“儲かる”畜産にするために。プレイヤーが増えれば、日本の家畜市場は盛り上がる

テクノロジーによって豚を個体認識し、成長度を数値化する
 現在、コーンテックはさらにテクノロジー化を推し進めるべく、畜産農家の協力を得て新たな挑戦を展開中だ。サーモグラフィーや行動センサーといったIoT機器を活用して、家畜の「体重」「体温」「外気温」「行動」などのデータを収集。それをAIで解析していくことで、家畜の育成モデルを再現する実証実験を行っている。エサの配合を微調整しやすくなるといった利点があるが、それだけではない。

「一頭だけ体温の高い豚がいれば、病気の可能性があるため隔離するなどの対応ができます。豚コレラなどの感染症対策としてもIoT機器を導入するメリットはあります。また、AI化はコスト削減や効率性向上だけではなく、家畜の個体識別を行うことで、脂身の厚みなどを数値化することもできます。ビッグデータを集積させることによって、より消費者が好む味や、消費者が求めている味に近づけていくこともできる」

 先述したように、畜産の分野は“勘”や“経験”といった感覚に頼るところが大きい。そのため習熟度が高くなければ、家畜の成長や集団生活の活動状況、さらには出荷のタイミングを判断することは難しい。だが、個体の成長度をデータや数値を通じて“見える化”すれば、初心者でもその判断はつきやすくなる。つまり、「大変そう」、「経験がないと難しそう」という畜産に対するネガティブなイメージを払拭することにもつながり、若手不足や後継者不足といった問題を解決する可能性まで秘めているというわけだ。

 また、フードロスという社会問題にも切り込む。日本国内の食品ロス量は、年間643万トンにおよび、“世界でもっとも棄てる国”とも言われている。コーンテックは、地域のエコフィード(食品残さ等を利用して製造された飼料)を活用することで飼料コストの削減につなげ、畜産地の地域内で資源を循環させる仕組みを構築している。醤油や豆腐などのかす、弁当の廃棄といった食品廃棄物を飼料の中に混ぜていく中で、AIによって適切な栄養価を自動で計算。安心安全な低コストの飼料を作りだすことで、食品だけでなく時間やお金のロスをも防ぐ。

「豚や牛は、売ることができるため現金と変わりません。しかし、感染症や気候などのリスクがあるため動産とみなされず、資金提供がされづらいという背景があります。AIによって、家畜の資産価値や状況をあらかじめ“見える化”すれば、金融機関や出資者も資金提供しやすくなる。畜産市場に参入するプレイヤーが増えることで、日本の家畜農家は盛り上がっていく」

 コロナによって、我々はいつ物流が止まってもおかしくない現実があることを実感した。
農林水産省によれば、18年度の日本の食料自給率は過去最低の37%。日本における第一次産業の再興は急務であり、他人事ではない。折りしも、オンライン化が加速したことで、二拠点生活や移住、ワーケーションといったライフスタイルの多様化が顕著になりつつある。農業や畜産に関心を示す人も増えてくるだろう。そして、 コーンテックはそのハードルを下げるキーカンパニーだ。

 ただ単に消費するだけではなく、参加する畜産の形がある――。時代が変わるように、畜産も変わる。“いま”を知っておくことが、次の時代を読むことにつながるはずだ。

(取材と文・我妻弘崇)
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