羽田圭介インタビュー “三十代の初体験”に「自分が思っている自分と、実際の自分は違う」

「スクラップ・アンド・ビルド」で第153回芥川賞を受賞し、幅広い分野で活躍する羽田圭介さん。雑誌「週刊女性」の連載をまとめた最新エッセイ集『三十代の初体験』(主婦と生活社)では、31歳から4年間で挑戦したありとあらゆる初体験を綴っている。怒涛の初体験を通して作家が得た気づきとは?

最新エッセイ集『三十代の初体験』(主婦と生活社)を上梓した作家の羽田圭介(撮影:蔦野裕)

『三十代の初体験』、面白く読ませていただきました。連載のきっかけは?

「6年前、芥川賞を受賞してすぐ30歳になりました。いきなり忙しくなってから1年経った頃に『週刊女性』の編集者から“エッセイを書きませんか?”という依頼がきて、そういえば何となくずっと興味を持っていたけどやっていなかったこと、やろうやろうと思ってまだやっていないことが意外とあるなと思って、“初体験”をテーマに連載しようということになりました」

 毎回、体験することはどのように決めていたのでしょうか。

「Wordファイルにずらっとリストを書き連ねて、それを足したり削ったり、ないものを編集部から提案されたり。準備したことだけでなく、たまたま初体験したことも書いています。ジェルネイルや高地トレーニング、十二単を着るなど編集者から突然振られて“何で?”というものも(笑)」

 印象に残っている初体験はありますか?

「何ですかね……(とページをめくり)、『パーソナルカラー診断』は、それまで“ちゃらちゃら服にこだわってもしょうがないや”と思って、コーディネートを考えなくていいという理由でモノトーン系の服ばかり選んでいたのですが、あるテレビ番組の撮影で待ち合わせした女性スタッフが、僕に気づいているのに声をかけられなかったことがあって、どうも自分に威圧感があるらしいことに気づいたんです。

 カラフルな服を着ていれば違ったんじゃないかと思って、自分の肌の色に合う服を選んでもらおうとパーソナルカラー診断を受けたら、どうやらサマーという系統で、ペールトーンのピンクなど淡い色が似合うことが分かった。カラーコンサルタントの方と一緒に買い物に行って、エッセイ上では迷って買ってないんですけど、実際は後日お店で今日着ているライダースジャケットを買いました(笑)。

 結局、このジャケットも黒なので色は関係ない。“この色が似合う”と言われても黒い服が好きだから無視して買っていて、実はかなりファッションにこだわりが強いことが分かりました。一番分かりやすかったのが『パーソナルカラー診断』ですが、初体験を通して自分が思っている自分と、実際の自分は違うという発見の連続だったなと感じています」

 現在も続いているものはあるのでしょうか。

「あんまりないかもしれませんが、強いていえば『人間ドック』ですかね。あと、最近また『瞑想』をやり始めました。再開したばかりで雑念は振り払えていないのですが、振り払っていいのかどうか分からないというか、小説家は雑念があったほうがいいんじゃないかとも思うので、迷いながらやっているところはありますね。

 本にまとめるにあたって連載原稿を70本くらい読み直したのですが、我ながらその時ハマっている食事のことばかり書いているなとか(笑)、魚に対してはテンションが上がるんだなと思いました。

『料理専門の家事代行』には感動しました。とはいえ、“たまに大量に料理を持ってくるうちの母親に作ってもらえばいいや”と思って、実際に自分で頼むまでには至ってないのですが」

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