小池百合子のMOTTAINAI 対岸の火事では済まされない中東の問題

 40年以上中東に関わってきた私だが、これほど荒れた中東を見るのは初めてです。最近特に驚いたのはUAEがリビアのイスラム勢力に対して空爆を実施したというものだ。リビアは3年前にカダフィ政権が崩壊して以降内戦状態にあり、最近イスラム系勢力が力を増してきていた。UAEが近隣国の政治問題に表だって介入することは稀だが、今回の空爆は、イスラム勢力が中東全域で力を増し、自国の体制にまで影響が及ぶことを防ぐのが目的とみられる。


 また、「イスラム国」を名乗るイスラム教スンニ派の過激派組織の勢力拡大が止まらないことだ。「イスラム国」はアルカーイダ以上に凶暴と言われ、先日はアメリカ人ジャーナリストの処刑の映像をインターネット上で公開、その残忍さに世界中が大きなショックを受けた。処刑を行った人物がイギリスの若者だったことも衝撃であった。実際に、イギリスからシリアやイラクに渡り戦闘員となった者の数は500人を超えるとも言われる。ロンドンを拠点のひとつとしてイスラム過激派による宣伝活動が展開されており、これも欧米諸国の懸念材料のひとつとなっている。


 この二つのニュースの背景には、アメリカの中東におけるプレゼンスの低下が指摘される。内向き志向を強めるオバマ政権は、「アラブの春」後の中東の混乱、シリア内戦において有効な対応をとってこなかった。ところが、そのアメリカが8月に入りイラクへの空爆を開始し、ここにきてシリアへの空爆の可能性も出てきている。しかし、内戦状態に陥ったシリアへの軍事介入は2年前から米国内で出ていた議論であり、”too late”と言わざるを得ない。アメリカが当初より穏健なシリアの反体制派を積極的に支援していれば、「イスラム国」の台頭を阻めていたかもしれないからだ。


 その「イスラム国」が目指すのは領土的広がりを持つイスラム世界の統一だが、その根底にあるのは、1916年のサイクス・ピコ協定への激しい反発である。イスラムの世界にはもともと「ウンマ」と呼ばれる共同体の概念があるが、これを無視し、西欧列強がオスマン帝国を一方的に分割、アラブ諸国の国境線は机上で直線によって決められた。先月、「イスラム国」が住民らにパスポートを発行したと伝えられたが、そこからもこうした反発が見て取れる。


 先般、シリアに飛び込んだ日本人男性が「イスラム国」に拘束される事件も起こっているが、中東の問題はわが国にとっても対岸の火事では済まされない。この地域を真に理解できるかどうかは、わが国にとって死活的に重要な問題だ。わが国の中東地域の研究者の育成こそが急務である。


(衆議院議員/自民党広報本部長)