映画『キセキ ―あの日のソビト―』松坂桃李 × 菅田将暉

歯医者で歌手! 2つの夢を追いかけた兄弟のキセキ。

松坂桃李と菅田将暉がダブル主演するのは、メンバーが現役の歯科医であり、覆面で活動しながらも絶大な人気を誇るボーカルグループGReeeeNの代表曲『キセキ』誕生にまつわる話を描く話題作。監督は、是枝裕和監督作で助監督を務めてきた兼重淳。歯医者と歌、2つの夢を追いかけた“ソビト”たちの絆とは…。

撮影・蔦野裕 松坂桃李 ヘアメイク・高橋幸一(Nestation)/スタイリスト・ 伊藤省吾(sitor)/衣装・ブルゾン5万1800円 ハバノス(HEMT PR:03-6427-1030)、Tシャツ7000円 レミ レリーフ×アメリカンラグ シー(アメリカンラグ シー 渋谷店:03-5459-7300)、パンツ6万4000円 チャビー・ブラザーズ(チャビー・ブラザーズ:03-5772-1268) 菅田将暉 ヘアメイク・INOMATA(&'s management)/スタイリスト・ 伊藤省吾(sitor)/衣装・ソックス3500円 ヨシオ クボ(ヨシオ クボ:03-3794-4037)/スニーカー7800円 ヴィンテージ(ラボラトリー / ベルベルジン:03-5414-3190)

松坂&菅田は“適当”な関係!?

 GReeeeNのプロデューサーを務めるジン役に松坂、その弟でグループのリーダーを務めるヒデ役に菅田という実力派のW主演が実現した本作。松坂と菅田ともに、互いが相手役で本当に良かったと口をそろえる。

松坂桃李(以下:松坂)「今回は特に兄弟役なので、つくづく菅田がヒデ役で良かったと思いました。彼とでなければ、この兄弟の空気感を出すのは難しかったんじゃないかと思います」

菅田将暉(以下:菅田)「桃李くんとは何度も共演しているんですが今回は兄弟役ということで、しかるべき時が来たなと思いました。きっと桃李くんと僕はそういう定めにあるんでしょう(笑)。4?5年に1度、何かを確認するかのように一つの作品をともに作るということをずっと続けていくんじゃないかな」

『王様とボク』『麒麟の翼~劇場版・新参者~』『ピース オブ ケイク』と共演を重ね、プライベートでも絆を深めていたのかと思いきや…。

松坂「お互いの距離感は最初のころとまったく変わらないんですよ。今回もいろいろ話しましたけど全然変わってないと思います。連絡先は知っているけど、やりとりしたことはほとんど無いし、プライベートで会ったこともないし」

菅田「4〜5年、連絡とっていなかったですよね」

松坂「とってないね。電話番号とか変わってるんじゃないかな」

菅田「変わってるかも(笑)」

松坂「それくらいの関係なんです。なのに菅田とは互いに相手を適当に扱うような距離感を出せるんです」

菅田「2人がどういう関係かというと“適当”なんですよね」

松坂「そう。すごく適当な関係(笑)。“いい加減”じゃないですよ、“適当”なんです。今回も、それがあったからこそ、この兄弟の空気感をスタートから出すことができたんだと思います。劇中ではジンとヒデのセリフのやりとりはそんなに多くなく、どちらかというと無言のやりとりというか、空気で感じ取っている姿を監督が切り取ってくれている。しかもそれがけっこう重要なシーンだったりするんです。こういう空気は頑張って作ろうとしても作れるものではないんですよね。そんな男兄弟ならではの距離感も、よく出ているんじゃないかなと思います」

 実は2人とも、自分自身と役どころの兄弟関係がまったく違う。

松坂「ウチは姉と妹で、男兄弟はいないんです」

菅田「僕は実際には弟が2人いる長男ですけど、普段から弟役が多いんですよね。これまでいろいろな方を兄に持ちましたけど(笑)、そのなかでも桃李くんは同じ事務所の先輩ということもあり、実際に兄貴分なんです。本作は、会話じゃない部分で通じ合っている兄弟愛の話でもある。それを表現するのは雲をつかむような難しいことだったりするんですが、兄役が桃李くんだと聞いた瞬間にそれなら何の心配もいらないなと思いました」

 その言葉通り2人はしっかり互いの中に兄、弟を見出していたようだ。

松坂「グリーンボーイズの面々といるときなんか、確かに弟キャラだなと思うことがありました。空き時間に、他の3人を引っかき回すだけ引っかき回しておいて自分はふいといなくなって、他のみんなは汗びっしょり、みたいな(笑)」

菅田「みんなが楽しくなるものを提供するのが好きなんです。こうやったら楽しいよ~、と遊びを提供して、みんなが盛り上がっている間に、自分はまた違うことをしてるという(笑)。一方で桃李くんと現場でしゃべったことは、ほとんど無かったんじゃないかな。でもそれが兄っぽいというか。無言でいられる関係性。たぶん桃李くんとは、無言でも普通にずっといられると思う」

撮影・蔦野裕

演じたJIN、HIDEに似てる!?

 物語のモデルとなったGReeeeNのJINとHIDEとも対面した2人。

松坂「あの2人の会話って、まるで漫才みたいなんです。JINさんがバーッとしゃべって、それにHIDEさんがボソッとツッコむ」

菅田「あれは完全にボケとツッコミでしたよね」

松坂「そう。その関係性が本当に面白くて。2人がしゃべっている姿は、ずっと見ていられると思った」

菅田「食事会だったんですけど、あのとき本当に面白かったですよね」

松坂「おそらく、あの2人も普段からしょっちゅう会ってるわけでは無いと思うんです。HIDEさんは普段は歯医者の仕事もあるし、GReeeeNの仕事以外、プライベートではほとんど会わないらしいですけど。会えばああしてずっと話していられる」

菅田「あの2人の兄弟感、僕は他に見たことがないかも。友達っぽいんだけどそれとも違っていて」

松坂「一見、友達のようなノリなんだけど、やっぱり兄弟なんだよね」

菅田「僕の兄弟は年も離れているので喧嘩もないし、弟もお兄ちゃん子。今はもう、バッシュー買って~、はい~って関係(笑)」

松坂「金づるだ(笑)。あの2人はそんなに年も離れてないから、というのもあるのかもね」

 実際にJINとHIDEの兄弟感を目の当たりにして、改めて今回の配役が適役だったことに気付いたという。

菅田「もちろん人としては全然違うんですけど、どこかJINさんと桃李くんは似ているなと思うところがあるんです。実際に、なんか似てるよねという話をHIDEさんと僕はしてたんです。そういう話をしているということは、たぶんこっちも似ているんでしょうね」

松坂「うん、似てる」

菅田「それが決定的に出た瞬間があったんです。せっかくだから4人で写真を撮ろうということになったんですけど、その際“いいっすねー”と真っ先に立ち上がったのがJINさんと桃李くん。どこで撮ろっか…と言いながら、それを見ているHIDEさんと僕(笑)」

松坂「確かに、似てると思った(笑)」

菅田「それぞれ、テンションの上がり方が似てるんですよね。あれは、ちょっとキセキな瞬間でした」

撮影・蔦野裕

本気で聴いて歌った『キセキ』

 ジンはメタルバンド・ハイスピードのボーカル、ヒデはグリーンボーイズのメインボーカル。2人とも本作では本格的な歌唱シーンに挑戦。

松坂「歌は苦労しました。実は、これまで僕はそこを避けてきたんですけど…今回はふたを開けてみたら歌っていて半ば、やられた感があったんですけど(笑)。作品にとって必要な事なので、やらせてもらいましたが大変でした。ボイストレーニングにも通ったんですが、やればやるほど歌を歌う人、音楽をやっている人のすごさを実感しました。彼らは無数の音を使い分けながら一つのメロディーを作り上げていく。これまで何気なく音楽を聞いてきたけれど、アーティストというのは本当にすごいことをやっているんだとつくづく思いました。音楽の凄さと難しさを同時に実感しました」

菅田「僕はすごく楽しかったです。もちろん大変ではありましたけど。今回、初めてレコーディングを経験したんですが、素人ということもあって1曲6時間くらいかかりました。ただ気づかされることもたくさんありました。耳に入ってくる音と、自分たちが歌って出た音とは、微妙に誤差があることとか。自分では気づけていないものがたくさん見えてくるんです。その視野の広がり方がハンパじゃなかった。今回は息つぎのタイミングから、歌い方、滑舌などできうる限りのことをやっていったんですが、あの細かい作業は本当に楽しかった。初めて一つの曲をまるごと、ちゃんと聴いたんだなと思いました。今までは、メロディーラインとテンポ、ボーカルの声くらいしか聴いていなかった。それを今回は、ベースやパーカッションの音、コーラスの音も聞きながらグルーヴを作っていくという丁寧な作業をして。カラオケも圧倒的に上手くなりました(笑)。ただ今回一番大事なのは、いかにグリーンボーイズの4人が楽しく、自然にはしゃぐことができるか、ということだったと思います。結果、目指すところにはたどり着いたと思う。河原でギター一本で4人で歌う場面は、僕らはいつ撮られているのか分かっていなかったんです。自然にやっている姿を監督に切り取ってもらうという感じでした。そういう青春映画はここ最近、無かったように思うし、ニュートラルな青春ものを作りたいという思いがありました。今回、それができたのが一番すごいことじゃないかと思います」

 そんな実体験を経て、改めて感じたGReeeeNの楽曲の魅力とは。

松坂「それは歌った菅田が一番よく分かっているんじゃない?(笑)」

菅田「GReeeeNの曲は“いかつい”んです。まず、息つぎが本当に大変。僕は未だに『キセキ』をカラオケでもフルで歌いきれないんです。あと音の取り方も難しい。同じテンポのなかにもミュートだなんだと、いろんな音の取り方がある。実際に歌ってみる前は、キラキラしていて青春感にあふれた、遠い存在の曲のように感じていたんですけど、入り込んで見ると、けっこう血まみれで泥臭い印象を持ちました」

松坂「JINさんは“明日、今日よりも好きになれる”という歌詞の意味がまったく分からないと言っていました(笑)。“これがいいんだよ”“こんなんじゃプロデューサーとしてOK出せない、書き直せ”と、本当に兄弟で大ゲンカしたそうです。兄弟だからこそ、かつお互いが同じ世界の人間だからこそ、相まった太いやりとりがあるから、力強い曲と心に響く歌詞が出来上がっていくんだなと思いました。ただJINさんはいまだに納得していないと言ってましたけど(笑)」

2人の“ソビト”が歩む道

 まさに現在進行中の物語。だからこそ自由で、無限の可能性を感じられる作品。映画のタイトルにある“ソビト”とは、本作の主題歌にもなっているGReeeeNの新曲のタイトル。言葉そのものは彼らの造語で、漢字表記は「素人」または「空人」。 自由に新しいことに挑戦していく人を意味している。 

菅田「僕はこの漢字のあて方が好きですね。素の人と書くと素人になる。素人であること、無知であることは最強だと思うんです。何も知らないからこそ自由な気持ちで表現できることがある。グリーンボーイズもそうですけど、もともと彼らは音楽の素人でした。単純に自分たちの音楽を楽しみたいとやってきたものが、人の目に触れ、人の心に響いた。たぶんそれがソビトなんでしょうね。その感覚は役者にとっても大事なことだと思います。もちろん自己満足ではいけないけど、楽しいと感じることは大切。最近は僕もデビューしたころに比べて、役者の楽しさを実感できるようになった気がします。撮影中は大変でも、後から楽しかったと思うことができる。ちょっとは成長したんですかね(笑)」

松坂「俳優の仕事は、毎回新しい役、新しい現場と向き合うものなので、同じものは何一つ無い。役者というのは、挑戦の連続なんだなと思います。そのなかで、どれだけ自分のベストを出していけるか。でも、どんな人もそれは同じじゃないかとも思います。夢をあきらめずにつかみ取った弟と、夢に折り合いをつけたことで自分を生かせる居場所を見つけた兄。どちらも正しくて、間違ってはいない。これでやっていくんだと自分で決断して一歩踏み出した先に、その人の正解があるんだと、改めて教えてくれた作品だと思います。僕は、この作品を若い世代だけでなく大人世代にも見てもらいたいと思うんです。社会人になると、子供のころに思い描いていた夢とは違う現実が待っていたりする。でもそこに生きがいを見出すことができれば、それがその人の正解になると思うんです」

 GReeeeNが歌に込めた思いを、スクリーンいっぱいに受け取ることができる、キセキが詰まった青春映画。
(THL・秋吉布由子)

©2017「キセキ -あの日のソビト-」製作委員会
『キセキ ―あの日のソビト―』

監督:兼重淳 出演:松坂桃李、菅田将暉、忽那汐里、平祐奈、横浜流星、成田凌、杉野遥亮 他/1時間51分/東映配給/1月28日より全国公開  kiseki-movie.com