羽生結弦が憧れるスケーター、ジョニー・ウィアーが来日イベントで涙「ファンと共に歩んできた」

日本の百貨店でゲットしたドレス。ファッションセンス抜群で、羽生結弦の衣装を手がけることでも知られる

オリンピアンが語る、ジョン・カリーのすごさ



「皆さん、こんばんはー!ジョニー・ウィアーです」

 流暢な日本語で登場したウィアーに、会場は大歓声の嵐。色鮮やかなピンクのドレスを颯爽と着こなし、訪れた約600人のファンを楽しませた。冒頭、「映画を見てくれた皆さんに感謝します。この映画は、フィギュアスケートだけなく、自分らしさを求める人にとって大切な映画です」と作品のメッセージを伝えた。

 まず、本作のオファーを受けた時についてウィアーは、「私自身は現役の終わりに差しかかっています。今はどちらかというと、フィギュア界に貢献したいという気持ち。これまで多くの仲間に支えられてきたので、この話を受けた際は迷わず受けました」と、当時を振り返った。

 自身もジョン・カリーから影響を受けたというウィアー。同じスケーターとして、ジョン・カリーの優れた点は、「細部にまでこだわる完璧な姿勢」と「巧みな感情表現」だとした上で、「軌跡を残すということ。音楽や衣装、振り付けに至るまで、どんな困難な状況にあっても、人を楽しませることを重視して、クリエイティブなものを残していた」と分析。

 現在もジョン・カリーの思いを引き継いでいるスケーターは、長年の友人、ステファン・ランビエールだとし、さらに「そのステファンの影響を受けているのは、町田樹や宮原知子。ジョンには直接会えないけど、今の世代も間接的に影響を受けているのでは」と日本人スケーターについても口にした。
自身のセクシュアリティをオープンにできたのは、ジョン・カリーのおかげだと語ったウィアー

五輪での心ない質問



 本作では、ジョン・カリーのセクシュアリティについても描かれている。自身もLGBTQの当事者であるウィアーが、その経験を語った。「2006年、初めてオリンピックに出たとき、唯一の質問がセクシュアリティのことだった。オリンピック競技者として質問を受けていたのに、とても悲しかった。その4年後、バンクーバーオリンピックでは、カナダのコメンテーターが「ジョニー・ウィアーに性別テストをしよう」とコメントして、物議を醸した。それが、9年前の話。世間は何も学んでいなかったと感じて、とても残念だった」と、苦しかった胸の内を明かした。

 2011年に自叙伝で同性愛者であることをカミングアウトしたウィアー。「私は強い性格なので、何を聞かれても胸を張って答えることができる。でも、周りには、そこまで強く言えない人たちもいる。そういう人たちをサポートしていきたい」と、穏やかな中にも力強い意思を垣間見せた。
日本のファンに感謝を伝えるウィアー

引退表明で実感したファンの愛



 トークの終盤には、涙を見せる場面も。2022年でのスケーター引退を表明しているウィアー。話はウィアーのスケート人生に及んだ。「私は雪が降ったら外に出られないような、小さな集落から生まれたオリンピック選手。そんな私が実績が残せたことを、誇りに思っています」と幸せなスケート人生を振り返った。

 それと同時に芽生えたのは、ファンへの感謝だったという。「引退を表明後、たくさんの手紙をいただいて、今までファンの皆さんと共に歩んできたのだと実感した。成功も失敗も支えてくれたファンに感謝している。自分が退いたら、今度は、若手スケーターがその場に立つ。私はそれを横で見守る立場になると思うが、自身の新しい挑戦も楽しみにしている」と、涙を拭いながら、ファンへの感謝とスケート界への愛を語った。

 イベントの最後には、ウィアーから日本のファンへメッセージも。「ファンの皆さん、スケート界を支え続けてくれてありがとうございます。ジョン・カリーのような人がいたから、今のフィギュア界があります。これからも変わらずよろしくお願いします。どうぞ良い夏を」と締めくくり、笑顔でステージを後にした。

 氷上で輝くジョニー・ウィアーが、日本のファンの前でここまで話すのは、実は初めてのこと。はじける笑顔の裏に隠された苦悩や、強い意思、溢れるスケート愛。まさに「フィギュアスケーターに歴史あり」と思わせる時間だった。

 映画『氷上の王、ジョン・カリー』は現在、全国公開中。
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