境界がゆらぐとき。境界を越えるとき。天明屋尚展「国津神」

2019.03.12 Vol.716
 日本伝統絵画を現代に転生させる“ネオ日本画”を手掛ける現代美術家・天明屋尚の2年ぶりとなる新作個展。  これまで戦国時代のバサラ大名や江戸時代の傾奇者、現代のストリート文化といった日本の祝祭的な美の系譜を取り上げてきた天明屋尚が、今回、モチーフとしたのは「国津神」。国津神とは、高天原から天降った神々である天津神とは対置され、豊葦原中国(とよあしはらのなかつくに)に生まれた、古来から日本の地に土着する荒ぶる神々のこと。  本展では、天明屋が創造した風神、雷神、雪神、雨神、虹神、海神、山神、火神の8つの神々を描いた作品が展示される。各神はそれぞれ神獣や雲に乗り来訪する神であり、此岸と彼岸の理を超越した目に見えない霊的存在、即ち鬼として描かれる。  会場中央の奥には神社の御神体に着想を得た立体作品も設置。古代の神々をモチーフとした作品8点と御神体を配置することで、会場はさながら神社仏閣のような、神聖な空気に包まれた空間となっている。芸術を鑑賞しているのか、神仏を祀っているのか。境界が重なり合い1つになっていく感覚を感じつつ、天明屋らしいポップで躍動的、スケールの大きさを感じさせる作品を堪能しよう。
天明屋尚展「国津神」 【会場・会期】ミヅマアートギャラリー 開催中〜3月30日(土) 【時間】11〜19時 【休】日月祝 【料金】入場無料 【問い合わせ】03-3268-2500 【交通】地下鉄市ヶ谷駅より徒歩5分 【URL】http://mizuma-art.co.jp/

境界がゆらぐとき。境界を越えるとき。塚原琢哉写真展「国境 ポーランド国境を越えた国の日常」

2019.03.10 Vol.716
 人々をとりまく歴史や文化、自然などをテーマに、現代人に問いかける鋭い視点を持って国内外で取材・撮影を行う写真家・塚原琢哉の写真展。  1972年に初めてポーランドを訪れて以来、度々同地で撮影や展覧会を行い、ポーランドを中心に数々のマリアイコンを調査し、撮影した『マリア幻想』シリーズを手掛けるなど、ポーランドとの深い絆を持つ塚原。冷戦後、政治情勢が大きく変化した東欧に足を運び、ときに行き来が困難な国境の旅を続け、22年間で撮り溜めた作品約160点を展示する。  1989年、ポーランドでカトリックと連帯が1つになって黒いマドンナのミサに巡礼し民主化を求める姿、共産主義体制を維持するベラルーシの街に立つレーニン像、カリニングラード港に第二次世界大戦の戦勝記念碑として係留されている潜水艦、世界中から訪れるカトリックの巡礼者たちが積み上げた十字架が凍り付く極寒のリトアニア、カウナス。冷戦終結後に廃墟となった、オストラバの重工業地帯にたたずむ、冷戦中ソビエトの管理下に置かれていた化学工場跡…。  ポーランドを取り巻く冷戦後の国境を越え、7カ国を取材してとらえた東欧の歴史の記憶と人々の姿とは。

江戸と東京。それぞれを見つめた表現者たち「田沼武能写真展 東京わが残像 1948ー1964」

2019.02.23 Vol.715
 終戦直後から活躍し、90歳を迎えようとする今も第一線で活動し続ける写真家・田沼武能(1929〜)。生誕90年、写真家生活70年の節目に合わせ「戦後東京」をテーマにした初の大規模個展が開催される。  田沼は1949年に東京写真工業専門学校(現・東京工芸大学)を卒業した後、サン・ニュース・フォトス社に入り、木村伊兵衛の助手として写真家人生をスタート。『藝術新潮』の嘱託写真家として文化人の肖像写真による連載で注目を集めたのち、アメリカのタイム・ライフ社と契約しフォト・ジャーナリズムの分野でも活躍。また、黒柳徹子ユニセフ親善大使の援助国訪問には1984年の初回からすべてに同行するほか、これまで120カ国を超える世界中の子どもたちを撮影してきた。  卒寿を迎える今も写真家として第一線で活躍している田沼だが、子どもや文化人の写真と並びライフワークとしてきたのが、自身の生まれ育った下町を中心とした東京の写真。戦後の焼け野原から出発し、さまざまな矛盾を内包しながらも再生を目指し激しく変貌した都市・東京。本展では、田沼が見つめてきた東京の写真作品180点を「子ども」「下町」「街の変貌」の3つの視点から紹介。さらに世田谷美術館での個展開催にちなみ、特別企画として、世田谷区ゆかりの文化人の肖像写真24点も展示する。  会期中は田沼本人が登壇する講演会も実施される(3月16日14時〜、13時よりエントランスホールにて整理券を配付。当日先着140名。参加費無料)。
田沼武能写真展 東京わが残像 1948ー1964 【会場・会期】世田谷美術館 開催中〜4月14日(日) 【時間】10〜18時(入場は17時30分まで) 【休】月曜(2/11は開館、翌12日休館) 【料金】一般1000円、65歳以上800円、大高生800円、中小生500円 【問い合わせ】03-5777-8600(ハローダイヤル) 【交通】東急田園都市線「用賀」駅より徒歩17分 【URL】https://www.setagayaartmuseum.or.jp

江戸と東京。それぞれを見つめた表現者たち「新・北斎展 HOKUSAI UPDATED」

2019.02.19 Vol.715
“Great Wave”と称されて世界的に名高い「神奈川沖浪裏」を含む「冨嶽三十六景」シリーズや、19世紀のヨーロッパにおけるジャポニスムの流行の契機となった『北斎漫画』といった、幅広く知られている代表的作品にとどまらず、国内外の名品や近年発見された作品、初公開作品も併せて紹介。約70年に及ぶ北斎の画業をたどる北斎展。  本展では、その絵師人生を作風の変遷と主に用いた画号によって6期に分けて紹介。勝川派の絵師として活動した「春朗」期(20〜35歳ごろ)、勝川派を離れて肉筆画や狂歌絵本の挿絵といった新たな分野に意欲的に取り組んだ「宗理」期(36〜46歳ごろ)、読本の挿絵に傾注した「葛飾北斎」期(46〜50歳ごろ)、多彩な絵手本を手掛けた「戴斗」期(51〜60歳ごろ)、錦絵の揃物を多く制作した「為一」期(61〜75歳ごろ)、自由な発想と表現による肉筆画に専念した「画狂老人卍」期(75〜90歳ごろ)と、その壮大な画業を通覧していく。  20歳のデビュー作から90歳の絶筆まで、本展に出品される作品数は約480件(会期中展示替えあり)。初公開作品も多数出品されている。アメリカ・シンシナティ美術館が所蔵する、北斎が88歳の時に描いた《向日葵図》(肉筆画)や、近年発見された「かな手本忠臣蔵」(小判、10枚)など、長らく秘蔵されていたため、衝撃的なほどに美しい色彩をとどめている《津和野藩伝来摺物》というレアな作品も必見。

スタジオジブリ約3年ぶりの東京展覧会「鈴木敏夫とジブリ展」

2019.02.06 Vol.714
 国内外問わず多くのファンを持ち愛され続けるジブリ作品を手掛けてきた、 スタジオジブリの敏腕プロデューサー鈴木敏夫氏の“言葉”に注目した展覧会「鈴木敏夫とジブリ展」が開催される。

1年の終わりと始まりに「自分」と「世界」を見つめてみる「EPSON teamLab Borderles」

2018.12.29 Vol.713

MORI Building DIGITAL ART MUSEUM: EPSON teamLab Borderles

 2018年6月21日にお台場にオープンし、わずか3カ月弱で来場者数50万人を突破した「MORI Building DIGITAL ART MUSEUM: EPSON teamLab Borderless(森ビル デジタルアート ミュージアム:エプソン チームラボ ボーダレス)」。11月28日に行われた来場者100万人突破記念セレモニーではオーストラリアから来たNikky Parkerさん一家が記念すべき100万人目として何度も無料で入館できる「Borderlessパスポート(非売品)」を贈呈された。  日本全国からはもちろん海外からの観光客にも人気のスポットとなった同館。館内の作品はどれも、それぞれの世界を表現しているようでいて、実は作品それぞれの間には境界がない。ある時は作品が“部屋から出て”移動したり、他の作品とコミュニケーションして影響を受け合ったり。境界のないアートに全身を没入させて1万㎡の、複雑で立体的で変化し続ける世界に触れてみて。

新たな発見があるかも 長島 大三朗写真展「solitarational singularity ―孤独における特異点―」

2018.12.09 Vol.web Original

 最近注目されている写真家・長島 大三朗。彼の考案した造語「solitarational singularity」(孤独における特異点)をテーマとし、彼が自分自身との対話の中で発見した“特異点”を写し撮った40点に触れる写真展。  機材にトイカメラを採用するなども興味深い。長島 大三朗の日常を切り取る視点の見事さを改めて感じることができる写真展だ。
長島 大三朗 1986 新潟生まれ。 2012年、第60回ニッコール・フォトコンテストにおいて、 "GENZABURO my grandfather"が、モノクローム部門準特選に選出。 2013年 写真展 「重力との邂逅」中目黒 CAMARADA 2015年 写真展 「GENZABURO my grandfather」 ROONEE 247photography

1年の終わりと始まりに「自分」と「世界」を見つめてみる 川島秀明展「Youth」

2018.12.08 Vol.web Original
 2001年アーティストとしての制作活動を開始して以来、世代を代表するアーティストとして注目を集め、国内外でも評価されている川島秀明の個展。  活動初期より、一貫して自意識と向き合い、人の顔と、そこに現れる繊細で複雑な感情を描き続けてきた川島。その作品は常に静謐さをたたえているが、見る者は画面に広がる色のグラデーションの巧緻さや、描かれている人物の目や表情に強く引き込まれ、自分とのつながりを覚えてしまう。  今回、発表された新作では初めて画面に2人、3人と複数の人物が描かれ、さらに背景までも描かれている。これまで同様、自分を投影した人物であることに変わりはない、という川島。しかし画面に複数の人物が登場することで「従来のように鏡に映った虚像そのものを描くという感じから、その虚像を見ている自分を描くという、幾らか客観的な視点が混じっている気がします」と語っている。  本展のタイトル「Youth」に関して、川島は、自分が描いているものは、その当時(10代のころ)へのわだかまりではないかと思い当たった、と語る。若いころの自意識とナルシシズムをどこかに置いてきた大人たちも心を揺さぶられずにはいられない。

感じてみよう“美術のちから”『カタストロフと美術のちから展』

2018.11.22 Vol.712
 2003年の開館記念展では「幸福」をテーマにした「ハピネス」展を、10周年を迎えた2013年には「愛」に注目した「LOVE展」を開催してきた森美術館が、15周年を迎える記念展にとりあげたテーマは「カタストロフ(大惨事)」。負を正に転ずる力学としての「美術のちから」について注目し、その可能性を問いかける。  本展ではベテラン作家から気鋭の若手まで、国内外を問わず40組の作品を展示。近年日本でも注目を集める、作品や活動を通して社会に変革をもたらすことを目指す「ソーシャリー・エンゲイジド・アート(SEA)」として、オノ・ヨーコや宮島達男による鑑賞者参加型の作品や、社会的メッセージが込められた美術作品の良作を紹介。また、東日本大震災を契機に制作されたChim↑Pom、トーマス・デマンド、池田学など約10作家の作品を紹介し、風化しつつある震災の記憶をよみがえらせ、議論の再燃を目指す。  マスメディアとは別の観点、手法によってカタストロフと向き合うことで、新たな可能性を切り開いてきた“美術のちから”に今一度、着目したい。

感じてみよう“美術のちから”「ブルーノ・ムナーリ — 役に立たない機械をつくった男」

2018.11.17 Vol.712
 20世紀イタリアを代表する美術家ブルーノ・ムナーリ(1907-1998)の作品約300点がそろう、日本初の本格的な回顧展。絵画、彫刻、グラフィック・デザイン、インダストリアル・デザイン、絵本、著述、さらには子どものための造形教育にも力を注いだ、多岐にわたる彼の活動を9つのパートに分けて紹介。初期の絵画や代表的オブジェ《役に立たない機会》を展示するプロローグに始まり、うち7つのパートは、ムナーリが1985年に東京のこどもの城で行った、子供のためのワークショップにヒントを得て、テーマを設定している。エピローグでは、ムナーリが開発した遊具を実際に手に取って遊ぶことができるコーナーとなっている。  色彩と触覚だけで物語を想像する、文字の無い絵本《読めない本の試作》や、縞のある石に自転車を描き、白い縞を道に見立てた《みたての石》など、彼のアートはごくシンプルな発想から生まれ、大人も子供も誰もが親しみながら、想像力をかき立てられるものとなっている。  また会期中は国際的に活躍するイタリア人振付家・演出家のルカ・ヴェジェッティがムナーリに捧げるパフォーマンスなどイベントも実施。

アートで気持ちもカラフルに!「写真展「木村伊兵衛 パリ残像」」

2018.10.25 Vol.711
 戦前そして戦後の日本を代表する写真家・木村伊兵衛。彼が1950年代のパリで写し撮った、人と街の表情を通して、当時のパリの魅力に触れる写真展。  戦後間もない日本では海外渡航がきわめて難しく、芸術の都パリは遠い遙かな夢の世界だった。1954年、初めて念願のヨーロッパ取材が叶った木村伊兵衛は、ライカのカメラと開発されたばかりの国産カラーフィルムを手に渡仏。そこで写真家アンリ・カルティエ=ブレッソンやロベール・ドアノーと出会い、生きたパリの街並みと下町の庶民のドラマを目の当たりにした。本展では「パリの街角」「素顔のパリっ子」「安らぐパリ」「華やぐパリ」の4つの構成でカラー作品131点を展示する。  念願のパリに渡った木村の視点はもちろん、木村作品のなかでは珍しいカラー表現の知られざる魅力、そして現代では失われた50年代半ばのパリの街角の光景も、興味深い。  モノクロのリアリズムで昭和の日本をとらえてきた木村伊兵衛。そのイメージを新たにしつつ、パリを舞台に日常を切り取る視点の見事さを改めて感じることができる。

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