すべてを知る男、いとうせいこうさんの博識かつハイセンスな場面 in 世界動画ニュース〈徳井健太の菩薩目線 第284回〉

平成ノブシコブシ 徳井健太

“サイコ”の異名を持つ平成ノブシコブシ・徳井健太が、世の中のあらゆる事象を生温かい目で見通す連載企画「徳井健太の菩薩目線」。第284回目は、笑いと音楽の親和性について、独自の梵鐘を鳴らす――。

 世界的にバズっている「ホイットニーチャレンジ」という動画をご存じでしょうか?

 ホイットニー・ヒューストンの「I Will Always Love You」――映画『ボディガード』で知られるこの名曲は、サビ前に‟溜め”の静寂があります。そのあとに、「エンダ~~ッ」と歌い上げるわけですが、このタイミングと同時に机や太鼓などを叩けるかを競うネタが、「ホイットニーチャレンジ」です。

 なんでも、あの溜めは変拍子らしく、かなり拍を取るのが難しいらしい。そのため、見た目こそ簡単そうに見えるものの、実際の待ち時間の感覚は難しく、ドンピシャと思いきや、早すぎたり遅すぎたり叩いてしまう。その滑稽さが世界的に大ウケし、今では学生、芸能人、スポーツチームまで挑戦するほど人気になっているそうです。

 その模様を、『楽しく学ぶ!世界動画ニュース』で取り上げたのですが、たしかにシンプルだけど面白い。しかも、いろいろな失敗事例があるため、人それぞれの滑稽さがある。特に、東南アジアのおばちゃんと、その旦那さんの「ホイットニーチャレンジ」は、あらためて笑いの奥深さを感じるものでした。

 おばちゃんは、片手にお玉、もう片方に鍋を持っていて、「エンダ~~ッ」のタイミングでそれを叩こうとする。その様子をなんとなく眺めている旦那さん。いざ曲が流れ、おばちゃんがチャレンジすると、「エンダ~~ッ」の前で叩いてしまい大失敗。それを大笑いする旦那さんに、怒りを感じたおばちゃんは、瞬時に持っていたお玉で頭を殴り、旦那さんが「痛ぇ~~ッ」と叫ぶ。

 文面にすると、何も面白くないことに驚きますが、これがお笑いの教科書みたいなムーブで勉強になる。今一度整理すると、

①「エンダ~~ッ」の前で叩いてしまい大失敗
② 大笑いする旦那さんに、怒りを感じたおばちゃんがお玉で殴る
③旦那さんが「痛ぇ~~ッ」と叫ぶ

 このような一連の流れがあるわけですが、最後に「痛ぇ~~ッ」と叫ぶや、おばちゃんは持っていたお玉をマイクに見立てるんですね。これを④としましょう。僕と小峠さんは、特にこの④がすごいと絶賛した。芸人の中で、とっさに④ができる人がどれくらいいるんだろうと。このムーブは欧米的なエンターテイナーの動きに感じたので、日本の芸人の多くはそこまで機転が効かないのではないかと話したわけです。

 ところが、その話を聞いていた共演者の堤伸輔さんや稲垣えみ子さんは、③がすごいという。「だって、『痛ぇ~~ッ』と『エンダ~~ッ』のタイミングが奇跡的に合うってすごくない?」と。VTRを見直すと、たしかにぴったりのタイミングで痛がっている。結果的に、「ホイットニーチャレンジ」が成功しているんです。僕らは、④の機転に目がいくあまり③に気が付いていなかった。逆に、堤さんたちは④の機転のすごさにピンと来ていない。一つのお笑いを取っても、受け取り方や感受性はさまざま。「ホイットニーチャレンジ」が世界的にバズっているのは、こうした受け取り方の多様さがあることも一理あるのではないかと思うんです。

 そんな中、いとうせいこうさんですよ。せいこうさんだけは、②③④すべてが完璧なタイミングだったことに気付いていた。日本語ラップのパイオニアにして、笑いにも精通するせいこうさんだからこその見聞色。裏を返せば、③④を同時に理解するのは、音楽にも笑いにも高いアンテナを持っていないと気が付かない。シンプルな動画に見えて、笑いのセンス、音楽的感度、いろいろな角度がある。そして、笑いと音楽は親和性が高いのだと再認識した次第です。

 古くは、クレイジーキャッツもそうだし、ザ・ドリフターズだってそう。例えば、前者はアメリカの進駐軍相手に演奏していたため、言葉ではなく音で笑いを取り、その経験がのちのジャズ・コントの土台になったと言われる。後者も音楽的な間を大事にしていたと言われ、それこそ志村けんさんが自身のコント番組で、音楽畑である田代まさしさんや桑野信義さんを起用したのは、間やテンポを把握しているからやりやすかったといった理由もあると聞く。

 そう考えると、あらためて音楽的な要素と笑いの要素がミックスされたエンタメ的なコンテンツが、随分と減ってしまったことに気が付くというか。『THE夜もヒッパレ』とか『タモリの音楽は世界だ』とかあったじゃないですか。あのおばちゃんの「ホイットニーチャレンジ」なんて、まさに‟夜もヒッパレ”的世界観。

 僕らが知らないだけで、きっとこの日本にも笑いと音楽のハイミクスチャーなものがたくさんあるんだろう。そういうものを観に行くことも大切だとあらためて学んだ、遠く離れた国からのチャレンジでした。

【プロフィル】
1980年北海道出身。2000年、東京NSC5期生同期の吉村崇とお笑いコンビ「平成ノブシコブシ」結成。「ピカルの定理」などバラエティ番組を中心に活躍。最近では、バラエティ番組や芸人を愛情たっぷりに「分析」することでも注目を集め、22年2月28日に『敗北からの芸人論』を発売。「もっと世間で評価や称賛を受けるべき人や物」を紹介すべく、YouTubeチャンネル「徳井の考察」も開設している。吉本興業所属。
公式ツイッター:https://twitter.com/nagomigozen 
YouTube:https://www.youtube.com/channel/UC-9P1uMojDoe1QM49wmSGmw
講演依頼:https://www.speakers.jp/speaker/tokui-kenta/
     https://www.sbrain.co.jp/keyperson/K-19533.htm
     https://youtu.be/VqKYn26Q2-o?si=M7p7KLIyjLBrgIk0