「エリックサウス」仕掛け人、稲田俊輔を形作った “おいしいもの”をめぐるエッセイ集

 南インド料理ブームを牽引する「エリックサウス」を手がけ、料理人かつ飲食店プロデューサーとして活動する稲田俊輔さん。“ナチュラルボーン食いしん坊”を自負し、ブログやSNSでも食情報を発信する稲田さんが、このたび初の食エッセイ集『おいしいもので できている』(リトルモア)を上梓した。南インド伝統料理とモダンインディアンが楽しめる渋谷「エリックサウスマサラダイナー」にて、稲田さんを形作った“おいしいもの”や食エッセイに対する思いに迫った。

初の食エッセイ集『おいしいもので できている』(リトルモア)を上梓した稲田俊輔さん(撮影:蔦野裕)

 昔ながらの文体と現代的な感覚が溶け合った不思議な味わいのエッセイ集です。どのように書き上げたのでしょうか。

「昔から昭和の食のエッセイ本がとても好きでよく読んでいて、それは今も血肉となっていますし、ああいうものをいつか書きたいという憧れでもありました。出版社さんから“何か書きませんか”と声をかけていただき、当初は少し硬めの食文化論を書き始めたのですが、書いているうちにどんどん昭和の食エッセイに対する憧れが前面に出てきまして(笑)。そのうち編集者の方に“思い切って一編一編に食べ物のタイトルをつけたエッセイを増やしませんか”と言われて“それだ!”と思い、最終的にすべて食エッセイで埋め尽くしました」

「人口に膾炙(かいしゃ)し」「ざっかけない」など、どこか古めかしい表現にも特長があります。

「あえてフレーズ単位で細かく文体を模写しました。たとえば『ありますまいか』という表現は、僕は伊丹十三さんの『ヨーロッパ退屈日記』でしか見たことがないんですけど、あの本には何カ所も出てくるのであえて使ったり。ミヒャエル・エンデの児童文学に出てくる翻訳の古風な言い回しをわざと使ったり。題材にはあえて普遍的な食べ物を選んで、自分にとっては当たり前なんですけど、どこかににじみ出てくるおかしな考えや受け止め方を、共感と違和感をもって楽しんでもらえているのかなと思います」

 食にこだわる親族が多く登場します。「お煮しめ」以外に稲田さんが食に傾倒するきっかけになったソウルフードは?

「母親が作る洋食の影響は大きかったです。たとえばスープひとつ取っても、台所で鶏ガラがグツグツと煮込まれているのが当たり前だと思っていました。僕としては“このスープ、味薄いな”みたいな感じでしたが(笑)、子どもの舌に対する忖度は全然なかったです。今になればその価値が分かるけれど、当時は子どもにとって食べやすい味にするといった配慮はほぼありませんでしたね」

 料理を作る習慣は幼少の頃から?

「そうですね。食に関心があったというより、とにかく物を作ることが好きでした。作れば誰かが喜んでくれたので、粘土細工や工作の延長として料理していました。家に『暮しの手帖』があって、そのレシピを見て3時間くらいかかるカレーを作ったり。もちろん自分だけではできないので、これを作りたいと相談すると、母親が一緒に作ってくれました」

 エッセイの反響はいかがでしたか?

「とりあえず親族一同が大喜びしました(笑)。あと、ツイッターでエゴサーチすると、解像度の高い表現で書評の域に達している感想が発見できて、自分でも気づかなかったことに気づいている方や的確に分析している方がいらして大変面白かったです。自分の中の憧れで文体もテーマも違うのですが、なぜかこの本から東海林さだおさんのにおいを嗅ぎ取る方が多くて、そういうものって伝わるんだという驚きと喜びもありました」

 

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