【徳井健太の菩薩目線】第6回 ノーサイン野球!? 自主性は親が伸ばすから他のことを教えてあげてくださいよ

“サイコ”の異名を持つ平成ノブシコブシ・徳井健太が、世の中のあらゆる事象を生温かい目で見通す連載企画「徳井健太の菩薩目線」。第6回目は、甲子園で話題を呼んだ“ノーサイン野球”に鑑みる教育論について梵鐘をつき鳴らす――。

 今年の甲子園で話題をさらった常葉大菊川高校の“ノーサイン野球”、個人的にはどうかなって思うんだよね。

 知らない人のために説明すると、一昨年、静岡県の強豪校である常葉大菊川高校の新監督として高橋利和監督(32)が就任して以降、どんな場面でも選手自身に状況判断をさせるノーサインの野球を指導していたの。選手間のコミュニケーションや個々の判断力を養うという、それまでの高校野球では考えられない新指導として注目を集め、今回の甲子園ではベスト16に進むなど、そこそこ活躍したんだよね。

 ところが、ベスト8を逃した近江戦では、俺が見る限り歯が立たなかった。そのときの選手の表情が忘れられないの。なんとか笑おうとしているんだけど、どこか心細そうで、どうしていいか分からない感じだったんだよなぁ。防戦一方で、攻めあぐねている状況を見ちゃうと、俺には監督的立場にある人が「教育や指導を放棄してるんじゃないの?」って見えてしまったんだよね。

 おそらく監督自身、そういった批判もあることは承知で取り組んでいるんだろうけど、安易に「自主性」「自己判断」って言葉を使わないでほしい。だって、彼らはまだ高校生だよ? 社会人でもない彼らが自主的に判断した世界って、一部の天才を除いて、その後にどうつながるのか謎すぎるでしょ。天才なんか一握りしかいないのに、それを全員に徹底して行っていいものなのかなぁ? 才能がない奴は、どうするんだって話。

 例えば、芸人を目指している高校生に、俺が何かを教えるとする。正直、考えただけでも恐ろしい! ましてや、「それでいいと思うよ。君たちが面白いと思ったことを自分で判断してやり続けなさい」なんて、無責任すぎて言えるわけがない。ロシアとかで最強暗殺部隊を作るために、18歳以下の選りすぐりの気鋭たちを前にして、「自立しろ。さもなければ死が待ち構えている」とか言うんだったらイメージもできるけどさ。

 仮に、それで自主性を伸ばせたとする。でも、野球じゃん。高校野球の成功体験を、その後の人生で活かせるかどうかなんて分からないし、社会に出ると高校野球のようなルールはない。判定が余裕で覆るような理不尽だらけの世界が待っているわけ。

 人生でさ、大切な物って学校以外で教わるわけですよ。(故郷の)北海道別海町の高校でも教わらなかったし、NSCでも笑いのことは何も学んでないよ、俺。結局、外に出て教わることの方が圧倒的に多い。ノーサイン野球によって人間的な何かを学ばせようとするのは、教職者の思い上がりだと思うな。



親がやることにしゃしゃり出てこないでほしいよね

 ただ、こういう教育にチャレンジすることは否定しない。でも、一人の親として、自分の子どもがそんな先生や指導者には当たってほしくないなって思うだけ。俺は、自分の子どもには、きちんと勉強を教えてくれる先生や、状況によって戦術を授けてくれる監督と出会ってほしい。「全部、自分で考えろ」なんて植え付けられたら、社会に出た後も、「すべて自分で解決しなきゃいけない」みたい強迫観念に陥りそうで怖いじゃん。

 昔は、すごい怖い監督や責任者がたくさんいて、水すらなかなか飲めないから隠れて便所の水を飲んだりした時代があったわけじゃん。それは究極的な状況だとしても、切羽詰まったときにこそ、隣にいる奴に対して戦友感とか友情って芽生えるものだと思うんですよ。みんな自由でさ、お前らで考えろなんて言われたら、若いときに覚えておいて損のない“反骨心”すら芽生えない。勝手が良いよなぁ~。

 ノーサインでありながら、「とにかく笑顔を絶やさない!」ってことを謳い続け、挙句、「子どもたちは成長します!」なんて言いきれるのは、自分の都合の良い人間を育てているだけにしか見えないの。新社会人一年目にして、完璧に社歌を歌いこなせるような人間を育てるなら最高のコーチングかもしれないね。

 あとさ、子を持つ親から言わせてほしいのは、「自主性なんてものは、我々親が教えるからしゃしゃり出てくんな」ってこと。おこがましいんだよなぁ。きっちり、スポーツで勝てるノウハウ、勉強が嫌いにならないノウハウを教えるのが、アナタたちの役目じゃないんですか!? ねぇ? もしそこに、ユーモアがあるような指導者だったら最高だよね。

 ノーサインは面白いよなぁ。ただ俺は、失敗前提だと思ってるから。いつか大人になった彼らから、「ここがダメだよノーサイン!」の話を聞きたい。子どもたちは、先生や指導者を選べないの。選べないのに、極端な指導をするのってどうなんだろね? それも俺たちの自主性に委ねられているのかなぁ~。

◆プロフィール……とくい・けんた 1980年北海道生まれ。2000年、東京NSC5期生同期・吉村崇と平成ノブシコブシを結成。感情の起伏が少なく、理解不能な言動が多いことから“サイコ”の異名を持つが、既婚者で2児の父でもある。よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属。



※【徳井健太の菩薩目線】は毎月10・20・30日更新です。