【インタビュー】岩井秀人が語る『いきなり本読み!』の世界

10月7日に行われた第4回「いきなり本読み!」の様子(撮影・平岩と藤田)

最近の演劇との距離感は「敵対しているくらいがやりやすい」


 現在、すでに6回行った。ある程度、形は完成している?
「完成はまだしていません。でも見世物としての安定感は多分出てきたと思う。何回かやってみて、どういう種類の面白さなんだろうと思ったら、俳優のドキュメンタリーと台本が同時に走っていて、それが2時間かけて一緒になるという構造だったので、結局大事なのは台本なんだろうな、とは思うんですけどね」

 2月に初めてやって、8月には本多劇場に進出と思いのほかのとんとん拍子ですが。
「これは運が良かったというのはなんなんですが、コロナ禍では、すごく怖がられにくいコンテンツだったと思います。まず、稽古がいらない、舞台上も等間隔で座っているだけ。俳優もその日一日だけスケジュールが合えばいい。興行的にもリスクが少ない。通常の演劇公演を打つとなると、俳優やスタッフを2カ月拘束して、といったことになる。そうなると感染を恐れる人も出てくる。チラシも刷らなきゃいけない。コロナで公演が飛んだらチラシ代で最低でも30万円くらい飛ぶ。このイベントにはそういったリスクがほとんどなかったから今年、6回もできたというところはあります。まあ、チラシについてはコロナに関係なく今年からやめていたんですけどね。もう紙のチラシはいらないですね」

 岩井が主宰する劇団「ハイバイ」は11月~12月にかけて代表作である『投げられやすい石』を東京・池袋の東京芸術劇場 シアターイーストを皮切りに長野県と佐賀県で上演した。上演にあたり岩井は「ある時期からハイバイは、というか僕は、新作を書くのをやめて、すでに上演し評価を得ている作品を、何年間というスパンでさらにブラッシュアップしていくことに決めた」と表明している。最近の自身の演劇との距離感は?
「自分の中では演劇界自体に敵対しているくらいがやりやすいなって感じです(笑)。年々分かってきたんですが、演劇って特に好きではないんですよね(笑)。まず見るのが好きじゃないし。見るのは映画のほうが好きなんですよ。映画で作れるんだったら、映画のほうが良かったけど、そのノウハウもなかったし、カメラマンや撮影監督がそばにいなかった。だけど、演劇は俳優がいれば取りあえず何とかなった。それで演劇を始めたというところはあります」

 11月の公演(『投げられやすい石』)が終わったら演劇はしばらくない?
「ちょっとそんな感じはあります。傾向としてはそう。でもいわゆる演劇以外のいろいろなことをやった分、改めて再演をやるモチベーションはちゃんと持てる気はしています。『いきなり本読み!』で自分の再演レパートリーの中の台本をやった時に参加してくれた俳優さんたちがすごく面白がってくれた。皆川さんが『男たち』をやった時に、異常に面白がってくれたりすると、“ああ、やっぱりまたやったほうがいいな”と思えましたし」

 本読みに出演した俳優から「あの作品に出たい」といった声は当然のように出そう。
「そういうパターンもあると思います。『いきなり本読み!』だと、この人との相性とか、この人が実際にどういう俳優さんかとかを、1日試すことができる。それは僕にとってもすさまじいプラスでしかない。でも、普通に“俳優さんを試したい”みたいなことをやろうとしたら、稽古場とかとって、そこに皆川さんとか松本穂香さんなんかを呼んで台本の下読みとかするわけですよね。もう、それだったらいっそのことそこにお客さん呼んじゃったほうがいいと思って。それなら相性が良くても悪くても、楽しむしかなくなるし。だから、通常なら1カ月2カ月かけないと分からないことを、たった1日で強引に“下読み”“稽古”“本番”というすべての工程を試せちゃうんです。『いきなり本読み!』を一緒に楽しめた俳優さんとなら、まあいわゆる公演はきっちりやっていけると思います」