徳井健太の菩薩目線 第70回 「コロナがルールを変えることで、テレビはきっと面白くなる


 コロナの影響は、いたるところに出ていて、どちらかといえば悪いニュースをよく耳にする。ただし、中にはコロナの“おかげ”と言っていいような、事態を好転させそうな雰囲気を醸し出しているケースもある。その一つが、テレビ。最近、テレビが面白くなっている気がする。

 コロナによって、企業の広告費は縮小していくことが予想される。当然、テレビ番組も影響を受ける。これまで10人ほど出演していた番組は、ギャラを削りたいがために、演者の数を減らすようになるだろう。いつだって困ったら人件費から削るもんだ。加えて、ソーシャルディスタンスの視点から、人材を限らざるを得ない。完全にルールが変わった。

『ダウンタウンDX』 を見ていると、その日の出演者は千鳥さん、 EXIT、三代目 J SOUL BROTHERSの2人(山下健二郎&ELLY)の6人。つまり、ダウンタウンさんを入れても8人――、10人以上出演者がいることが当たり前だった同番組からは考えられないほど、圧縮されていた。

 バラエティー番組の多くは、事前にスタッフへのネタ出し的な意味合いも兼ねてアンケートを書くケースが多い。 そのアンケートの中から、「スタジオで何を話すか」ということを決めていく。

 人数が多くなれば多くなるほど、一人当たりのトーク内容や時間が計算され、無駄のない収録を行うようになる。余白も生まれづらくなり、トークの応酬といったものも制限されがちになる。舞台でフリートークの上手い芸人が、必ずしもテレビで通用しないのは、このためだ。テレビのトークには、テレビのルールが適用される。破壊力のあるパンチを打てる芸人よりも、ジャブとスピードを生かして戦える器用な芸人のほうが適応力が高く、向いているところがある。

 ところが、ルールが変わった。人数が減ることで、この慣例も変わるかもしれない。舞台、テレビ関係なく、芸人本来の面白さがもっと染み出してくるかもしれない……そんなことを『ダウンタウンDX』 を見ていて思った。気持ちが良いくらい会話が跳ねていたんだよね。ダウンタウンさん、千鳥さんという圧倒的な安定感があるからこそかもしれないけど、EXITも三代目 J SOUL BROTHERSも生き生きとして、うねりが伝わってきた。

 即興の余地が生まれれば、“強パンチの連打しかできない”、“相手に接近して←↙↓↘→のコマンドを入れるしかない”、そんなパワータイプの芸人でもプレイアブルキャラクターとして起用されやすくなる。モンスターエンジンや天竺鼠、藤崎マーケットなどは、強パンチしか使わないままテレビから去っていった。が、コロナによるルール改正で彼らのラウンド2が始まるんじゃないかと、心臓がバクバクしている。

 若手芸人たちにも追い風が吹く。ギャラも安いだろうから、広告費や制作費が減少していくテレビにおいて、非常に使い勝手の良い心強い存在になるに違いない。そもそも若手は、中堅、ベテランが忘れてしまったアッパーとストレートを次々と放つから魅力的なんだ。無理をして足を使い始めることを覚えていた彼ら彼女らが、素直にパンチ力に磨きをかけられるようになると、末恐ろしさしかない。

 俺は、自身の世代を“お笑い氷河期世代”と呼んでいる。どうあがいても俺たち世代は、一生売り手市場とは縁がないようだ。と言っても、一手を打たないといけない……けど、読むことはしてもその一手を今まで打たないで、今日にいたる。さて、どうしたもんかな。

 今、あらゆるものが過渡期だったり、変革期だったり、端境期を迎えている。その中で、テレビ番組はどう変わっていくんだろう。例えば、リモート出演が増えているわけだから、ワイプの存在も再考されるに違いない。ワイプがなくなってきたら、間違いなくテレビは、違う局面に入ったと見なしていいんじゃないかな。

 テレビ番組は、人気が落ちてきたときに新しい企画を打ち出すわけだけど、その新しい企画が人気番組の真似事をやり始めたら黄色信号だと思っている。

 では、人気が落ちてきたときはどうすればいいのか? 俺は、無理に新しいことをするのではなく、原点回帰をすることのほうが大事だと考える。これは人生においても、同じことが言えるような気がする。

 登山の途中、道に迷って進むべき方向が定かではないとき、進むのではなく、今まで歩いてきた道を引き返したほうがいい。高みにたどり着くわけではないから、成長はないかもしれない。でも、生還できる。再び登山口に戻って、温泉にでも浸かって、「さてどうしたもんかな」なんて考えたほうが、やり直しがきく。

 道を見失っているにもかかわらず、どんどん深みに入っていくと遭難する。もし自分が何をしていいか分からなくなったら、自分の足跡を見て、その足跡通りに道を戻ればいい。 俺は何かをほめたいから、「求められても否定しない」ことだけは気に留めて、氷の中で右往左往しようと思う。
【プロフィル】(とくい・けんた)1980年北海道生まれ。2000年、東京NSC5期生同期・吉村崇と平成ノブシコブシを結成。感情の起伏が少なく、理解不能な言動が多いことから“サイコ”の異名を持つが、既婚者で2児の父でもある。吉本興業所属。
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