【区長に聞く】今年は警備員が出動。かかる経費は約一億円。 長谷部健渋谷区長が語るハロウィーンへの願いと対策

撮影・蔦野裕


 「やるからには世界に誇れるようなハロウィーンにしていただきたい」

 そう長谷部健渋谷区長は語る。「ハロウィーン路上飲酒規制条例」は、区長が認める特定期間中に、渋谷駅周辺での路上飲酒を含む迷惑行為を禁止する条例だ。路上飲酒以外にも、「音響機器などで大きな音を出す」、「街路灯にのぼる」などの迷惑行為も禁止。カウントダウンといった大型路上イベントにも適用される条例だが、意外なことに罰金などの罰則規定は定めていない。

 「行政がルールを決め過ぎて自由さを損なわせては元も子もありません。ハロウィーンやカウントダウンなどのイベントは、渋谷を愛する思いを共有しながら、参加者が作り上げていくことが望ましい。ただし、モラルやマナーは守ってください、ということです。今回の条例で罰則規定を定めなかったのは、そういった思いからです。参加者の皆さんは、自制という意識を持っていただいた上で、安全かつ秩序のあるハロウィーンを作り上げてほしい」(長谷部区長、以下同)

 モラルを守ることができず、昨年のような事態に陥れば、当然、条例改正もありえる。「今回は試金石になる」と長谷部区長が話すように、罰金や有料化といった議論が再燃するか否かは、今年、渋谷でハロウィーンに参加する“あなたたち自身”に委ねられているのだ。

渋谷センター街にはハロウィーンに向け街灯広告を設置。「SHIBUYA PRIDE SHIBUYA HALLOWEEN」のフレーズとともに、著名人がメッセージを綴っている。
 「もちろん何が起こるかは分からない。そのため渋谷区は、26日の土曜日と、ハロウィーン当日の31日の二日間、民間の警備会社に委託し、主要なエリアに警備員を配置します」

 警備を含め、簡易トイレ設置など安心・安全なハロウィーンを実現するために、およそ一億円がかかるという。財源は、渋谷区の税金だ。

 「本来であれば区民のために使うべきお金を、 渋谷区外から参加されるだろう多くの方々のために投じなければならない。本音を言えば、私たちもこのようなお金の使い方はしたくない。ハロウィーンに参加される方は、そういった点も理解していただきたい。一人一人がモラルある行動を取れば、こういった措置を取る必要はなくなるのですから」

 路上飲酒を防止するために、渋谷区はドン・キホーテや周辺のコンビニ各店で、アルコール類の販売の自粛を要請する。「法的な強制力はないため、草の根で理解を得ていくしかない。ドン・キホーテさんは大々的な協力を約束してくれています」と話すように、渋谷のハロウィーン健全化に向けて、多くの協力が必要となる。当日まで、店舗やハロウィーン参加(予定)者への呼びかけも続ける。ひとえに、楽しい渋谷のハロウィーンを実現させるためだ。

 たしかに、路上飲酒禁止にしたところで、飲食店などでお酒を飲めば「同じじゃないか」と声を挙げる人もいるだろう。だが、それらすべてを禁止にすることや、そもそもハロウィーン自体を禁止にする前に、「渋谷のハロウィーンを世界に誇れるような東京の新名物にできないか」という視点があってもいいはずだ。ただでさえ日本のナイトタイムエコノミーは弱い。モラルのあるハロウィーンであれば、渋谷駅周辺の夜間の消費拡大にも期待できる。ただし、繰り返すが“守るべきものを守れない”参加者がいる限り、それは叶わない。参加者に未来の選択が委ねられているのだから、実験的な取り組みと言える。



 また、昨今増え続けるインバウンドについても、「国に、特定期間中は渋谷駅周辺でのアルコール類の販売禁止を、事前にアナウンスするようにお願いしている。渋谷区も、その旨を随時、多言語かつさまざまな手段で発信していく予定」と語るように、水際対策にならないように動いている。

 「ハロウィーン翌日の渋谷の朝は、一年の中でもっとも渋谷駅周辺がきれいなんですよ。ボランティアの方々が、ハロウィーン後の渋谷を憂慮して、早朝から清掃をしてくれるんですね。渋谷には、そういった“渋谷が好きな人”“渋谷を愛する人”がたくさんいる」

 2015年から、渋谷区は「渋谷ごみゼロ大作戦」を展開し、ハロウィーンに備え、駅周辺各所にゴミを捨てるエコステーションの設置や、フィッティングルームや仮設トイレも用意してきた。それらはボランティアを含め、渋谷を愛する人々によって、渋谷を快適に楽しんでほしいとの思いから対策されてきたものだ。背景も知らず、甘えるだけ甘えた無法者が暴れ、いよいよ今年は民間の警備会社が出動する事態になっていることを、今一度、再考してほしい。

 「数年後、このような条例はなくなっていてほしい」。そう長谷部区長は笑う。

 渋谷のハロウィーンをポジティブな風物詩にできるか否かは、参加する一人一人の気持ち次第だ。


(取材と文・我妻弘崇)

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