【インタビュー】『夫のちんぽが入らない』から『詐欺の子』まで中村蒼が「挑む」理由


大反響のNHKスペシャル『詐欺の子』で知った詐欺犯たちの心理



 そんな中村が挑んだ、もう1つの挑戦的な作品『詐欺の子』が、先月テレビ放送され大きな反響を呼んだ。いわゆる“オレオレ詐欺”と呼ばれる特殊詐欺で昨年、逮捕された少年少女の数は過去最高となる754人。特殊詐欺に加担する若年層が増えているという現状を、実際に起きた複数の事件をもとにドラマとドキュメントで描き、詐欺に手を染める若者たちの姿を通して特殊詐欺が無くならない現代社会の背景に迫った作品だ。

「本作はドキュメンタリーとドラマで構成されているので、実際の関係者たちの証言など脚本の文字からもリアルに伝わるものがありましたし、なぜ特殊詐欺が無くならないのか、その舞台裏にもしっかり迫っているところや、映画やドラマのように最後に“救い”を用意して終わることなく、現実と向き合い、問う視点も興味深く感じました」

 同作で中村が演じたのは若い“受け子”たちをまとめる“かけ子”のリーダー大輔。証言映像には、そのモデルとなる元詐欺犯も登場する。

「ディレクターさんを通して、実際はどんな感覚だったのか当人たちの話もいろいろ聞きました。怖いなと思ったのは、真面目に働いている今でもふと当時はこれだけの時間でどれだけ稼いでいたかということを考えてしまう…と。その人は更生してお金もすべて返済し終わって普通に働いているんですけど、まだときどき当時を思い出すんだそうです。人の欲というのは計り知れないんだなと思いましたね」

 その“欲”にとらわれた大輔の心情に迫るのはとても難しかった、と振り返る。

「いつもはある程度、共感や理解を持って演じているんですけど今回は大輔のことをなかなか受け止めることができなくて。報酬をもらうシーンでは、リハーサルのときに、大金を前に疑問を抱えている表情を演じてしまったんです。監督から“やっとこれだけの金を稼ぐことができたという達成感を表現して”と言われ、そうか、大輔にとって詐欺行為はすでに“仕事”になってしまっているんだ、と改めて怖さを感じました」

 濱津隆之が演じるオーナーに言いくるめられていく若者たち。

「電話をかけてすぐ何百万というお金を用意できるところからもらって何が悪いんだとか、それを自分たちが使って世の中に還元するとか言われて、大輔たちはその通りだと思ってしまう。でも、どんな理屈をつけようと、お金をだまし取ることがいいことになるわけが無いんです」

 しかし大輔や中学生の和人たちは、自ら詐欺の世界に入り込んでいってしまう。

「僕もずっと、なんで特殊詐欺が減らないのか不思議に思っていたんですけど、本作を通して、詐欺グループが完全に組織化されていることや、裏で不動産会社とか名簿を販売する会社とつながっているケースもあるなど、実際に電話をかけたり受け取っている人とは別に、それを支えている人たちがたくさんいるという現実を始めて知り、腑に落ちました」