FC今治・岡田武史が描く “心の豊かさ” のまちづくり――「アシックス里山スタジアム」の現在地
愛媛県今治市。サッカーJ2・FC今治の本拠地「アシックス里山スタジアム」が、今年7月、約8900人の規模へと増席された。約5300人収容だった施設に、なぜ今、座席を増やすのか。そこには、元日本代表監督・岡田武史氏が掲げてきた “心の豊かさ” という理念と、それを地道に支えてきた地元企業の存在がある。地方創生という言葉が使い古された今だからこそ、このスタジアムの歩みには、東京で働く私たちにも効く処方箋がある。(全2回のうち第1回/後編に続く)
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岡田武史会長と矢野将文社長に聞く、FC今治12年の現在地
「(J1に)昇格するんじゃないかな」──今シーズンについて開幕直前にそう即答したのは、今治.夢スポーツの岡田武史会長だ。昨シーズン後に主力選手が移籍し、百年構想リーグでは苦戦を強いられたが、監督交代とポイントを絞った補強を行い「そこそこ充実してる」と手応えを口にする。
2014年、岡田会長がFC今治のオーナーに就任した当時、この街に地元密着型のプロスポーツチームはなかった。2017年に約5000人収容の「ありがとうサービス.夢スタジアム」が完成し、2023年には “365日人が集い、にぎわう” という理念を掲げた今治里山スタジアムが開業(同年、アシックスと命名権契約)。今回の増席は、その理念をさらに一歩進める節目となった。
「目の前のことをがむしゃらにやってたら、気がついたら12年経っていた」。本人はそう振り返るが、道のりは決して平坦ではなかった。
クラブ経営を担う矢野将文社長は、その手法を「従果向因(じゅうかこういん=結果から原因に向かうこと)」と呼ぶ。通常は原因に従って成果に向かう「従因向果」が定石だが、岡田会長はまず大きなゴールを掲げ、そこから手段を積み上げていく。「バーンと大きく掲げないと人の心は動かない」というのが持論だ。

インタビュー中、岡田会長と矢野社長の軽妙なやり取りが終始絶えなかった。「僕はもう思いつき経営だから、”よし、これやるぞ” って言ったら、こいつを始め、みんなパタパタパタパタ動く」と岡田会長。ただし、その “思いつき” のすべてが実現するわけではないらしい。矢野社長が「僕も、実は聞き流していることがたまにあるんですよ」と明かすと、岡田会長は心外だという顔で笑った。
岡田会長が「ワインを作りたいから、ブドウの木を植えよう」と言い出した時も、矢野社長は最初は聞き流していたそうだ。「無視したわけじゃないですよ、一応頭には入れていたんです」と矢野社長は笑う。しかし、数カ月後、その話を聞きつけた社員の一人が実際に苗を植え始め、今では畑いっぱいにぶどうが実っている。「なんでか知らないけど、気づいたら形になってた」と岡田会長。思いつきを誰かが拾い、いつの間にか実現してしまう――そんな掛け合いの積み重ねが、この12年を支えてきた。


