堀潤「物語を消費するのはもうやめよう」【東日本大地震から10年】

 東日本大地震から今年で10年が経った。震災後の数年に比べ、ここ数年はこの未曾有の出来事をメディアが取り上げる機会は少しずつ減ってきているというのは否めない。かくいう本紙もそのそしりは免れない。自己反省はさておき、今回は福島での現地リポートも含め、さまざまな角度からあの震災を振り返り、そしてこれからについて考えてみたい。


 巻頭インタビューでは東日本大地震で大きく人生を変えた人、ジャーナリストの堀潤氏に話を聞く。堀氏は震災当時はNHKでキャスターとして震災報道に携わるが、その後、東京電力福島第一原発事故をめぐるNHKの報道姿勢に疑問を抱き2013年に退局。現在は市民投稿型ニュースサイト「8bitNews」の主宰を務め、さまざまなニュースの現場に飛び回っている。



堀潤氏(撮影・蔦野裕)

まずはこの10年は早かったでしょうか? それとも遅かった?


「僕自身は早く感じました。でも震災自体はまだ昨日のことのような思いがあります」


 2013年にフリーになってから時間の感覚は変わったということは?


「う〜ん…。それは変わらないですね。早かったなと思ったのは、その後も立ち止まる余裕もないほどに、次から次へとさまざまなニュースがあったからだと思います。東日本大震災以降も大きな災害はいくつもありました。海外にまで広げると災害や社会的な事件がなかった月がないくらい。新型コロナで渡航に制限がかかる前まではずっとその現場に通ってきたので、あっという間です。


 2013年に『変身 Metamorphosis メルトダウン後の世界』という映画を製作したんですが、その中で1972年に起きたスリーマイル原発の事故の現場で、原発をその後もずっとチェックし続けているスリーマイルアイランドアラートという団体の代表が“堀さん、きっとあなたの国の事故も忘れられるでしょう。この間もたくさんの災害や事件が起きている。人々は集中力を保てない時代。だからこそ、始まりの年月日をしっかりと覚えておくことが大切なんだ。なぜなら一度起きたものに終わりはないからなんだ”と言っているんですが、まさにその代表が言ったことがそのまま当てはまるような10年だったと思います。自分自身はこういう仕事もしているし、震災前から福島県の農家の方々に取材をしていて知り合いはいたので、関わりを持ち続けられていますが、そうではなかったら目の前のことを乗り越えることで精いっぱいだと思うので、風化することとか忘れられていくことは全く責められないことでもあるなとは思うんですよね」


 8bitNewsの設立にあたっては震災を風化させないということも一つの目標であった。メディア全体をみると風化していると言わざるを得ないところもあるが、8bitNewsではそこはできているという感触や手応えは?


「そういう思いで昨年『わたしは分断を許さない』という映画を作りました。今、再々上映しているんですが、この映画については当然、8bitNewsに投稿していただいた市民の映像を使っています。それは横須賀にある核燃料の開発の工場から再稼働に向けて出荷されて行く燃料の様子を地元の方が撮られた映像や、かつて警戒区域に指定された地域が今どのような状況なのかを撮ったスマホの映像などです。


 ただやはり震災関係の投稿は徐々に減ってきましたよね。それだけ人々の暮らしと被災地域がだんだん離れてきているなということは実感します。ただそれが必ずしも悪いこととは思いません。なぜなら一方で現地の関係者の皆さんの絶え間ない努力によって復興が進んできたあかしでもあるんです。だからある程度の日常というものを取り戻せてきたなという部分もあります。ただ依然として、特に原発事故で長引く避難生活が続いている福島県の震災関連死は今も毎年、数字が少しずつ上がっていて、津波や地震による直接死より関連死のほうが上回っているという状況です。孤独や孤立、そういった先行きの見えない生活の中で心身を崩していく。そうした現場に関しては復興はまだしていないと僕は思っています。だから今も国や電力会社を訴えた訴訟は続いているわけです」


 10年前のニュースを振り返ると「買い占め」「無観客試合」「スポーツイベントの中止」「大学入試の延期」「避難所感染」、停電による「在宅勤務の勧め」といった見出しが並ぶ。昨年からのコロナ禍でのニュースを見ているよう。危機の種類は違うが、政府の危機管理の体制はまるで進んでいないように思えます。


「僕が感じている範囲でいうと、原子力災害についてはあの時の経験が生かされているのかというと、原子炉そのものの耐震強度を上げるさまざまな設備や、津波防御壁の見直しや設置、電源の確保、そうしたものに関しては確かに原子力規制委員会の活動のもと強化されていったと思います。


 それが政府が進めている再稼働を後押しする政策だと思います。ただ、では本当に事故や有事が起きた時に、人々にきちんと情報が伝達されるんだろうか? それがきちんと正しい情報としてポジティブなものもネガティブなものも含めて上手に伝えられるような仕組みを持っているだろうか? それについてはやはり疑問が残らざるを得ない。


 コロナ対応にしてもそうですから。あれだけの国費を投入して、追跡確認アプリを作ったのに数カ月経って起動していなかったことが明らかになったりしている。そこに関わってきた業者がどういう基準で選定されているのかというところに物言いがついたりもした。やはり“一部の人たちの世界になっていませんか?”という疑問は浮かびますよね。



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