井上信治氏(国際博覧会担当大臣、内閣府特命担当大臣)に聞く「SDGsと日本。そして大阪・関西万博」

 SDGs(Sustainable Development Goals=持続可能な開発目標」という言葉もそろそろ世の中に定着してきた。中身についてもちょっとずつ分かってきた。そこからもう一段深くSDGsを知るために、国際博覧会担当大臣、内閣府特命担当大臣の井上信治氏に日本政府のSDGsへの取り組みや大阪・関西万博といった視点を通じてSDGsについて語ってもらう。



井上信治氏(国際博覧会担当大臣、内閣府特命担当大臣)(撮影・蔦野裕)

 井上大臣は大変多くの政策分野を担当されています。SDGsについて、どのように取り組まれているかをお聞かせください。


「SDGsは、2015年9月の国連サミットで採択された、2030年までに持続可能な社会を目指す17の国際目標です。日本政府としても、全閣僚を構成員とする『SDGs推進本部』を設置し、SDGs達成に向けた取り組みを推進しています。


 私は、国際博覧会担当大臣のほか、内閣府特命担当大臣として、科学技術・イノベーション政策、宇宙政策、健康医療戦略、消費者保護、食品安全など、多岐に渡る政策を担当していますが、SDGsは、これらほぼ全ての政策分野に関係するものです。


 新型コロナウイルス感染症の拡大が、世界中の人々の命・生活・尊厳に対する脅威となっていますが、例えば、健康医療戦略では“誰の健康も取り残さない”との考えの下、国民の命を守るための体制確保とともに、すべての人が適切な保険医療サービスを受けることができる『ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ』の達成に向けた取り組みを推進していきます。また、菅政権の重要政策であるデジタル化や2050年カーボンニュートラルの実現を通じて、ポスト・コロナ時代を見据えた未来を先取りする社会変革を促していきますが、鍵となるのは革新的なイノベーションです。イノベーションを推進し、規制改革など政策を総動員して社会課題の解決に取り組みます。2025年大阪・関西万博の機会も活用しつつ、SDGs達成に向けて政府を挙げて取り組んでまいります」


 大阪・関西万博の概要や、SDGsとの関係について教えてください。


「2025年大阪・関西万博は、2025年4月から10月に大阪湾の人工島・夢洲(ゆめしま)で開催されます。テーマは『いのち輝く未来社会のデザイン』。一人一人が自らの望む生き方を考え、それぞれの可能性を最大限に発揮できる持続可能な社会を国際社会が共創していく、という思いが込められています。万博のコンセプトは『未来社会の実験場』。万博会場を新たな技術やシステムを実証する場と位置づけ、多様な主体によるイノベーションを誘発し、それらを社会実装していくための巨大な装置としていきます。新しいアイデアや最先端技術に、規制改革やデジタル化を組み合わせて、例えば『空飛ぶクルマ』のように今の世の中に無いものを実現していきます。


 2025年はSDGs達成の目標年である2030年の5年前の節目です。大阪・関西万博をSDGsの達成状況を検証する機会とし、SDGs達成のその先(+beyond)に向けた方向性も示していきます。


 万博のパビリオン出展者には、SDGsの掲げる17の目標から1つ以上を選び、関連する内容を出展いただきます。万博では、未来社会を予感させるさまざまな取り組みを実施しますが、例えば、温室効果ガス排出量を実質ゼロにするカーボンニュートラルの実現に向けた再生可能エネルギーや水素の利用促進は、SDGs『目標7:エネルギーをみんなにそしてクリーンに』や『目標13:気候変動に具体的な対策を』に貢献します。また、Society5.0の実現に向けた高速大容量のネットワーク技術の実証は、高精細度の画像共有による遠隔手術や、遠隔地教育の推進へとつながり、『目標3:すべての人に健康と福祉を』や『目標4:質の高い教育をみんなに』にも貢献します。さまざまな分野の新たなチャレンジやイノベーションをショーケースとして世界に示し、SDGsの達成に向けて、世界中の行動や取り組みへと広がっていくことを目指します」


 万博の開催まで4年ですが、どのように取り組んでいきますか。


「万博の成功には国民的な機運醸成が重要です。このため、万博のテーマやSDGへの理解を深めていただくための参加型の取り組みなどを行っています。


 具体的には、子どもたちを対象とする取り組みとして、SDGsについて学びながら大阪・関西万博のテーマ『いのち輝く未来社会のデザイン』について考えてもらう『ジュニアEXPO』という教育プログラムを実施しています。大阪府内の小中学校の総合学習で実施しており、今後2025年に向けて取り組みを拡大していきます。


 また、『TEAM EXPO 2025』という参加型の取り組みを実施しています。万博のテーマやSDGsに関連して団体や個人が進めている活動を『共創チャレンジ』として、また、こうしたチャレンジに対し人・もの・お金・情報などさまざまな形での支援を希望する法人・団体を『共創パートナー』として、それぞれ推進しています。例えば中高生がロボット開発を通じて社会課題の解決を目指すプロジェクトなど、本年2月時点で69件の共創チャレンジと、42件の共創パートナーが登録されており、多岐にわたる活動が進められています。優れた取り組みは万博会場内でもその成果を披露していただくこととしておりますので、2025年大阪・関西万博とその先を目指して、より多くの方々に登録いただきたいと思います」


 どのような万博にしたいでしょうか。


「大阪・関西万博は、コロナ禍を乗り越えた先の新たな社会像を世界と共に創り、そして日本から世界へと発信する国家的プロジェクトです。日本が持つさまざまな力と強みを万博に結集し、文化・芸術など日本の魅力とともに、『いのち輝く未来社会のデザイン』を世界に示してまいります。


 会場に足を運んでいただいた皆様が、持続可能な未来社会を体感し、驚きや未来へのワクワクを感じられる万博、とりわけ万博を訪れた子供たちが50年後に振り返った時に“あの万博は良かった” “凄かった” “2025年大阪・関西万博を契機に人々の意識と行動が変わり、そして社会が変わった”そう感じていただける万博を創り上げてまいります」


 科学技術・イノベーションとSDGsとの関係について教えてください。


「SDGsの9番目は『産業と技術革新の基盤をつくろう』です。他の目標(例えば、7番目の『エネルギーをみんなに そしてクリーンに』)にも、その達成にはイノベーションが必要です。このように、SDGsの達成には、イノベーション、そしてイノベーションのシーズとなり得る科学技術を進めることが不可欠です。


 イノベーションに国境はありません。特に最近、地球温暖化などの世界規模の課題は、1つの国では到底解決できず、先進国、途上国それぞれの立場を乗り越え、世界各国が協力して共通の目標に向かって対策を進める必要があります。この考え方はSDGsの発想そのものです。


 このような世界的な潮流を受け、菅政権は、2050年に二酸化炭素の排出量と吸収量が同じになり、実質ゼロとなる『カーボンニュートラル』となることを目指しています。先月、政府が決定した『第6期科学技術・イノベーション基本計画』においても、『地球規模の課題克服に向けた社会変革と非連続的なイノベーションの推進』という項目で、SDGsを踏まえた持続可能性が確保されることを目標にする、と明示しています」


 大臣は消費者行政も担当されています。SDGsの達成に向け、食品ロス削減に関する取り組みは身近で私たちも家庭で取り組みやすいように思います。最近の食品ロス削減のための取り組みを教えてください。


「どんな仕事をしている人でも家に帰れば一人の消費者です。SDGsには12番『つくる責任、つかう責任』が掲げられていますが、私たちが、目先の安さや便利さのみに捕らわれた『今だけ、ここだけ、自分だけ』という日々の行動から転換し、他者や社会、環境に配慮した消費行動を意識する大切さは高まっています。こうした課題の中で食品ロスは最も身近な問題です。


 日本で本来食べられるにも関わらず廃棄される『食品ロス』の量は年間612万トン(2017年度)、一人当たりでは48㎏、一日におにぎり一つに相当する量の食品が捨てられています。食品ロスの半分は家庭由来であり、食品ロス削減は私たちが日々の生活でSDGsに貢献できる分野です。例えば、買い物の前に冷蔵庫の食材をチェックする、ご家族の予定も踏まえ食べきれる量だけの食事を作る、といったちょっとした工夫で家庭からのロスを大きく減らすことができます。


 政府でも、2019年に『食品ロスの削減の推進に関する法律』が成立し、私がとりまとめ役となり、食品ロスを削減するための取組を始めています。


 消費者庁でもさまざまな取り組みを進めています。例えば、食品には、賞味期限や消費期限が表示されていますが、加工食品などの賞味期限はおいしく食べられる目安の日付であり、仮にこの期限を過ぎたとしてもすぐに食べられなくなるというものではありません。賞味期限の愛称『おいしいめやす』を活用し、賞味期限を過ぎてもすぐに捨てないよう呼び掛けています。


 食品ロス半減目標である2030年度に向けさらに取り組みを深化しなければなりません。スーパーやコンビニの商慣習、公的機関の災害用備蓄食料の活用、フードバンクの支援などさまざまな課題が指摘されています。制度的な課題の検証に取り組んで行きます」