブシコブシ」結成。「ピカルの定理」などバラエティ番組を中心に活躍。最近では、バラエティ番組や芸人を愛情たっぷりに「分析」することでも注目を集め、22年2月28日に『敗北からの芸人論』を発売。「もっと世間で評価や称賛を受けるべき人や物」を紹介すべく、YouTubeチャンネル「徳井の考察」も開設している。吉本興業所属。
公式ツイッター:https://twitter.com/nagomigozen
YouTube:https://www.youtube.com/channel/UC-9P1uMojDoe1QM49wmSGmw
講演依頼:https://www.speakers.jp/speaker/tokui-kenta/
https://www.sbrain.co.jp/keyperson/K-19533.htm
https://youtu.be/VqKYn26Q2-o?si=M7p7KLIyjLBrgIk0

